十四.未来の現在進行形
数年後-
「しかし…俺ら見事に揃って、母校の教師になるとはな…」
真夏斗が言う。
真夏斗と凰太、そして帆乃加と有希は揃いにも揃って教師となっていた。
ひかり達の母校である海ノ宮高等学校は、この度、中高一貫校となり教師も増えたのである。
真夏斗と帆乃加は高等科の教師に、凰太と有希は中等科の教師に配属された。
「まさかアンタ達が教師になるなんてね」
帆乃加は真夏斗と凰太をジロリと見た。
「そう言うお前らこそ意外なんだけど」
凰太がジロリと帆乃加と有希を見た。
「まあ…確かにね。あの頃は教師を目指そうなんて、これっぽっちも思ってなかったからなぁ…ひかりに会うまでは」
有希が遠い眼差しで言った。
「うん、確かに…。俺も浦嶋さんの影響が結構大きいな」
真夏斗も頷いた。
「ひかりのズバッと言って人の目を覚まさせるところが、何か凄くかっこよかったもんね」
帆乃加が言う。
「だな。ああいう先生いたら良いよなって、確かに思った」
凰太が笑いながら言う。
「ひかりが一番教師向いてそうなのにね。入船先生にもスカウトされてたし」
有希も笑顔で言う。
「そうそう。でも、今の状況でも俺達にとっては良いよな。あのハンバーグ食えるし」
真夏斗が笑顔になる。
「本当ッ!絶品よねぇ…。何かお腹空いて来ちゃった」
帆乃加がウットリしながら言う。
「じゃあ今日も終わったら行こうぜーッ!"ウラオトカフェ"に」
凰太がニヤッと笑いながら言う。
「行く行くーッ!よし!やる気出てきた!」
有希が笑顔でそう言うと、四人の士気が上がった。
「うおっちに早く報告書提出しないと…」
凰太が慌てて出て行った。
「おい、まだそのあだ名で呼んでのかよ…」
真夏斗が呆れながら苦笑いした。
--
"Ura Oto Remake Coffe Restaurant"
(ウラ オト リメイク カフェ レストラン)
巷では略して「ウラオトカフェ」の愛称で呼ばれている。
この「ウラオトカフェ」は、ひかりの弟である七央樹が洋服のリメイクをし、兄の一匡が珈琲を淹れ、ひかりがハンバーグメインの料理を作り、竜輝がデザートを担当している。竜輝の妹である紗輝は、洋服リメイクの受付とカフェの接客をし、万莉華はカフェ中心で接客を勤めている。
この店は、同じ一つの広い空間の中で七央樹の素早い裁縫技術で服のリメイクを数時間で行い、その間に一匡の淹れる極上の珈琲や、竜輝の作る究極なスイーツ、ひかりの作る至高の料理などで客をもてなし魅了する。
洋服リメイクとカフェレストランが一緒になったこの店は、珍しい組み合わせだと話題になり、さらにはどの分野でも高い技術だと評価され今ではとても繁盛している。
また、店員が皆揃って美男美女であることも賑わいを見せる一つの要因でもあった。
〜♪
『続いては、
〜♪
ウラオトカフェでは、一匡の友人である誠二郎がDJを務めるラジオ "春日亀 誠二郎のウミマチFWラジオ"が流れている。
誠二郎は声優やナレーターも務める人気者となっていた。
最近は高校時代から交際していた千華子との結婚が話題となっている。ちなみに、千華子は誠二郎のマネージャーである。
誠二郎と千華子も「ウラオトカフェ」の常連客であり、二人は度々顔を見せにやって来ている。
〜♪
『僕は先日、竜宮ビーチの海岸で不思議な箱を見つけました。僕はその箱を開けてみようとしたのですが、何だか急に自分だけ年を取りそうな嫌な予感がしたので、開けずにそのまま交番へ届けました…』
『太郎くん…さすがだねッ!開けたいっていう欲望に負けなかった君の強い意志と、交番に届けた君の勇気ある行動力、そして何より…君の鋭い勘ッ!太郎くんは本当に凄いと思います。そんな勇敢な太郎くんには、ぜひこの曲を送らせて下さい。ZU PUMP で "賢明だぜっ!"』
〜♪
「なぁ、今言ってたあの箱…受け取ったの俺なんだぜ?」
ウラオトカフェのカウンターで竜輝にそう話すのは、亮丞である。
亮丞は、高校時代ひかりに背負い投げされて以来、背負い投げされない男を目指すべく警察官となり、今では近くの交番で勤務している。
この日は非番で休日であった。
「え、その箱開けたの?」
竜輝は驚きながら亮丞を見た。
竜輝のエプロンには、昔夏祭りでひかりからもらった鳩のキーホルダーが付いていた。
「あぁ…」
亮丞はコーヒーを飲みながら応える。
「年取ってない…」
竜輝がポツリと呟く。
「取るかよッ!」
亮丞はすかさずツッコむ。
「それがさ、中に何入ってたと思う?」
亮丞が竜輝を見た。
