ここに いるよ

平 遊

ここに いるよ

「あー、懐かしい。この店良く来たよね、春乃と冬香と。秋菜は、たまーに、来たくらいかな?三人で良く来てたよねー。…あれ?なんで秋菜、いなかったんだっけ?」


店のドアを開け、お気に入りの場所に向かいながら、夏実が首を傾げる。


「うちらいつも、いっしょだったのに」


春乃、夏実、秋菜、冬香。

誰が名付けたのか、【グループ 春夏秋冬】。

おっとりした春乃。

力強い夏実。

おしとやかな秋菜。

凛とした冬香。

全く異なる性格で、時にはケンカをしながらも、学生時代はいつも一緒の四人だった。

その繋がりは卒業後も変わらず。

いつも一緒、とはいかないまでも、しばしば連絡は取り合う仲だった。


『秋菜のとこは、ほら、お家が厳しかったから。ねぇ?』

「寄り道禁止だったのよ」

「秋菜のとこ、門限も早かったじゃない?」

「そうだ、そうだった。秋菜んとこ、ママさん超怖かった!あたし一回、うっかり門限破らせちゃって、一緒に怒られたっけ」


あははと、殊更に楽しそうな声を上げて、夏実は笑う。

泣き腫らした真っ赤な目を細めて。


「冬香は、そこ」


いつものお気に入りの席。四人掛けの、丸テーブル。

先に席に着いた夏実が指を指したのは、自分の正面の席。


「あら、なぜ?」

「【春夏秋冬】なんだから、うちら」

「そうね。夏の正面は、冬、ね」

「じゃ、わたしは、ここ、かしら?」

『じゃあ、私はここね』

「そうそう。こんな感じ。やっぱ、懐かしい」


夏実はそう言って、ゆっくりと順々に丸テーブルの席を見る。


「春、夏、秋、冬」

「春夏秋冬。狙って一緒にいた訳ではないのに」

「私達だって、言われるまで気づいていなかったのにね」

『本当よねぇ』


しんみりとした雰囲気を振り払うように、夏実が言う。


「ここのケーキ、いろんな種類があって、全部おいしくてさ。みんなで違うの頼んで、シェアして食べたの、覚えてる?」

「もちろんよ。春乃が言い出したのよね。ほんとうに、見かけに寄らず、無謀な子」

『結局、全種制覇はできなかったのよねぇ…悔しいな』

「またみんなで通って、全種制覇、目指してみる?」

「みんなで、か」


四人掛けの丸テーブル。

ひとつだけ空いた席を見つめて、夏実はポツリと呟いた。


「なんでよ。なんで、あんたはここにいないのよ…なんで『みんな』の中に、あんたはいないのよ…」

「夏実…」

「うちら、【春夏秋冬】なのに。四人揃って、【春夏秋冬】なのにっ!」


高ぶった気持ちを落ち着かせるように。

祈りを捧げるように。

閉じた夏実の目から、涙が零れ落ちる。


『もう、泣かないで、夏実』

「ね、夏実。今日は【四人】で、ケーキを食べましょうよ。きっと今私達、四人揃ってる。私、そんな気がするの。だから、みんなで一緒に。昔みたいに」

「そうよ。一番元気なあなたには、泣き顔なんて似合わないわ。笑われるわよ?そんな顔してたら。さ、選びに行きましょ」

「うん…そうだね」


涙を拭い、笑顔を作って、夏実は席を立つ。

喪服姿の三人の背中を見送りながら、白い影が嬉しそうに、ユラユラと揺れていた。


ありがとう、みんな。

ワタシハ、ココニ、イルヨ。


【終】

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ここに いるよ 平 遊 @taira_yuu

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