第20話 ヒーローもどき

「てめぇを、ぶっ飛ばしに来た」


 ボロボロになり、動けないパンジャンやレンフィールド。そして、完全に体の制御が出来なくなり倒れこみ気絶したタスラナ。まあ、ここに来るまでのことは分からないが、しっかりと見て大体のことを察することが出来た。


「パンジャンの自爆か……」

「そんなわけないじゃないですか! 本気で言ってるなら、ルドラさんからやりますよ」

「まあ、それだけ元気なら大丈夫だろう」


 余裕があるように見せるためにゆっくりと歩き、パンジャン達とタスラナの間に割って入る。


「駄目ですよ、ルドラさん。あなたじゃ、勝てません!」

「何言ってやがる、俺が勝ち目がないのにわざわざ戻ってくるわけないだろ。お前らを一度おいて逃げようとした男だぞ」

「で……、でも」

「いいから黙ってろ。たまには、俺も出来るってことを教えておいてやる」

 

 そう告げると、パンジャン達に背中を向け再び歩み始める。


「なんだ、あたいにはお前に恩があるしここで見逃してやってもいいぞ?

「そうだな、俺だって逃げたいけど……。決めちまったからな」


 パンジャンは他の兵器少女達が強すぎ、ポンコツだの珍兵器だのと呼ばれ続け、それでもめげずに人のためと頑張り続けたパンジャン。

 俺が、ヒーローの柄じゃないなんて自分が一番分かってる。弱いし、責任感もないし、正義感なんて持っての他だ。だが、それでも俺は……、今日限りのヒーローだ。

 力いっぱいに呼吸をし、高らかに宣言する。


「俺がてめえ、倒すってな!」


 ヒーローもどきだって魔王軍の幹部を倒せるってことを見せてやる。周りの評価なんて関係ない、自分自身が本当に分かっていればいい。自分の実力、それを笑うなら見返せばいい。どんな方法を使おうが、それが何にも代えられない真実だ。魔法使いの落ちこぼれ? 兵器少女の落ちこぼれ? 

 そんなの、事情も頑張りも何もしらない噂を信じる馬鹿どもの虚言だってことをことを代わりに俺が証明する。


「ふーん、ルドラががあたいを? ははははは、お前があたいに勝てるわけねぇだろ」

「イキるものそこまでにしたら、フレイ。種族で、強いとかそんなことを考えるんじゃねえよ」

「なんだ、本気であたいを怒らせる気か」

「まあ、そうだな。俺はお前に嘘をついていたからな」

「嘘?」


 キョトンとした表情で俺のことを見るフレイだが、こいつは一度信じたやつは疑わないタイプなのか?