「え…何?」
竜輝はキョトンとする。
「鍵だよ、鍵!」
亮丞は頬杖をつきながら言う。
「えっ!まさか…お兄ちゃん…」
横で話を聞いていたひかりは、竜輝の向こう側にいる一匡を目を丸くさせながら見た。
ひかりのエプロンにも、竜輝とおそろいの鳩のキーホルダーが付けられており、ひかりの髪には、昔夏祭りで竜輝からもらったお花の髪飾りが着けられている。
「違えよッ!いつの話だよッ!あん時だけだわッ」
一匡がひかりに強めのツッコミを入れる。
「プッ…」
竜輝は思い出し笑いをした。
「おぃ、テメェ…何笑ってんだ…」
一匡がギロリと竜輝を見る。
「いや…別に…」
竜輝は笑いを堪えながら応える。
「・・・」
一匡は、竜輝をジロリと横目で見た。
一匡が着ているエプロンには、昔夏祭りで万莉華からもらったコーヒー豆のリースのブローチが付いている。
「それがさ…その鍵、コインロッカーの鍵だったんだよ…」
亮丞が話しを続けた。
竜輝達はキョトンとしながら亮丞を見た。
「どこのコインロッカーの鍵か探したんだけどなかなか見つからなくてさ…。でも俺の諦めないこの執念で、ついにこの前見つけ出したわけよッ」
亮丞が意気揚々に語る。
「へえ!見つけ出せたなんて凄いじゃない」
ひかりは目を丸くする。
「フッ…凄いのはこっからだぜ!そのコインロッカーの鍵開けたら…何入ってたと思う?」
亮丞はニヤッとしながらひかりを見た。
「え?分かんない…」
ひかりがキョトンとした。
「そこに入ってたのはなんと、半年前に銀行強盗にあった海ノ宮銀行の消えた3億円だったんだよッ」
亮丞が興奮気味に言う。
「えぇーっ!!」
ひかり達は驚き慄く。
「そういやぁ、この前…海ノ宮銀行の3億円がコインロッカーから見つかったって、ニュースでやってたな…」
一匡が言う。
「それそれッ!見つけたの俺だからッ」
亮丞は得意げ言った。
「へぇー!すごい!お手柄じゃんッ!!」
ひかりは興奮しながら言う。
「へへッ…俺、実はこの前それで表彰されたんだァ」
亮丞が照れながら言っている。
「マジか…」
竜輝は驚きの表情で亮丞を見る。
「凄ーい!おめでとう!」
ひかりが笑顔で拍手する。
亮丞は照れ笑いした。
すると、スッと亮丞の前にあるものが差し出された。
「おめでとう。これ…俺からの餞別」
竜輝が星形のワッフルを亮丞に前に差し出している。
「え!!・・いいのかよ…」
亮丞が驚きながら竜輝を見た。
「まぁ、試作品だけどな」
竜輝は照れながら顔を逸らす。
そんな竜輝の様子を見た亮丞は小さく笑みを溢すと、少々照れながら呟いた。
「サンキュ。いただき…ます…」
「ん」
竜輝は顔を逸らしながら小さく言った。
ひかりはそんな二人の様子を微笑ましく思った。
「じゃあ2杯目無料」
そう言いながら一匡が亮丞にコーヒーを淹れた。
「えぇっ!!いいんすか…?」
亮丞は驚きながら一匡を見た。
「
一匡は顔を逸らしながら言う。
竜輝とひかりは目を丸くしながら一匡を見た後、互いに顔を見合わせ笑った。
「ありがとうございますッ!ごちになります!」
亮丞は嬉しそうにコーヒーを受け取った。
「ん」
一匡も顔を逸らしながら呟いた。
「あ、でもすいません…。同じのもう1杯ください。ことみがもうそろそろ着くんで…」
亮丞が照れながら一匡に言う。
「・・おぅ」
一匡は小さく返事をし豆を挽き始めた。
カランカラーン…
「いらっしゃい」
ひかりは、店に入ってきたことみに声をかけた。
ことみは大きな袋を抱えながら笑顔で入ってきた。
「おつかれ…。ことみの分もコーヒー頼んどいた」
亮丞が頬をピンクに染めながらことみを見た。
「ありがとう、亮ちゃん」
ことみは笑顔でそう言うと亮丞の隣の席へと座った。
亮丞は顔を赤くさせながら照れている。
ことみは、近くのスーパー"東の友"で働いている。
「これ、昆布。今日特売日で安かったんだぁ。たくさん買ってきたから使って」
ことみがカウンターに大量の昆布が入った袋をどんっと置いた。
「・・っっ」
一匡はそれを見てたじろいだ。
「うわーッ!ありがとう!いただきますッ」
ひかりは嬉しそうに昆布を抱えた。
すると…
ひかりと向こう側にいた万莉華は二人して、一匡をジロリと見た。
竜輝はチラッと横にいる一匡を見る。
「な…何だよッ!意味深な目で見てくんなよッ」
一匡は三人の視線にたじろぎながら慌てて言った。
「だってねぇー、私達にとっては衝撃映像だったもんねぇ?」
ひかりは万莉華に向けて言う。
「うん…本当に…」
万莉華も大きく頷いた。
