俺とかぐやの永久物語

クロノパーカー

第1話 かぐや姫との出逢い

「今は昔、竹取たけとりおきなといふ者ありけり。

野山に交じりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。

名をば讃岐さぬきみやつことなむいひける。

あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。

それを見れば、三寸さんすんばかりなる人、いとうつくしうて居たり。」

学校で古典の授業を受けていると先生に指名された人がそれを読む。

竹取物語の冒頭部分だ。簡単に言うと昔に竹を取っていた爺さんが居て竹が光っていたから見てみたら約9センチの可愛い人がいたって言う感じだ。かなり昔に作られた古い話だ。

どの学校でも習うだろう。最終的にこの少女はかぐや姫となり月に帰る。有名な話だ。

世の中にはこのかぐや姫を題材とした話はかなりある。俺はかなりこの手の話は好きだ。

「じゃあ次は世垓せがいくん。続きから読んでもらえる?」

「はい。この衣着つる人は、…」

「はい、ありがとうね。これでかぐや姫は天の羽衣を着たことによって人間としての感情が無くなって月に帰ってしまったってことね」

俺が「かぐや姫の昇天」の最後の部分を読んで、先生が話の説明をしていた。


「いやーやっぱ古典の授業は眠いわ。功次もそう思うよな?」

授業が終わると友達の伊波真式いなみましきがそう聞いてきた。

「確かに古典とかの文系科目って眠くなるよな」

「だよな。でもお前はあくび一つしていなかったよな」

「それは俺がかぐや姫関連の話が好きだからかな」

「あーそういえばそうだったな。アニメとか漫画とか好きな、高校でもトップのガチオタクのお前はかぐや姫系が一番気に入っていたな」

「そうなんだよ。やっぱりなんか俺の心に一番響くんだよな」

「そうなのかー」

そんな話をして後はゲームの話をして次の授業の時間になる。もしかぐや姫が目の前に居て月に帰るとなったら俺は全力で止めるだろう。みかどやら警護けいごの兵なんかは諦めたようだがそれは精神力が足りなかったと思う。たとえ相手が圧倒的でも欲しい物は命を張ってでも戦うべきだ。諦めて後悔するなら死んでもいいから行動に移すことが出来れば未来は変わったであろうに。


功次こうじー帰ろうぜー」

授業も全て終わりいち早く用意を済ませた真式が俺に呼びかける。

「分かった。でもお前部活は?」

「今日はない。だからどっか寄っていかね?」

「了解した」

そうして俺らは学校を後にした。


「でな、あいつがさー」

「いやあいつは何しているんだよ」

友達の面白話を二人で帰りながらしていると

「おい…あんた危ないぞ!」

そんな大声が聞こえた。

「ん?なんだ?」

俺らは声が聞こえた方を見てみた。すると

「お、おい。あれやばいんじゃねぇか!?」

真式がそう叫んでいた。見た先には横断歩道でうずくまっている女性が居た。そして奥からは大きなトラックが猛スピードで突っ込んでいた。トラックは止まる気配がなく後10秒あればぶつかってしまうような距離だった。

「マズイっ!」

「あっ!おい待て功次!」

その様子を見た俺はとっさに足が進んでいた。方向は横断歩道の女性の方へ。後ろから真式が何か言っているが反応しない。何故か俺よりも近くに居た人は怯えるか戸惑っているかのどちらかで動こうとする気配がない。俺の頭にはあの女性を助けよう。その思考だけが在った。その女性は知っている人ではない。全くの赤の他人だ。しかし何故か俺の身体は反射的に動いた。トラックもすぐ手前まで来て俺も女性の手前まで来た。

「間に合えっ!」

俺は女性を抱きかかえトラックとぶつかった。抱きかかえた時に間近で見た女性はまるで天人のような羽衣を着ていて今まで見た人の中で誰よりも綺麗だった。走馬灯そうまとうのようなものが見えその時にはかぐや姫が見えた。そうか。俺が動き出したのはかぐや姫に見えたからだろうか。コスプレかな?そんな思考を猛スピードで行い俺は吹き飛んだ。そこで俺の意識はなくなった。


「あっ!おい待て功次!」

功次が女性の方へと走っていった。あいつ助けるつもりか!?この距離感だと間に合うかも分からないし、間に合ったとしても引っ張ったりするのは間に合わない。助けるとしたら守る感じ、盾のようになることしかない。あのスピードのトラックにぶつかればどう頑張っても死ぬだろう。

