第19話 ルドラさんですよ

「あれ、なんで俺寝てんだ」


 体全身に痛みを感じるが、誰かに襲われたか? いや、タスラナ達が居ないところをみると、先に交渉にでも行ったのか?


「はぁ、どうせいい飯でも食いながらやってんだろうな」


 今から行っても間に合うかもしれん。少しくらい飯を貰いに行くか……。

 軽く持ち物を整理した後、部屋から出る。場所は教えられていないが、だいたい場所は分かる。どうせギルドの息がかかった、飲食店だろう。

 前に行ったことがあるから分かる。一応この宿泊施設から、数分で着くはずだ。まあ、後で何を言われるか分かったもんじゃないが……、何とかなるか!



***



 特に何も気にせずに、店の近くまでやってくると、突然店の中から爆発音が聞こえてきた。


「はぁ? 何が起きたんだ」


 だが、店の近くには全く人が居ない。もう既に逃げたとは思えない程だ。きっと、店のそばの家はあくまでも建て前だけで、全てギルドの所有物なのだろう。


「ちっ、何がどうなってんだよ」


 そばから、店の中をのぞき込む。そこに居たのは、身体がボロボロになりながらも立ち上がるフレイと、瀕死のレンフィールドとタスラナ。そして、唯一意識があり生き残っているパンジャン。


「おい、やっぱあいつ魔王軍の者かよ」


 あのタスラナが負けるなんて事があるのかよ。あいつがこっちの最高戦力だぞ。これは、逃げた方がいい戦いかもしれんな。


「……」

「……」


 何を言ってるか聞こえねぇ、一応魔法で聞いてみるか。


『ヒーア・ラドル』


 黄系と緑系の融合魔法で、まあ一言で言えば遠くの声が聞こえるようになるのだ。もちろん弱い魔法なので、色々と制限もあるがそれは別の話にしよう。


「それで、残り一人だぞ。パンジャン、どうするんだ?」

「う……」

「なんだ? まだ、誰か助けに来るとでも思ってるのか?」


 助け? こんな状況で誰が助けに来るなんて言うん……、いや俺の事か。

 俺が助けるわけないのにこいつは、一体何を言っているんだか。


「いいえ、絶対に来ます!」


 来るだと? お前はこの何日間、俺の何を見ていたというんだ。おれがそんな出来た人間じゃないなんてわかっているだろ。むしろ俺は、どちらかといえば悪役側だ。そっちの方が自由で生きれるし、俺にあってる。


「まあ、だがよ。てめえはなんであたいのフェンリルを殺したんだよ」

「殺した? 私は殺してませんが」

「てめえ! まだそんな言い訳が通じると思ってんのか!」

「そういうことじゃありません! ただ単に、私は殺してませんしフェンリルが先に襲ってきたからですよ! それに、私がこんな私がフェンリルを殺せると思いますか」

「思わねえな。お前みたいな、たった一人で何もできない。仲間が居ても誰も助けようとしない……。そんな、兵器少女なんて見たことなかったが。あの最強の兵器少女の中でも落ちこぼれの役立たずなんていたんだな。いいや、珍兵器って言えばいいか?」


 珍兵器……、まあ間違いないな。あいつは確実に無能だ。誰がどう見ても、無能無能無能。下手に衝撃を与えると爆発する可能性もあり、さらには自分が出す『パンジャンドラム』もほとんどゴミのような性能。決めつけは、パンジャンの頭の悪さだ。これ以上なんて言えばいいんだか。


「分かってますよ……。でも、だからこそ私だって努力してるんです。でも、どんなけ頑張って考えてもどう頑張って戦っても悪い方向に転がってしまう。それこそ『パンジャンドラム』のように……。私は、分かってるんですよ! 自分が珍兵器のポンコツだってことくらい……。私より後に開発されたみんなは、あんなに活躍してるのに、なんで私だけ。こんなに弱いんですか! 弱くても頑張ってきた、頑張っても頑張っても評価されない。それでもめげずにやっても、生まれた最初から持っている才能にはどう頑張っても勝てない。それが、私なんです。それが『パンジャンドラム』という存在なんです!」