万莉華の着ているエプロンにも、昔夏祭りで一匡からもらったマグカップのブローチが付いていた。
「お…俺にとっては、衝撃映像なんてもんじゃねぇよッ!悪夢だよッ!悪夢ッ!!」
一匡がギリギリ怒る。
「たしかにお兄ちゃんにとってはそうかもね。でもね、お兄ちゃん…人間の身体にも、同じウイルスにひっかからないようにする免疫獲得の記憶細胞っていうのがあるように、嫌な経験の記憶もちゃんと定期的に思い出して、心と触覚と反射機能を強化していかないとね?また同じ事にならないように」
ひかりが真顔で一匡を見ながら言う。
「うん…。二度とあんな事起こらないでほしい…」
万莉華が切ない顔をしながら一匡を見る。
「…っっ、大丈夫だよッ!!もう十分免疫ついてるからァッ!!…つーか、何年前の話だよッ!いい加減もう忘れさせてくれよッ!昆布の特売日1ヶ月に何回あると思ってんだよッ」
一匡が狼狽えながら抗議する。
そんな慌てふためく一匡を見たひかりと万莉華は、互いの顔を見合わせ楽しそうに笑った。
竜輝も小さく笑みを溢す。
「ごめん…一匡。揶揄い過ぎちゃった。私はちゃんと信じてるから大丈夫だよ」
万莉華は微笑みながら一匡に近づいた。
「・・っっ、知ってるし…」
一匡は照れながら赤くなった顔を逸らす。
万莉華は一匡を見ながら笑みを溢した。
「もはや昆布に纏わるネタと化してるな…」
竜輝がポツリと言う。
「ナニッ?」
一匡がギロリと竜輝を見た。
「兄ちゃんと昆布は切っても切れない仲だもんな!何てたって、海物占いで兄ちゃん昆布…」
七央樹が少し離れた所でミシンを操作しながら言う。
七央樹の作業台には、昔夏祭りで紗輝からもらったコンパクなトソーイングセットが置かれている。
「テメェ…それ以上言ったらシバくぞ」
一匡は鬼の形相で七央樹を見ながら言う。
一匡と七央樹の昆布のやり取りは相変わらずであった…。
「あ…そうだ。このエプロン、
ことみが紗輝に、東の友で着ているエプロンを手渡した。
「うん。帰る頃までには間に合うと思うから」
紗輝は笑顔で受け取った。
紗輝の髪には、昔夏祭りで七央樹からもらったシュシュが着けられていた。
「ありがとう。お願いします」
ことみも笑顔を向ける。
「七央樹、これ…ことみちゃんのエプロン。ここが
紗輝が七央樹にことみのエプロンを手渡す。
「あぁ分かった。こっちもうすぐ終わるから、その後すぐやるわ」
七央樹はそう言うと、ミシンを軽快に操作する。
「・・・」
紗輝は七央樹の姿をうっとりと見つめる。
七央樹は紗輝の視線に気づきチラッと紗輝を見て言う。
「あんまり…見られてると…照れる…」
七央樹は赤い顔をしながらミシンを操作し続ける。
「…っっ!・・ごめん…」
紗輝は我に返り慌てて赤くなった顔を背けた。
「仕事以外の時だったら…いいよ」
七央樹はポツリと呟いた。
「・・っ!!」
紗輝は驚いて七央樹を見た。
七央樹は顔を赤くしたまま作業をしている。
「…うん…」
紗輝は微笑みながら小さく呟いた。
七央樹はチラッと紗輝を見ると笑みを溢しながらミシンを操作した。
「熱々な所悪いが…俺のエプロンも頼む」
竜輝が七央樹と紗輝の所にやって来てエプロンを置いた。
「…っっ!」
七央樹と紗輝は驚いて竜輝を見た。
竜輝はニヤッと笑いながら去って行く。
七央樹「竜兄のは一番最後だからなッ!」
紗希 「兄さんのは一番最後だからね!」
七央樹と紗輝の二人は照れ隠しをするように同時に言った。
カランカラーン…
「おつかれー」
浦嶋兄妹弟の幼馴染である海七太が箱を抱え店にやってきた。
ひかり「あっ、おつかれッ」
竜輝 「おつかれ」
ひかり達があいさつする。
海七太は、近くで農園を営んでいる。
主に多種多様な野菜や果物等をマルチに栽培しており、ひかり達のお店に卸している。最近では一匡監修のもと、コーヒーの木を植えコーヒー豆収穫を目指し育てている。
ちなみに、近くの海では昆布を養殖している。
「はい、これ…注文の品」
海七太は竜輝に箱を手渡す。
「ありがとう、早いな」
竜輝は微笑みながら受け取る。
「うん、今年は育ちが早くてすぐに収穫できた」
海七太は満足げに話す。
「海七太、お前もコーヒー飲んでけよ」
一匡が海七太にカウンターに座るよう促す。
「うん、そのつもり」
海七太はカウンターへ座った。
「そういえば、一歌の奴…迷惑かけてない?」
竜輝が心配そうに海七太を見た。
「大丈夫だよ。むしろ助かってる…」
海七太は照れながら言う。
「良かった、二人も順調に上手くいってるみたいで」