「功次!お前死ぬ気か!?」

俺が声を荒らげても功次は止まる気配がない。きっと無我夢中むがむちゅうで動いていて聞こえていないのだろう。ここで別れるなんて嫌だ。そう思ったが足は動かない。恐怖だ。恐怖で足が動かない。友達を失う恐怖。しかしそれよりも自らが死ぬ恐怖が勝っていた。

そうして功次はトラックとぶつかり吹っ飛んでいた。

「功次っー!」

俺は叫んでいた。大きな衝撃音と鈍い音がなった。俺は音だけで悟った。功次は死んだ。それが理解できるほどの音だった。トラックは功次とぶつかったことによるのか向きが変わり電柱にぶつかった。俺は吹っ飛んだ功次と女性の方へと走る。死んだと思ってもかすかに生きているかもしれない。それを望んで。

「功次!」

女性を抱えた功次は全くもって動かなかった。素人が見ても分かる。功次は死んだ、もしくは危険な状態のどちらかだと。それに気づいた俺はすぐに救急車を呼んだ。周りの人間は驚きで固まっているか恐怖で騒いでいる。こういう時に行動に移せない。冷静な判断が出来ず固まるか騒ぐかのどちらかだ。授業で言っていたな。俺はなんとしてでも功次を生かしたい。そう願って俺は学校で習った応急手当を行おうとする。すると

「そんな事しても意味ないわ」

「は?」

そんな声が聞こえた。誰だ、今はそれどころじゃないのに!

「どれだけ頑張ってもこの男は助からない」

「誰だ!?何を言っているんだ!やってみなきゃ分かんないだろ!」

「分からないの?私をかばったその男はもう心臓は止まっている。頭も割れている。助からないわよ」

その言葉を聞いて俺は気づいた。功次の方しか見ていなくて分からなかったが俺が話していたのは功次がかばった女性だった。

「そ…れは…本当…なの…か?」

「本当よ。現代の技術じゃどれだけ頑張ってもこの男は助けることが出来ない。それこそ月の不死の薬でもない限りね」

「そんな冗談を…助けてもらったことに感謝はないのか!」

俺はふざけた事を言う女性に怒号を飛ばす。こいつは人としての感情がないのか…?

「感謝しているわ。でもすでにこの人は死人。どれだけ感謝しても伝わることはないのよ。そうね。今までに私を助けてくれた人なんて指で数える程度だもの。しかも命を張ってでも助けてくれたのは初めて…いや二度目かしらね」

「はぁ…?」

若干意味が分からなかったので頭には疑問符ぎもんふしか出ない。

「この人があの方だったらどれだけ嬉しいでしょうね。まぁ叶わない願いだけど」

「あんたは一体何を言っているんだ?」

「気にすることではないわ。この人はあの方と違って黒のパーカーを着ていないもの」

本当にこの女性が言っていることが分からなかった。

俺は功次を失ったことと変な女の言動によって頭がぐちゃぐちゃになった。

俺はこれからどうすれば良いんだろうか…。


「っててて」

俺は目を覚ました。何をしていたんだっけか?

…真式と帰っている時に…女性…トラック…。

「思い出した!」

そうだ。俺はトラックに轢かれそうな女性をかばって…続きが分からない。死んだのか?でも今は意識がある。

「一旦落ち着こう」

一度深呼吸をして辺りを見回した。周りは竹林だった。どこだ?

「竹なんか初めて見たな」

冷静にそう思ったがなぜ竹林にいるんだ?トラックに吹っ飛ばされてここまで飛んできたとか?そんなアニメみたいなことあるか?

そんなことを考えていると

「この壺にある薬を飲んでください。このような穢れたところのものを食べたので体調が優れないに違いません」

そんな声が聞こえてきた。気になったので声が聞こえたほうへ向かうことにした。

少し歩いてみると大勢の人がいた。なんだなんだ?何のイベントなんだ?

着物を着た人。武装をした人。天人のような服装の人。じいさんとばあさん。様々な人がいる。

演劇の練習かなんかかな?