「だからどうしたって言うんだ」


 パンジャン……。お前、本当はちゃんと考えてたのか。何も考えずに行動してきたかと思ったが。


「私は、証明したいんです。生まれてきた能力だけでなく、鍛錬を積んで努力すれば天才にも負けないってことを!」

「だから、どうしたってんだよ!」

「私は、こんな所で負ける訳には行かないんですよ!」


 パンジャンは、手に『パンジャンドラム』を出現させ、投げつける。それが、フレイの目の前で爆発すると、よろけその隙をついて『パンジャンドラム』を何個も生み出し、一斉に火をつけて動かす。


「お願い、これから何個でも変な方向に行ってもいい! だから、今だけは!」


 パンジャンの必死の思いが通じたのか、『パンジャンドラム』は全てフレイへと向かう。


「なんだ、なんだってんだ!」


 目をやられ、状況が掴めないフレイはパンジャンドラムを全て食らう。


「クッ……」

「これでトドメです!」


 パンジャンは、モードチェンジしてフレイと激突する。大きな爆発が起き、ここまで衝撃波が飛んでくる。堪えながら様子をみかけると、店は半壊していた。耐久力に自信のある店も流石に耐えきれなかったようだ。

 

「で、どうなってんだ」


 砂煙から出てきたのは、血反吐を吐き立ち上がるフレイ。パンジャンは、自爆特攻により倒れてはいるが、どうにか意識をたもっている。


「ハハ、これが私の権能ですよ」

「ちっ! クソッタレがよ。死にそうになったじゃねえか」


 倒れ込むパンジャンに足蹴にする。もう、ほとんど燃料もないせいか、その衝撃で爆発しない。


「おいおいおい、なんなんだよ! このこの!」

「グハッ、おげぇは!」


 何度も何度も、動けないパンジャンを攻撃する。


「フェンリルちゃんの恨み! 苦しみながら、死ぬべきなんだよ」


 ……、そうか俺のせいでパンジャンは、殺されかけてるのか。ちっ、胸糞悪いが正直ありがたい。あそこで、もし俺だなんて言ったら殺されてた。

 さて、帰るか。この感じを見るに、殺そうとしてるのはパンジャンだけだ。馴染みのある、タスラナは生きて帰れるだろうし問題ない。いつもと何ら変わらない、日常へと戻るだけだ。パンジャンとは数日しか会ってないんだからな。


「おい、まだ抵抗するのか」

「はぁ……はぁ……、へへへ。少しはルドラさんの役に経たないと。少しでも私は時間稼ぎ……して……見せるんです……」


 その言葉を聞いて、思わず足が止まる。ちっ、そんな名前を言うなよ。もう頑張るなよ、楽になれよ!


「ハハ、私はルドラさんを信じてますから。なんだかんだ、ボロクソ言ったり置いて帰ったり仲間を見捨てたりしようとするルドラさんですが。なんだかんだ無理やり理由を付けて、助けに来るルドラさんですから。私はこれからも、ルドラさんやレンフィールドさん達と一緒に馬鹿やりながら、皆に落ちこぼれでも努力すれば強くなれる事を知らしめてやりたいんです!」

「遺言はそれでいいのか?」


 俺を、やれやれ系主人公だとでも思ってんのかパンジャンは……。まぁ、だが。フレイの思い通りになるのも面白くねぇよな!

 物陰からひっそりと立ち上がり、大きく息を吸い……、


「おい、フレイ!」


 それを全て使い切るかのごとくお腹に力を入れて大声で叫んだ。

 流石にその声に気づいたフレイはこちらへと振り返る。


「なんだお前? って、ルドラじゃないか。いや、昨日ぶりだな元気してたな。お前が情報をくれて助かったぜ」

「そうだな」

「こいつが、お前が本当あたいのペットを殺したとか言ってやがったぞ」


 少しは俺だって罪悪感はある。俺が言ってこいつがこの行動をしたのだから。その行動の責任を取るのも俺の役目ってもんだ。


「そうだな、フレイ」


 俺は、自分が確実に勝ち目の無い敵には基本的に喧嘩を売ったりしない。だが……、


「てめぇを、ぶっ飛ばしに来た」


 俺は今日、勝てる相手の魔王軍幹部フレイへと喧嘩を吹っかけたのだ。

 

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