ひかりがニヤッと笑った。
「ゴホン…。まぁな…」
海七太は赤くなった顔を逸らした。
あれから海七太は、何気なく参加した合コンで、偶然竜輝の一つ上のいとこである一歌と出会い、そこに突如現れた「G」と呼ばれる虫を勇敢に退治した一歌に一瞬で心を奪われ、あれよあれよと海七太と一歌は恋人同士になったのであった。
今では、海七太の農園で一歌は働いている。
農園での虫退治はお手の物である。
すると一匡は、海七太と亮丞を見ながら静かに口を開いた。
「そーいやぁ…俺も七央樹もお前らも恋人出来た時は、ひかりからの洗礼を受けたよなァ…」
「あぁ…」
亮丞と海七太はその時の事を回想し苦笑いした。
--
亮丞の場合…
「私から一言言わせてもらうけど…ことちゃんを泣かせるような事だけはするんじゃないわよ?あまり調子に乗るんじゃないわよ?いい?分かった?しばくわよ?」
ひかりは目を見開きながら亮丞に詰め寄った。
「わ…分かってる…」
亮丞はひかりの圧に狼狽えた。
「ひかりちゃん…」
ことみはウットリとひかりを見つめた。
海七太の場合…
「私から一言言わせてもらうけど…二度と思ってもいないような事言って一歌さんを悲しませたりするんじゃないわよ?いい?素直になんなさいよ?しばくからね?」
ひかりは厳しい眼差しで海七太ににじり寄る。
「わか…分かってるから…」
海七太はたじたじになりながら呟いた。
「ひかりちゃん…」
一歌は微笑えましい眼差しでひかりを見つめた。
--
「ただ…その洗礼を受けてない奴が一人だけいるけどなァ…ここに」
一匡はそう言うと、横にいる竜輝をギロリと見た。
「…っっ」
すると、亮丞と海七太、七央樹は一斉に竜輝をジロリと見ては悔しそうにした。
キュ…キュ…
「・・・」
竜輝はポーカーフェイスでマグカップを拭いていた。
"チッ…"
男達は、そんな竜輝を見ながら心の中で舌打ちをするのであった…。
「一歌さんは?」
すると紗輝が海七太にたずねた。
「ああ、もうすぐ来るんじゃないかな?何かお色直ししてから行くとか言ってたから…」
海七太は苦笑いしながら言う。
「そっか!ここまで歩いてすぐだしね」
紗輝は笑顔で言う。
「お色直し?何だそれ…」
竜輝が冷めた表情でボソっと呟いた。
「ほらぁ、女性はいろいろとあるんだよう!」
ひかりはニッコリ笑いながら竜輝の肩に手を乗せた。
「・・っっ!!…ふーん…」
ひかりの至近距離で見る笑顔と、肩に乗せられたひかりの手に、竜輝はドキドキしてしまい顔を赤くさせた。
ひかりの笑顔と接触には、未だにときめきを止められず、いつまでも慣れない竜輝なのであった…。
「俺のコーヒーより熱くなってんじゃねぇよ」
竜輝の横で一匡がジロリと見ている。
「…っ!・・・」
竜輝は一匡の言葉に驚き狼狽える。
カランカラーン…
「お待たせッ」
一歌が元気よく入って来た。
「いらっしゃい、一歌さん」
ひかりが笑顔で見る。
「どうも」
一歌が笑顔で会釈した。
すると、一歌は紙袋からあるものを取り出した。
「これ、昆布の煮付け。たくさん作ったから皆で食べて!海七太が昆布好きだから、たくさん作りすぎちゃったの」
一歌がテヘッと笑いながらタッパーをひかりに差し出した。
「わぁー!嬉しい!ごちそうさまッ」
ひかりが笑顔で受け取る。
「海七太の分はたくさん家にあるからねぇ」
一歌がニッコリ笑いながら海七太を見た。
「うん…楽しみ…」
海七太は照れながら呟いた。
ひかりと竜輝はそんな海七太に目を細める。
「昆布…(笑)」
七央樹がニヤニヤ笑いながら一匡を見た。
「お前…いっぺん表出ろ…」
一匡は七央樹をギロリと睨んだ。
一匡と七央樹の昆布ネタは尽きない。
カランカラーン…
「ちわーっす」
すると今度は七央樹の友人である亀美也が入ってきた。
「おぅ!おつかれ、亀美也」
七央樹が手を上げた。
「よぉ!七央樹ッ!いやーまいったわァー。あ、兄貴ッ!いつものブレンドくださいッ」
亀美也が一匡に注文した。
「はいよ」
一匡が豆を挽く。
亀美也は地元のバスケットボールクラブでコーチをしている。
高校時代の男子バスケ部顧問であった入船史康が独立し地元でバスケットボールクラブを立ち上げた。
巡り巡って亀美也は史康と再開し、今では二人三脚で地元のバスケットボールクラブを率いている。
「うちの監督の
亀美也がサラリと言う。
「へぇー、入船先生が?めでたいなッ!俺らが高校生の時、先生の中でも一番若くて人気だったもんなー。まぁ…先生って言うより兄さんって感じだったから、何か感慨深いな。怖かったけど…」