「それではおじいさんおばあさん。今までありがとうございました」

綺麗な人が泣き崩れるじいさんとばあさんにそういう。凄く力が入っているな~。

多分竹取物語かな?て、ことはさっき聞こえてきたセリフにあった壺にある薬ってのは不死の薬か?邪魔してはいけないと思ったがここはどこなのか聞かないとな。そう思って俺は茂みから身を出す。

「すいませーん。演劇の練習中に申し訳ないんですけど。ここってどこですか?」

そう聞くとこの場の時間が止まったかのような静寂せいじゃくが訪れた。あれなんか変なこと言ったかな?さすがに突然知らない人が出てきて驚いているだけかな?

「貴様!?何者だ!?」

一人の武装をした人がそう叫んでくる。そんなに怒ることある?

「いやー気が付いたらここにいてですね。ここって何県ですかね?」

それがそう聞くと

「貴様は何を言っているのだ!?今はそれどころではないのだぞ!?」

そう返された。だからそんなに怒ることある?

「曲者め!」

そう言って他の武装をした人が弓を構える。すげー本物みたいだな。

ピュン。そんな音を出して矢が放たれる。マジで撃ってくるの!?

「危ないな!」

矢を避けると後ろにあった竹に刺さった。え?本物?

「なんで撃ってくるんだ!?竹に刺さるってことは普通に当たったら死ぬぞ!?」

銃刀法違反はどこに行った?

「あの者をれ!」

そういうと他の人たちも武器を構え迫ってくる。刀やら槍やら弓。さっきの弓の感じからすると多分本物だ。当たれば死ぬだろう。

「ちょっと!あんたら助けろよ!」

武装した人たちから逃げながら天人のような人たちにそう叫ぶ。なんであの人達は見ているだけなんだ?

「貴様もかぐや姫を引き留めようとする者か」

「は?何言ってんの?」

「そうであるのであれば敵であるな」

そう言って敵意を向けてきた。んな理不尽な!

「お待ちなさい」

一人の着物と羽衣を着た綺麗な人がそう言うとこの場にいた全員が動きを止めた。助かったのか?

「あなたはいったい何者なの?見たことない服装だけど」

「俺は知らないうちにここにいたんだ。話し声が聞こえてきたもんでここはどこなのか聞きに来たんだ」

みんなを止めてくれた人と話していると

「かぐや姫そのような下賤げせんな者と話してはいけません」

天人のような人の一人がそう言ってくる。なんだよ下賤な者って。失礼すぎるだろ。っていうか今かぐや姫って…

「下賤な者かどうかはあなたが決めることではないわ」

「なぁ、今かぐや姫って言われなかったか?」

「確かに私はかぐや姫です。ご存じないので?」

「本物なのか?」

「そうです」

本物のかぐや姫?でもかぐや姫って竹取物語の中の存在だし過去のものだろ?

「ここは讃岐です。あなたはどこの者ですか?」

讃岐?もしこの状況が竹取物語と同じであるならばここは今の奈良県だ。それだったら俺の元いた地域からだいたい150km離れている。いくら猛スピードのトラックにぶつかられたからってそんな距離を吹っ飛んでいたら物理法則を無視している。この状況から導き出される結論は…

「ここ過去の世界かよー!」

俺はそう叫んだ。そうかそうか。とうとう俺は時代遡行する事が出来たのか。多分死んだんだな。まぁ真式とかの友達と家族と会えないのはつらいが…この状況をすぐに受け入れてこそのオタクの俺だ。個人的には異世界が良かったが…。

「どうしたのですか?」

突然叫んだ俺にかぐや姫は不思議そうに聞いてくる。

「そうなったら話は早い。俺の正体は後だ!」

「な、なにを申しているのですか?」

「かぐや姫、お前は月に帰りたいか?」

「…え?」

「月に帰りたいかって聞いているんだ?」

俺がかぐや姫に問いかけていると

「おやめになってください!そのような者の言葉に耳を貸してはなりません!」

天人のような…いや今が竹取物語と同じなら本物か。天人がかぐや姫に叫んだ。かぐや姫は月の住人だからな。なんとしてでも連れ戻したいのだろう。

「うるさい!今は俺とかぐや姫が話しているんだ!」

俺がそう言い返してやると天人たちは少し怯んだ。

「で、どうするよ?あのじいさんとばあさんと一緒にいられるかは保証できない。しかしその天人たちはお前が月で罪を犯したからと無関係のじいさんとばあさんに世話をさせてそして今は下賤な者とか言う始末だ。あまりに自己中心的な考えだ。それともお前はあいつらの言う穢き地上に残るか、月に帰りたいか。どっちがいい?」