「俺が、フェンリルを殺したんだよ」

「てめえが? 本当に」

「てか、それをパンジャンは何度も言ってただろ? それなのに、一度信用した奴にはとことん疑わないんだな。これだから、脳筋のバカは困るぜ」

「…………」


 こう煽っておけば、下手にパンジャンへと攻撃することは無くなるだろう。


「はっはっは、そうかよ! なら死ね!」

「おいおい待てよ。どうしてそんなにすぐ、攻撃しようとするんだ? これだから脳筋は困るって言ってんだよばーか」

「ああ?」


 血管がはち切れんばかりに、浮き出ており今にも全力で殺しにかかってきそうだ。


「おいパンジャン。あいつがどんな魔法を使えるか教えろ」

「ええ!? 今ですか? というか、なんでこのタイミングで、あの人ガチギレしてますよ」

「まあ、あんなやつは放っておけ。ここで襲ってくるような奴は、脳筋どころか全身筋肉のクソだ」


 と、わざと大きな声で聞こえるように言っておく。昨日会った時に、何となく性格は把握してるからな。


「それであいつはどんな魔法を使うんだ」

「えっと、大きな火の玉のような魔法を使っています。あとは、変な闇みたいな物を辺り一面に撒き散らしてました」


 大きな火の玉? それに、巻き散らせるような魔法……。


「それ以外は無いのか?」

「融合魔法を使ってましたが、それ以外は何も……」


 なるほど、やっぱりそうか。おかしいと思ったが、俺の仮定はこれで確信に変わった。


「もういいのか?」

「ああいいぜ。さぁ、こいよ。てめぇの脳みそでも我慢できたようで安心したぜ」

「絶対にぶっ殺す」


 展開された赤い魔法陣から放たれる豪華の炎が俺めがけて襲い掛かる。


「ルドラさん!」


 しかし、その魔法は俺に触れると同時に消えてなくなってしまった。


「な⁉」


 それに、動揺したフレイの隙をつき接近する。


「なめるなよ!」


 権能によって、大きく膨れ上がったその魔法はことごとく俺に触れると消えてなくなってしまう。


「何が起きている……」


 そして、俺は拳が届く距離までたどり着き右手に展開しておいた魔法を叩きこむ。


「『レスコントロール・テンペスト』」


 激しい爆発とともに、俺とフレイはその爆風に巻き込まれ後ろへと吹っ飛んでしまう。


「オヴぁは」


 壁にぶつかって、勢いが止まる。体の骨が何本か折れる気がするが、今はその痛みに苦しんでいるわけじゃない。


「よくもやっくれたな……、てめぇ」


 パンジャン達のダメージもあり流石のフレイも体がボロボロになっいるようだ。


「なんだ、その程度でこのザマか? なぁ、今どんな気持ちだ? 散々バカにしてきた人間ごときにここまでボコボコにされてよ? おら、なんか言ってみろよ」

「どんな権能か魔法を使っているか知らないが……。まさか、お前ら相手に奥の手を使うことになるとはな」


 フレイは誰が見ても分かるが、瀕死の状態だ。そんな奴が、手加減をするはずもない。これで、やつの真の姿が拝めるってもんだ

 プレイは指先を噛むと、体から光を放ち少しずつ身体が変化していく。頭から二つの耳が生え、尻の辺りから尻尾。そして、一番の特徴的な物は、失ったはずの片腕が再生しているという点だ。


「さて、答え合わせだ。パンジャン、なんで俺とお前がぶつかったときに爆発しなかったと思う?」

「え……? あ、私の胸を触った時ですか。思い出したら腹が立ってきました。確かに言われてみれば、あの時なんで爆発しなかったんでしょう」


 常に俺は、爆発したら怪我をすることではなく、あくまでも周りの被害について考えていた。その理由は、明白で――――


「これが俺の、権能の力だ」


 これこそが、俺が持つたった一つの権能。自分に触れた権能を無効かする力だ。とはいえ、これは俺固有の権能という訳でもなく。俺の家系なら、持つことが出来る権能だ。


「さて、さてこれからどうするんだ?」

「一部の獣化が解けたところで、再生能力は変わらないんだよ!」


 後ろへと身体を仰け反らせ、すぐさま反撃を仕掛けてきた。


「ちっ! これだから、戦いなくねーんだよ!」


 右手に権能の力を発動させ、フレイの拳と俺の拳が再び激突する。フレイは、権能が無くなる覚悟で、全力で襲いかかって来るが……。


「これが俺の権能の力だよ!」


 フレイの体はみるみるうちに、獣耳や尻尾が無くなっていく。


「どういう事だ、一体なにが!?」


 流石のフレイにはこれに驚き、後ろにたじろぐ。


「ルドラさん……」

「ああ、これが俺の権能の発展型だ。相手に権能の能力を自分で発動させながら、俺の魔力を相手に殴るかして流し込んでやるとこいつのように権能が使えなくなるっていう能力だ」

「んなの、ありかよ……。グハッ」


 今までの蓄積されたダメージが、回復出来ず地べたに倒れ込んだフレイ。


「さて、こういう時は念の為に徹底的にやった方がいいよな?」

「ええ、ルドラさん。相手は戦意喪失してますよ!?」

「何言ってんだ、相手は魔王軍の幹部だぞ。まだ、どんな奥の手があるか分からない。だからな、おいパンジャンを出せ」

「ええ!? どうする気ですか。もう燃料がないんですけど」

「分かってるよ、水ならタスラナの持ってたチート袋でも使って補給しろ」

「は、はあ?」


 パンジャンが補給している傍で、フレイの傍に立ちじっと見守る。まあ、ここから何かするような体力なんてないとも思うが一応念のためだ……。


「一応補給は出来ました、これでいいですか?」


 今作り出した『パンジャンドラム』を三つほど俺の手元に渡してくる。

 『パンジャンドラム』は権能で作られているため、普通なら消えるはずなのだが、身体の中の別の権能により骨格などを作っているせいか消えない。そのため、こうやって手で持っている間は爆発することはないが、投げてやると通常通り爆発することが出来る。つまり何が言いたいかと言うと、


「お前は動けないし魔法も権能も使えない。だが、こっちは一方的にパンジャンを投げ続けられるんだよ」

「なんだと……!?」

「さーて、どこまで耐えられるかなぁ?」

「ルドラさん、それは完全にあっち側のセリフです」


 悪役で結構、小悪党で上等。


「負けを認めるまでパンジャンを爆発させまくってやるからな?」


 手に『パンジャンドラム』を持ち、じりじりと近づき圧をかけ続けると……。


「負けで、負けでいいから! それを、おろしてくれ! 悪かった、認める俺も悪かった!」

 

 ついにフレイの降伏の末、いざこざが終了した。負傷者は三名だが、レンフィールドはどうにか回復もでき、パンジャンも水やら紅茶何とかなる。実質、タスラナだけの負傷で済んだわけだ。

 そして、再度交渉が始まるのであった。

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自爆特攻!? パンジャンドラムちゃん! ちょこふ @tyokohu

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