七央樹が遠い目をしながら言う。
「その結婚相手、誰だと思う?」
亀美也がニヤッとする。
「え、誰?」
七央樹が目を丸くする。
「俺らがバスケ部だった時のマネージャー、煙崎さん」
亀美也がまたしてもサラリと言う。
「えっ!!マジかよッ!」
七央樹はひっくり返る。
「あ、そうそう」
紗輝もサラリと言う。
「え、紗輝知ってたのッ?!」
七央樹が驚きながら紗輝を見る。
「ちょくちょく、瑚己奈とは連絡を取ってるから」
紗輝が笑顔で言う。
「そうなの?」
七央樹がキョトンとしながら紗輝を見る。
「たまにひかりさんと3人で、一緒に食事することもあるよ」
紗輝がまたしてもサラリと言った。
「えぇっ!!」
七央樹は初めて知る繋がりに驚く。
「まぁ…俺は高校の時から何となく気づいてたけどなッ!煙崎さんが史さんの事好きだって」
亀美也は笑いながら言う。
「そうそう、瑚己奈も言ってた。瀬田くんには気づかれてたかもって…」
紗輝が笑いながら言う。
「えっ!!マジかよッ!…知らなかったの俺だけかよッ!っつーか何にも知らねぇじゃん、俺!」
七央樹は険しい表情をさせる。
「そういう鈍感な所も、お前の良い所なんだから自信持てよッ!」
亀美也が弾ける笑顔で七央樹を見る。
「…っっ」
七央樹は真顔で亀美也を見た。
何だか複雑な心境である。
「ごめんね…。瑚己奈が照れるから内緒にしといてくれって言うから黙ってたの。だから分からなくても無理もないよ」
紗輝が苦笑いする。
「・・まぁいいけどさ…」
七央樹が口を尖らせながら呟いた。
すると、七央樹はある素朴な疑問が頭に浮かび静かに口を開く。
「っていうか…いつから付き合ってたんだ?バスケ部内は恋愛禁止だったよな…?」
七央樹はたじろぐ。
「何かね、私達の卒業式の日に瑚己奈が入船先生に初めて告白したんだけどダメで…それから何度か諦めずに告白してたら、やっとOKもらえたんだって!瑚己奈の粘り勝ちッ」
紗輝はニコニコしながら言う。
「マジか…」
七央樹は自分の知らない所で起きている事実に目を丸くしながら驚いた。
「まぁ人生、どんな未来が待ってるか…誰と誰が結ばれるかなんて分からないもんだよねぇ。それこそ…愛があれば、年の差なんて関係ないものね」
ひかりがひょっこり顔を出し笑顔で言った。
「確かに。俺も…年なんて関係なく愛のある相手に出会いてぇもんだなぁー」
亀美也が頬杖をついた。
「アハハッ!亀美也なら大丈夫だよ!そのうち亀美也にも良い人が現れるって!亀美也は良い奴だもんッ」
七央樹は笑顔で亀美也を励ます。
「だと良いんだがな…良い奴止まりってこともあるからな…。お前はそりゃ良いさァ、高校の時からもう既に出会ってるんだからぁ…運命の相手に」
亀美也は七央樹にそう言うと、チラッと紗輝を見た。
「まあなッ!それも亀美也のおかげだぜッ!ありがとな」
七央樹は弾ける笑顔で言う。
「・・・っっ」
紗輝は七央樹の言葉と笑顔に顔を赤くする。
「…っっ、まぁ言いけどさッ」
亀美也も七央樹の屈託のない笑顔に何故か胸をキュンとさせ照れる。
ひかりは弟達の一連の様子を微笑ましく思い目を細めた。
--
「・・・」
亀美也がぼーっと物思いに耽ていると、一匡が声をかけてた。
「何、哀愁なんか漂わせてんだよ。まぁこれでも飲んで元気出せ」
一匡が亀美也にブレンドコーヒーを差し出した。
「あ、ありがとうございますッ」
亀美也の目が輝く。
カランカラーン…
その時、ゾロゾロと教師軍団が入ってきた。
それは真夏斗と凰太、帆乃加と有希であった。
「いらっしゃーいッ」
ひかりが笑顔で声かける。
「おつかれ」
竜輝も微笑みながら真夏斗達を見た。
「腹減ったぁーッ」
凰太が天を仰ぐ。
「ひかり、いつものハンバーグ!ウラオトスペシャルッ!」
帆乃加が目を輝かせながら言う。
「・・を4つッ!」
すかさず真夏斗達が言う。
「はーいッ」
ひかりが笑顔で返事した。
「あれ、瀬田っちじゃん!どうした?なんか珍しく哀愁が漂ってっけど」
真夏斗が亀美也を見つけるなり声をかけた。
真夏斗達と亀美也は、高校の夏休みでの海以来、仲良くなっていた。
「いやー運命の出会いはないもんかなァって思って。俺バスケ一筋だったから、彼女も好きな人もいないのって…気づいたらもう俺と鮫島と鯨田だけになってんすよ」
亀美也が口を尖らせる。
「何だ、そんな事なら俺らだって同じだぜ?」
凰太が笑顔で言う。