俺が最終確認のように問いかけると

「私は…私は帰りたくありません!」

そう大きく答えた。よしっ!思った通りだ。

「よし来た!そうこなくっちゃな」

「いけません!お戻りください!」

またも天人が叫ぶ。喉疲れないのかな。

「やなこった。かぐや姫の意思を尊重してやれよ。習わなかった?個人の尊重。大事なことだ。しっかり復習しておくんだな」

俺は習っているわけがないが挑発もかねてそう返した。相手からしたら何を言っているのかわからんよな。

「おい人間!お前らかぐや姫が月に帰っていいのか!?いやだよな!?あいつら天人の超自然的な力に恐れおののいて戦う気力を無くすとは弱いなぁ!根性無しだなぁ!本当に嫌なのであれば戦えおろか者よ!」

固まっていた地上の人たちにそう言ってやる。しかしそれでもあいつらは武器を取ろうとしない。くっそこの腑抜ふぬけどもが。

「見本を見せてやる!己が信念を貫く。それこそ人間だ!」

そうして不死の薬が入った壺を持った天人に向かって走る。最悪負けることを考えて死なないようにするための不死の薬を手に入れておきたいからな。

「なにっ」

「もーらいっ」

そう言って不死の薬を取り上げる。拳を固めて殴るふりをして直前に手を開いて壺を取る。案外簡単だったな。

「貴様っ、かぐや姫をたぶらかしておいて不死の薬までも奪うか」

「あったりまえじゃーん。お前らが先に俺を敵だと判断したでしょ?間違ってなかったな、その判断」

俺に対してすごい敵意を向けて言い放ってきた一人の天人にそう挑発する。こういう時は冷静さを失ったほうが負けだ。

不死の薬は落としたくないしな。リュックの中に入れておくか。学校帰りだからリュックを持っていてよかった。

「じゃ、ここは一時退散ってことで」

「え?え?」

そう言って不死の薬をしまった俺はかぐや姫をお姫様抱っこしてその場を走り始める。まさか本物の姫をお姫様抱っこする時が来るとはな。

「貴様!待て!」

天人が制止するがそれに対して

「あばよー!とっつぁーん!」

そう言ってその場を走って離れた。


「もう大丈夫かな」

体力が底をつくまで走った俺は息を切らしながらそう言ってかぐや姫を降ろした。

「大丈夫ですか?」

「問題ない。アニオタ誰しも運動できないってことはないからな」

「何を言っているのかわかりませんが、ありがとうございます」

「まぁ分らんよな」

さてとここからどうしたものか。ここは過去の世界だ。財布を取り出して残金を確認するが…現代の金は使えたものじゃない。衣食住は確保したい。

「月の者からは離れることができましたがあなたは何者なのですか?」

俺から降ろされたかぐや姫は答えていなかった疑問を聞いてくる。そろそろ答えたほうがいいか。

「俺は世垓功次。今の時代からしたら未来人だな」

「未来人?」

「ああ。俺は元いた時代で死んで気づいたらあの場所にいたんだ」

「ではなぜ私の名前を知っていたのですか?」

そうか。かぐや姫からしたら未来から来た初対面の俺が名前を知っていることは不思議だもんな。

「俺の時代ではかぐや姫はみんなが知っているんだ。今とはちょっと違うけど過去のことを覚えるんだ」

「そうなんですね」

「これからどうしようか。あいつらは追ってくると思う?」

「帝などの地上の者は分かりませんが月の者は追って来るやもしれません」

「だよな。衣食住は確保しておきたいんだがなぁ」

今の問題点を言うと

「いしょくじゅう?とは何ですか?」

そう聞かれた。時代が離れていると伝わるものと伝わらないものがわからねぇ。

「衣食住ってのは着るもの、食べ物、住むところだ。今のところ俺らは全部揃ってないだろ?」

「確かにそうですね」

「着るものは俺は違いすぎるし、食べ物はないし、住むところもない。これは困ったなぁ」

何も考えず逃げてみたけどいきなり詰みゲーか?最悪サバイバルになるかもな。

「とりあえず人目につかないところまで行くか。目立って騒ぎになると面倒だ」

