12月24日

 クリスマスイブの今日。待ちに待ったなんて人も沢山いるだろう。僕も今日が待ち遠しかった。けど、多少の不安も抱えている。今日のデートの終わりに久山は言いたい事があるって話だ。僕にはそれが僕が久山さんの彼氏に相応しいかの審判なんじゃないかって思ってしまっている。


 けど、僕は何がどうあれ今日のデートを楽しんで貰うだけだ。そして、愛想を尽かされないようにする。頑張ろう。


−−−−−−−−


 なんて事を、考えていたら早速アクシデントに巻き込まれた。待ちあわせの場所は駅前のクリスマスツリー。そこに午後3時の予定だった。けれど僕の乗っていたバスが出発早々交通事故による渋滞に巻き込まれてしまった。予定では2時48分に駅前に到着するはずだったけどまだ駅まで距離があるのに手元の時計は2時30分を示している。普段どおり行ってもあと30分はかかる。遅刻確定だ。いつも学校とかは遅刻しないのに今日に限ってこれだ。運が悪いなんてものじゃない。


 僕は取り急ぎ久山さんに『申し訳ない。渋滞で遅れる』とメッセージを送信した。少し時間を置いて既読が付いた後、『わかった。駅前の喫茶店でおやつにミラノサンド食べて待ってる。焦らなくても良いからね。』と返してくれた。でも、これは久山さんとしては減点なんじゃないかと思えてしまう。


 とにかく、やきもきしながら動き出すのを僕は待っていた。そして、最終的に駅前に辿り着けたのは3時50分くらいだった。僕は『ごめん遅くなった。今到着した。』とメッセージを送信した。返ってきたのは『わかった。すぐそっちに行く』というメッセージだった。


 僕は待ちあわせの目印のクリスマスツリーを背に向けながら久山さんを探した。すると駆け足で僕の元へ来る人が居た。


 「やぁ、私ばっかりくつろいでごめんね!」


 「いや、謝るのは僕のほうだから。本当にごめん。こんなに遅刻しちゃって。折角今日の予定空けておいてもらっていたというのに。」


 「それは不可抗力だからしょうがないって。」優しい笑顔で久山さんは言ってくれた。僕は早速失敗してしまったというのに。


 「うん。ありがとう。そう言ってくれると少し楽になる。」それに対して、僕はうまく笑えているだろうか。緊張と不安で引きつってはいないだろうか。


 「さて、今日はどこに行くの?」


 「まずは、駅ビルにある雑貨屋さんでお買い物と考えていたけど、どうかな?」


 「いいね!行こうよ!」


−−−−−−−−


 僕達は駅ビル内の雑貨屋さんまで来た。今日はクリスマスイブということもあり、やはり繁盛している。他の人達もデートだったりするのだろうか。


 「ねえ!これ良くない!?」


 「ぬいぐるみかぁ。いいと思うよ。」

 

 「でも手持ちギリギリの値段なんだよね。」


 「あぁ、それは悲しいね。」


 こんな事を会話しながら僕達はお店の商品を見て回っていた。これはどうとか、そんなことをやり取りしつつ見ていると久山さんが一つの商品を見せてきた。


 「この万年筆よくない?」久山さんが見せた万年筆は品も良さそうな、それでいてお洒落さも感じさせる物だった。


 「いいね。いくらぐらいなの?」


 「だいたい3000円。折角だし、お揃いで買っちゃわない?」


 「そうしようか。」


 僕達は万年筆を買った。同じモデル、同じ色だ。お揃いの物を持てるというのはなんとも嬉しい。大事にしよう。


−−−−−−−−


 雑貨屋さんを出た後、イルミネーションを見に来たけど何かトラブルがあったようで電飾の灯が消えていた。復旧にはまだかかるらしい。時間的にも丁度良いと思ったのにこれでは……。


 「ごめん。もっと早ければ少しは見られたかもしれなかったのに。」


 「いや、いいよ。雑貨屋さんに行く事に私は賛成したわけだし。……それはそうと、これからどこ行こうか?」


 「少し予定よりは早いけど展望タワーにする?」


 「うーん、良いと思うけど……。」しかめっ面で久山さんはスマホに目を落としながら言った。


 「どうしたの?」


 「いや、なんかね。今速報で爆破予告があったってニュースが来たんだけど……なんかその展望タワーがされたらしいんだよね。」


 「えぇ……本当?」


 「うん。イタズラだろうけど今日はもう登れないよね。」


 「じゃあ……どうする?」


 「フライドチキンでも食べに行こうか?」


 「……そうするしか無いよね。」


 結局、僕達はフライドチキンのお店に行く事にした。道中どんな物が好みなのか、チキンに何を付けようかとか話をしながら向かっていた。久山さんは和風なタイプの物が好きとか色々知ることができた。