「出会いを求めている者は瀬田っちだけじゃねぇよッ!狭い範囲で見てると俺らだけって思うことも、範囲を広げてみれば同じ境遇の奴なんて意外と山ほどいるもんだぜ?だからまあ落ち込むなよッ」
真夏斗も笑顔で亀美也を見る。
「何か…皆、前向きっすね。俺、鮫島と鯨田誘って合コンでもしようかな…。・・って、やべぇ…女性とのパイプがねぇ…」
亀美也が遠い眼差しで言った。
「フハハッ!じゃあ俺らと合コンすっか?俺こう見えて女友達は何人かいるぜ?」
凰太がドヤ顔をさせる。
「え!!いいんすかッ?」
亀美也が目を輝かせた。
「そしたら私達もその合コンに混ぜてよー!私だって運命の出会いを求めてるんだからァッ」
帆乃加は口を尖らせる。
「なかなか運命的な出会いなんてないわよね…」
有希がため息吐きながら言う。
「やだよ。お前らがいるとめんどくせぇから。他行けよ」
真夏斗は冷めた表情で帆乃加達を見た。
「何よ、めんどくさいって!腹立つーッ!私達だって男性とのパイプないしッ」
帆乃加がギリギリ怒る。
「何だお前ら、しけた面して」
カウンターに座る亮丞が振り返り、真夏斗達を見る。
「お、姫沢警官!いたのかよッ」
真夏斗が驚きながら言う。
亮丞の隣に座ることみは笑顔で軽く会釈した。
真夏斗達もことみに会釈する。
「何だよッ、相変わらずラブラブじゃねぇか!彼女持ちは呑気で良いよな」
真夏斗が亮丞をジロリと見る。
「亮丞…この前の海ノ宮銀行の消えた3億円、発見しだんだって」
竜輝が亮丞の代わりに皆へ告げる。
「おまっ…わざわざ言わなくて良いよッ」
亮丞がたじろぐ。
「マジかよッ!ニュースでやってたやつじゃん!すげーなぁッ」
真夏斗達が驚きながら亮丞を褒め称える。
「・・っっ。まあ…な…」
亮丞は顔を赤くしながら顔を背ける。
「おめでとう」
横に座る海七太が「宮こんぶ」と書かれた小さな緑の箱を亮丞に差し出した。
亮丞と海七太は、ウラオトカフェの常連で顔を合わせているうちに、中学時代素直になれなかった者同士として意気投合し仲良くなっていた。共に夏祭りやひかり達の体育祭、さらには文化祭にもいた事実を知り二人が驚いたのは、少し前の話である。その際、夏祭りや体育祭、文化祭のどれもが、二人ともひかりが目当てであった事や、同じく文化祭の初日にひかりへ告白した事までもが一緒だったというのには、互いに苦笑いしたのであった…。
亮丞は海七太の差し出す昆布を、驚きながら見つめている。
すると、海七太がポツリと呟いた。
「俺なりの喜びの表現」
昆布を喜んぶと表現するダジャレセンスは、さすが浦嶋家と長い付き合いなだけある。
「あ…ありがとう…」
亮丞は呆然としながら受け取る。
「ちなみにそれ、うちの新製品。"浜条の宮こんぶ"。浜条は俺の苗字な」
海七太が解説する。
「へー。そりゃ苗字は知ってるけど…」
亮丞が"宮こんぶ"を手に取りまじまじと見ている。
「それ、凄く美味しくて病みつきになっちゃうから、食べ過ぎ注意ね!海七太なんて、それで2回も病院に運ばれたんだからッ」
一歌が笑顔で言っている。
「・・っっ」
海七太は突然暴露され狼狽える。
「何それ、私も欲しい!」
帆乃加が興味津々な様子で宮こんぶを見つめる。
「あげるあげるーッ!実は今日皆に配ろうと思って大量に持って来てるんだァ」
一歌はそう言うと、満面の笑みを浮かべながら皆に宮こんぶを配り始めた。
「何だよ、元々配るやつだったのかよッ」
亮丞はジロリと海七太を見た。
海七太はニヤニヤしている。
「・・・」
亮丞は瞼を半分下ろし、目を小さくさせながら海七太を見た。
「…つーかさァ、お前ら出会いがないって言うけど、高校時代モテてた時なかったっけ?」
真夏斗が帆乃加と有希を見ながら言う。
「ああ…リレーの後だけね…」
帆乃加はポツリと呟く。
「でもすげーよなァ。3年の女子リレーも優勝しちゃったんだからさー。結局ビリだったのって1年の時だけだったもんな」
凰太が目を丸くしながら言う。
「そうそう。だから、2年と3年の時のリレーの後だけはモテたのよね…。2回波が来たのよ…」
懐かしむような遠い目をする帆乃加。
「あの時、決めとけば良かったのかなァ…」
有希がポツリと呟いた。
「・・・」
真夏斗と凰太は冷めた表情で二人を見つめた。
「一匡さんは俺らが3年の時のリレーは見れなかったんでしたよね?」
真夏斗が一匡を見た。
「あぁ。ブラジル行ってたからなー。まぁ…ひかり達が勝つ事ぐらい想像ついてたけどな」
一匡はサラリと言った。
「万莉華、あなたすごいわね。遠距離恋愛耐え抜いたなんて…」
帆乃加は感心しながら万莉華を見る。