「わかりました。でもどちらへ?」

「人がいなさそうなところ…山とか?」

「それで問題ないです」

山って言ってもどこにあるかわっかんねぇ。今のところそれらしき影は見えないしな。こうなるなら奈良県の地形図覚えておくんだったな。

「ひとまず目立たないように行動するか。歩けるか?」

「大丈夫です」

着物やら動きにくそうな服装だったから心配したが杞憂きゆうだったようだ。かぐや姫はすたすたと歩き始めた。


人目がなさそうな場所を探して歩いていると突如とつじょ辺りが暗くなった。

「っていうか実際は今、夜だったな」

「そうですよ?」

竹取物語内だと天人がかぐや姫を迎えに来たのは夜12時とかだったはず。今まで明るくて気づかなかったのは天人が来た時に明るかったからか。どういう仕組みで明るかったんだろうか。

「暗くなったってことは天人たちは退いたのか?」

「多分そうです。しかし私の居場所を特定すれば再度現れるでしょう」

「もしそうなったら次は戦いか。あっちもいろいろ用意してくるだろうな」

俺という邪魔者がいると分かったら始末するためにしっかり準備してくるはずだ。これで隕石とか出して来たら勝ち目ないな。

「月の者が退いた今なら戻っても問題ないのでは?」

そんな提案をかぐや姫がしてきた。

「確かにそうだが…罠の可能性もある。下手に戻っても大丈夫か?」

ゲームやアニメの見過ぎでそんな心配をする俺。こうやって油断した時が一番危険だ。それを思って聞いたが

「大丈夫です。月の者はそういった人間の騙しなどは行ってはきません」

「そ、そうなのか」

そう言われたので俺らはかぐや姫のじいさんとばあさんがいる場所まで戻ることにした。


「おじいさん!おばあさん!」

かぐや姫がじいさんとばあさんに飛びつく。何事もなく戻ってこれた…かなり警戒してここまで来たが本当に罠はなかった。

「よく無事で戻ってきたなぁ」

じいさんが喜びながらそう言う。ばあさんも喜んでいた。

「喜んでいるところ悪いが状況を確認したい。話すことはできるか?」

俺がそう提案すると

「分かりました。聞きたいこともあるからのぅ」

じいさんは了承してくれた。ばあさんも頷いている。

そこから俺は自分の正体を教えた。信じてもらえるかは分からなかったが意外と納得してもらえた。この時代は今よりも神とかを信じているからな。俺のいた時代だったら頭おかしい奴で終わっちまうからな。

「帝とかはどうした?ここに残っているかと思ったが…」

「帝は朝廷に戻りました。もし戻ってきたらふみを届けて欲しいとのこと」

「そうか。それに関してはあんたらの役目だ。俺が介する部分ではないな」

「分かりました。ではあなたはこれからどうするので?」

「元の時代に戻れるならそれでいいが…多分戻れないんだよな。だからこれからはかぐや姫が月に帰らないように行動するかな」

「でもどうやって?」

「天人たちはまた連れ戻しに来るはずだ。帝どもは動けなかったから役に立たん。また来た時は逃げるか戦うかのどちらかだ。」

俺のいた時代の武器と同じようなレベルならアニメとかゲーム知識でなんとかなるが月独自の武器を持ってこられたら対応できんな。

「あんたらもかぐや姫も一緒にいたいだろうが、次に天人が来たときは周りの人間にも被害が及ぶと思う」

「そうでございますか…」

「一緒にいさせてやりたいのは山々だがそうはいかない」

「ではどうするので?」

「かぐや姫を連れて人がいないところで待って連れ戻しに来たのを返り討ちにするほかない」

「それでかぐや姫は帰らなくて済むのですね?」

「俺が勝てばの話だがな。本当は朝廷にも手伝ってほしいところだがあいつらはさっき使えなかったからな」

そう簡単に言っているが実際はかなり厳しいだろう。先程連れ戻しに来たときはせいぜい10人程度だ。だが次は何人来るかわからない。戦えることを前提に言っているが俺はただの高校生だ。多少趣味で鍛えたからと言って軍勢と戦えるとは思わない。

