第6話

アキラからメールが来たのは数時間前だった。

川が見える大橋に直ぐに来て欲しいということだった。

雨は降っていたが、待ち合わせの場所には屋根があったので濡れる心配はなかった。


「いきなり呼び出してごめんな」


「いや、全然いいよ。暇だったし。で、急にどうしたの?」


 アキラとの距離は初めて会った時より確実に近付いてる。

こうやって話をするのもドキドキする。


「あんな、ボクやめようと思うねん。夢追いかけるの」


「えっ?」


 あのアキラからは発された言葉とは思えない言葉が口から飛び出た。

ワタシは、最初その言葉が信じられなかった。


「急にどうしたの?」


「急やあらへん、よう考えたよ。いや最初っから分かってた自分に才能がないのも大口叩いていたのも自分を隠すためや。でも、数日前に弱い自分が出て来てん。そっからはダムが決壊したみたいに色んな感情が溢れてきた。いつもなら大丈夫やった。でもキミのせいや」


アキラは全てを諦めた表情でワタシを見つめてきた。 


「ワタシの……?」


「キミが濁った目からキラキラした目になっていって、自分がみすぼらしくなってくるねん………」


 アキラは眉を潜めて苦しそうにしていた。


「ごめんな、こんなん言ってもしゃーないねんけど。でもボクはキミと一緒に居たらダメなんや。キミもボクと一緒に居たら腐ってしまう。それはアカン。キミはキミの夢を追いかけなくちゃいけない。だから、ここでお別れや」


「ワタシに夢を見させてくれたのは貴方なのになんで、独りで行っちゃうの………」


この人と一緒なら夢を叶えられる。

夢を見届けてくれる。

そう思っていたのに、なんで……。


「これが最善なんや、勘弁してくれ」


 彼の決意は揺るがないようだった。

ワタシが何を言っても無駄だろう。

せめて、笑って送ろう。

ワタシは涙をグッと堪えて笑って言った。


「分かりました。ワタシはワタシの夢を追いかけます。だけど覚えていてください。ワタシに夢を教えてくれたのは貴方なんだって」


出来るだけ、記憶に残るよう、決して忘れさられないよう彼の脳に刻みつけさせる。


「………覚えとく」


きっとこれは願いなんかじゃなく呪いだ。

 ワタシが彼にかける呪い。

 そして彼がワタシにかけた呪い。

 夢を叶えるまでそれはきっと取れない。


「じゃあね」


「ああ……」


 彼はか細い声を出して歩き出した。

傘を差し、二人は背中合わせにして歩き出す。

もう二度と交わらない道を。

今日の雨は酷く冷たく、身体の芯まで染み込んだ。

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雨上がり、君と夢をみる。 @stella_90m

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