「うん。一匡の言葉、信じてたから…」
万莉華はうっとりとしながら一匡を見た。
「…っっ」
一匡は照れくさそうに顔を逸らす。
「何て言われたのー?」
有希が万莉華にたずねた。
「それはー・・・」
万莉華は遠い目をしながら、当時の事を思い出していた。
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一匡がブラジルへ渡る時-
一匡「俺、いつも万莉華を想ってる。絶対に万莉華を迎えに行くから待ってろよ。それで必ず、お前を"竜宮の城"って奴に、連れて行ってやるからな…」
万莉華「うん…ずっと待ってる」
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万莉華は当時の様子を回想すると、頬を赤く染めチラッと一匡を見た。
一匡も顔を若干赤くしながら万莉華をチラッと見る。
すると万莉華は、微笑みながら言った。
「ナイショ」
「えーっ!!」
有希と帆乃加は残念がる。
すると万莉華が続けて言った。
「私ね、一匡との縁もそうだけど…絆が強い縁っていうのはループ状に丸い形してると思ってるの…輪ゴムみたいな」
仲間達はキョトンとしながら万莉華を見つめた。
一匡も驚いたように万莉華を見る。
すると万莉華は続けた。
「スタート地点に同じ場所にいて、もしその後にそれぞれが反対方向に歩き出したとしても、いずれまたぶつかる。また会える。そんなふうに思ったら、一匡と離れていても次に会える日を楽しみに出来た。必ず会えるって信じられたんだ」
万莉華は優しい表情を浮かべながら一匡を見た。
「万莉華…」
一匡はそんな万莉華に見惚れる。
すると万莉華は、帆乃加達に目を移すと言った。
「でもそれってね、仲の良い仲間にも言えることだと思うの。だってほら…今もこうしてまた、皆集まってる」
万莉華は嬉しそうな笑顔で周りを見渡した。
「確かに…」
帆乃加達も納得している。
すると七央樹がゆっくりと口を開いた。
「でもまぁー、兄ちゃんがブラジル行ってたの…たった3ヶ月だけだったけどな。兄ちゃんが帰って来たの、体育祭の翌日だからな」
七央樹がサラリと言う。
「え…」
帆乃加達は真顔で一匡と万莉華を見る。
万莉華と一匡は周囲の反応をよそに、お互いを熱く見つめ合っている。
「・・・」
先程の感動を返してほしいと思う、帆乃加達なのであった。
「・・・」
一方竜輝と七央樹は、一匡がブラジルへ旅立つ時の一匡と万莉華の大袈裟なほどの茶番劇を思い出し、瞼を半分閉じた。
「でも万莉華さんって本当に変わりましたよね…。さっきの縁の話もそうですけど…何かすごく前向きになったっていうか…」
紗輝はそう言うと、まじまじと万莉華を見た。
万莉華は笑いながら言った。
「ひかりのおかげ」
万莉華はそう言うと、厨房でハンバーグを作るひかりの後ろ姿を見つめた。
一匡と七央樹は万莉華の言葉を聞き、それぞれ笑みを溢した。
真夏斗と凰太、帆乃加と有希、そして亮丞と海七太、さらには亀美也など、その場にいる皆が微笑みながら頷いている。それぞれ自分も同じだと思っていた。
そして竜輝は、ひかりの後ろ姿を優しい表情で見ると静かに呟いた。
「俺も…」
ジュー・・…
「おまたせしましたーッ!ウラオトスペシャルハンバーグでーす」
ひかりはニコニコしながらハンバーグを運んで来た。
「わーい!!美味しそぉッ」
帆乃加達は歓声を上げる。
「・・っ」
亮丞と海七太、亀美也はゴクリと唾を飲み込む。
「私もお腹減って来ちゃったァ。私達も頼む?」
ことみが亮丞の顔を覗く。
すると…
「お待ちどうさまー」
ひかりが、亮丞とことみ、海七太と一歌、亀美也の前にも同じハンバーグを次々と運んだ。
「え…あれ?頼んでたっけ?」
亮丞達が驚いた表情でひかりを見た。
「そろそろ君たちも食べたくなるんじゃないかと思ってねッ」
ひかはニカッと笑った。
「さすがッ!!」
一同感激し、タイミング良く運ばれてきたハンバーグを嬉しそうに見つめた。
ひかりの手作りハンバーグの大量生産技術は、昔からお手のものである。
「ありがとう!いただきます・・」
皆、ひかりの特製ハンバーグを堪能した。
「ねぇ、竜輝。さっき何の話してたの?チラッと私の名前が聞こえたような…」
ひかりは竜輝の顔を覗いた。
すると竜輝は微笑みながら、ひかりを見て言った。
「ひかりは、"光" だって話」
「・・?」
ひかりはキョトンとしながら竜輝を見つめた。
竜輝はフッと笑みを溢した。
"どういうこと…??"