「帝にも文で援軍を入れるように申し上げましょうか?」

じいさんはそう提案してくる。来てくれるなら来てくれるで助かるがさっきの感じだとまた固まりそうだし何者か明確でない俺に対して援軍をくれるとは思わないな。

「一応そうしてくれ」

「分かりました。では、いつ頃にここを発ちますか?」

「そうだな。一日二日で来るとは思えない。いつ頃がいい?」

俺はかぐや姫に尋ねる。ここに残るのは俺が決めることではない。

「それでは三日程ここに留まりたいと思います。帝にも文を書いておきたいので」

「分かった。じいさんばあさんとも話しておきたいこともあるだろうしな」

そうして俺らはじいさんとばあさんの家に三日留まることにした。


「ここを出た後の準備もしておかなきゃな」

次の日の朝、俺は一人外に出て呟く。現時点俺は一文無しだ。衣食住を整えなくてはならない。周りに人がいない山などで構えたい。しかしそれは住むところがないということだ。

「何か悩み事ですか?」

俺が一人唸っているとじいさんが俺に話しかけてきた。

「ここを出た後の事でな。人がいないところで構えることになるから宿とかも使えないだろ?俺は最悪野宿でも大丈夫だがかぐや姫はどうしようかなって」

「そうですなぁ。食料の事も考えなくてはならないですからなぁ」

俺が思い悩んでいるときにある一つの案が思いついた。

「なぁじいさん。ここから一番近い人がいないところはどこだ?」

俺がそう聞くとじいさんは指をさして

「あっちにある岩橋山でございます」

そう言われてそちら側を向くと少し山の影が見えた。少し遠いな。距離を調べようとスマホを開くと圏外だった。ですよねー。あまり期待はしていなかった。

「どれくらいの距離か知っているか?」

「確か3里ほどだったはずですが」

3里?1里が約4kmくらいだったはず。ってことは約12kmか。結構あるが歩いて3時間くらい…やれそうだな。

「俺らはここを出た後その岩橋山を住処すみかにする。そのために竹と布をくれないか?」

「竹と布を?」

「あぁ。そこに家を作ろうと思う。本当はそういう本職の人に頼みたいが俺は金がないしな。自分で作るんだ」

「そんなこと…出来るので?」

「やったことないがどんなこともやってみなきゃ分かんないからな」

「左様ですか。では言われた通り用意をしておきます」

「助かる。どれくらいいるかはすぐに伝えるよ」

「分かりました」

材料は確保出来そうだな。後はどれくらいの大きさにするかだ。一度見てみないといけないか…。

「じゃあじいさん。俺は一度岩橋山を登ってみるから少し離れる」

「分かりました。気を付けて行ってらっしゃいませ」

じいさんに手を振り俺は走って岩橋山まで向かうことにした。


半分ほど走ったくらいの時、かなり息が切れてきた。やはり制服は重いし走りずらい。日頃着ている私服のパーカーが着たい。この時代にはパーカーはないだろうし俺は裁縫はできん。自分で作れるならどうとでもなったんだがなぁ。そう思いながらも頑張って走り続けるとようやく到着した。

「…疲れた」

口からはそうこぼれる。やってること駅伝かよ。そう思って山に入った。

入ってみるとかなり自然なままだった。そりゃそうか今の時代ほど整備されている訳ないのだ。親とよく山には来ていたしいつも登る山よりも低いので何とかなると思ったが制服であることと道の整備されていなさでかなり苦労した。

少し登ると少しひらけている場所を見つけた。

「ここにしよう」

幸いにも下からの距離はそう遠くない。材料をここまで持ってくるのは何とかなりそうだ。喉が渇いたので辺りを散策すると小川が流れていた。そこで水分補給をして引き返すことにした。


「戻ったぞ」

お昼時を少し過ぎた頃俺はかぐや姫のいるところに戻ってきた。流石に腹減った。

「お帰りなさいませ、功次さん」

俺が帰ってきてそう返してくれたのはかぐや姫だった。

「おう。ここを離れた後の住処を探してきた。何とかなりそうだ」

「そうですかそれはよかった」

「それで住む家を造るためにここを空けることが多くなりそうだが大丈夫か?」

「問題ないです。私を助けてくださるのです。異論を出すつもりはありません」

「そりゃよかった」

かぐや姫と話をしているとじいさんがこちらに来た。

「良い場所は見つかったようですね」

「あぁ。じゃあ材料がどれくらい必要か伝えるから」

「分かりました」

そうして俺はじいさんに必要な材料を伝えた。最初聞いたときは驚いていたが納得して用意してくれるようだ。

よしここからは時間との勝負だ。スマホに入っているサバイバルアプリや今までの知識をフル活用して頑張るぞ。

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