ひかりの頭上には複数のハテナマークが出現した。
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"close"
しばらくして、ひかりは店の入り口の札を裏返した。
店内が、学生時代の友人達だけになったからである。
店は友人達の貸し切り状態となった。
仲間達は食後のデザートである竜輝特製のクッキーと一匡の淹れた極上のコーヒーに舌鼓を打つ。
友人達は皆、まったりとした至福の時間を過ごしていた。
すると、店内で流れている誠二郎のラジオ、"春日亀 誠二郎のウミマチFWラジオ"で、ある一通のお便りが読まれて始めた。
〜♪
『僕は今年で29歳なのですが、彼女もいなければ好きな人もいません。趣味や、やりたい事も特にありません。あまりにも何もない自分に、周りから取り残されているように感じ、僕は漠然とした不安と焦りを感じています。何となく選んだ仕事をしながら何となく過ごす毎日で、特に何もない人生を送っています。こんな自分を変えるには、どうしたら良いですか?』
DJ誠二郎は、ラジオでリスナーからのハガキを読みあげた。
すると…
ラジオの中のDJ誠二郎と、店内にいた一匡が同時に呟いた。
『焦らなくても良いんじゃない?』
「焦らなくても良いんじゃね?」
ラジオの中のDJ誠二郎とシンクロするように、一匡が同じ言葉を言っていた。
店内にいた皆は、驚きながら一匡を見た。
一匡はニヤッと笑った。
するとDJ誠二郎がラジオで話し出した。
『僕の親友に言わせたら、おそらくそう言ってると思います…(笑)』
ラジオの中で話す誠二郎の言葉を聞いた一匡は、フッと笑みを溢した。
ひかり達も皆、ほっこり笑顔になる。
DJ誠二郎は続けて話す。
『僕も親友と同じ考えです。今はまだ何も見つけられてなくても良い。君が足元を見ながら歩いていれば、そのうち自分の人生を変えてくれる人に、突然ばったり出会うかもしれない。僕もそうでした。幼い頃から高校三年生の始めまでは、ずっとパッとしない日々を過ごしてました。ただ自分の足元だけを見てひたすら歩く日々でした。そしたら突然、僕の人生を変えてくれた人に出会った。それがさっき言った僕の大切な友人です』
「・・っ!」
誠二郎の言葉を聞いた一匡は少々驚いたように手を止め、ラジオが流れて来るスピーカーを見た。
一匡は若干目を潤ませていた。
ひかりや七央樹はそんな一匡を横目で見た後、小さく笑みを溢した。
DJ誠二郎は話し続ける。
『僕が今のこの場所にいるのも、彼らのおかげなんですよ。あっ、彼らって言うのは、先程の親友には妹さんと弟さんがいまして…彼ら
DJ誠二郎の言葉を聞いていたひかりと七央樹は顔を赤くさせ照れる。
一匡は、そんな二人を横目に小さく笑う。
店内にいる竜輝や万莉華、紗輝などの仲間達も皆、DJ誠二郎の言葉に大きく頷くと、浦嶋兄妹弟を微笑みながら各々見つめていた。
そして、DJ誠二郎が明るい口調で話す。
『彼らは僕に革命をもたらしました。そんなレボリューションな風を巻き起こしてくれる人が、君の前にも突然…現れるかもしれないよ?』
そして、DJ誠二郎はこう締めくくった。
『おとぎ話でもない勝負でもない君の人生は、亀のようにゆっくり進んだって良い。キリギリスのように今だけを楽しんでも良いんです。取り越し苦労なんてしないで、どの瞬間を切り取っても「めでたし、めでたし」って言えるように今この瞬間を楽しんでいれば良いんです。今の君、今のこの時は、今しかないんだから…。悩む事に時間を費やすのは、もったいないよ。もし今が辛かったら、光のある方へ避難したって良い。君が今歩いてるその道は、一本道でもなければ一方通行でもない。後ろがつかえてるわけでもない。いくら遠回りしたって良いんです。戻ったって良い。立ち止まってみても良いんです。君が歩く道は、いつだって君だけのものだから。今、君が見ているその世界が、全てではないのだから。これもまた、親友が言っていた言葉なのですが…最後にその言葉を送ります』
『「ゆるりと行こうぜ。玉手箱開けたって、年取るわけじゃねぇんだし」』
DJ誠二郎と一匡は、またしてもシンクロするかのように言った。
そして仲間達は皆驚いた後、笑い合った。
ひかりと竜輝も目を合わせ笑い合う。
ひかりの首には、チェーンに通されたピンキーリングがかけられていた。
それは、ひかりと竜輝が恋人となってから初めてのひかりの誕生日前日に、竜輝がひかりにプレゼントした…あのピンキーリングである。
その後、ひかりは竜輝の誕生日にも同じようにピンキーリングをプレゼントしたいと思い、竜輝と一緒にピンキーリングを買いに行きプレゼントした。
なので竜輝の首にもひかりと同じように、チェーンに通されたピンキーリングがかけられている。
そして-
二人の左手薬指には、約束どおり本物の指輪が光っていた…。
ある物語に登場する
名前の通りに
強くて勇敢な女の子や、
名前とは反対の
強くて勇敢な女の子
名前の通りに
可憐で繊細な男の子や、
名前とは反対の
可憐で繊細な男の子
多種多様な彼らが、名前や性別という…いろんなイメージにとらわれずに、本来自分の姿である「ありのまま」を貫き通しながら、互いを想い合い認め合い、愛し合った。
この世界は、自分オリジナルの物語を作れる。
そこには、決まったレシピもない。
何も制限など存在しない。
自分だけの、物語だ。
ある日突然、
君の中にも浦嶋兄妹弟がレボリューション(革命)を起こしにやって来るかもしれない…。
そして様々な調味料を入れかき混ぜてくれる。
美味しい味付け(人生)になるように。
そしてまた…
君だけの物語を作る。
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竜輝「ひかり、ミサンガ落ちてる…」
ひかり「あれ、本当だ!切れてる…。せっかく竜輝が作ってくれたミサンガ、足に着けといたのに…」
竜輝「何本目だっけ?」
ひかり「5本目ッ!」
竜輝「フッ…(笑)。もう5本目か。凄いな…」
ひかり「また作ってね」
竜輝「うん。ん?…ってことは、また何か良い事あるかな…」
ひかり「あるかもッ!」
- 完 -
浦嶋レボリューション 星ヶ丘 彩日 @iroka_314
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