 近場の店舗に着いてみると、よく見たら張り紙がしてあった。それによると今日のチキンは既に完売とのことだ。店内をちらと見るとまだ食事中のグループがいくつか見られた。多分もう少し早ければ間に合ったとかもしれない。……また失敗だ。


 「……なんか、ごめんね。」


 「いや、小竹君が謝ることじゃないよ。……近くにコンビニあるからそこでチキン買お?今はどこのやつも美味しいからさ。」


 「……うん。そうしよう。」


 「じゃあ、行こっか。」


 僕は近くのコンビニをスマホで探した。すると、喧騒から少し離れたここから多少歩く場所にあることがわかった。そこに僕達は向かうことにした。


 しばし歩いて、目的のコンビニに到着した。僕達は早速店内に入り、なんとなく飲み物も冷蔵ケースから出してレジに持って行った。そして目当てのチキンをそこで二人分注文して購入し店を出た。


 近くには公園がありそこのベンチに腰掛けてチキンを食べることにした。見回してみると時間帯のせいか、誰も居ない。


 僕達は腰掛けて早速ジュースをレジ袋から取り出して、グラス同士をぶつけるようにペットボトルをぶつけあった。


 「カンパイ。」僕らは同時に言っていた。


 ペットボトルのフタをひねるとぷしゅという音とともに甘い果物の香りが漂った。一口含むと甘く、ほんのり酸味を感じた。


 次に、チキンをレジ袋から出して個包装を破き中身を取り出す。すると、先程とは違い香辛料と鶏肉の揚げた特有の香りが漂った。


 一口かじると、肉汁が溢れ香辛料のスパイシーさと塩味が口の中に広がった。コンビニの物と言えど侮れない。世界的なチェーンのフライドチキンにも勝るとも劣らない味わいだ。


 「……美味い。」思わず感想がこぼれる。


 「そうだね。美味しい。」久山さんも同じことを、思ったようだ。


 「……なんか、ごめんね。今日のデートグタグタになっちゃって。あろうことか寒空の下でチキン食べることになっちゃって。」


 「……私は気にしてないよ。小竹君がわざとやってることじゃないから。それに十分楽しかった。」


 「……うん。ありがとうね。」


 それきり会話は止まってしまった。


 そうこうしてるうちにチキンを食べ終わった。出た残滓とかはレジ袋に入れてカバンに仕舞っておいた。家で改めて捨てれば良い。


 「……そうだ、昨日言ってた話したいこと、今で良いかな?」


 「……うん。チキン食べたら解散のつもりだったからね。……それで、何かな?」


 言いたいこと、それが今わかる。僕は色々感情が入り混じっている。緊張とも不安ともよく分からない。久山さんは一度深呼吸して、それから話し始めた。


 「……私ね、ついこないだまで本当に恋をしていなかったみたい。」


 「……どういうこと?」


 「実は、宗像君から10日前くらいに告白されたの。あ、勿論断ったんだけどね、その時に……別に嫌悪してた訳じゃない筈なのに絶対に嫌だって思った。……でね、なんでだろうと思ってたら小竹君の事が思い浮かんで、何て言ったらいいのかな。その時に初めて……好きになったような、そんな気がしたんだ。私はそれでも小竹の事が好きだと思っていた。けれどそれはどっちかと言えばあくまで友達としてで、異性としてでは無かったのかも。」


 「……つまり、その時までは恋してるって訳じゃなかったの?」


 「……うん。でも私はそれまででも小竹君の事が嫌いとかそういうわけじゃなく、むしろ恋してると思ってた。でも、それはほんの表層を撫でてるだけだった。……私ね、小竹君に告白されるまで恋愛っていうものをした事が無かった。だから自分が本当に恋してるとかそういうのに気がつかなかったのかも。」


 「そうだったんだ。」


 「だからね、これから本題なんだけど……。」


 「……今の話が言いたいことじゃなかったの?」これから言うことが本題、まさかと思うけど……別れ話だけはあってほしくない。絶対に。


 「まあね。一応私の中でこれだけはしておきたいって思ったんだ。本当はデートの前に言うべきだったんだろうけど……。」


 久山さんは、さっきより少し顔を赤らめて一度深呼吸をして、少し間をおいて話し始めた。


 「小竹君。……私はあなたの事が好きです。どうか……お付き合いしてください。」


 愛の告白。既に付き合っているはずの今、された。……多分、久山さんは本当の意味で付き合いたいと思ってくれたのだろう。なら返答は決まっている。


 「はい。お付き合いしましょう。」


 僕はそれだけ言った。


 「……返答は余程のことがない限り決まってるって解ってたけど……嬉しい。ありがとう!」


 「僕もだよ。……素敵なクリスマスプレゼントをありがとう。久山さん。」


 「……折角だから下の名前で呼んで欲しいな。」


 「……わかったよ。……あかりさん。」なんだか照れくさく、随分とたどたどしい呼び方になってしまう。


 「……ありがとう。……勇斗君。」明さんもどうやら同じようでどこかたどたどしい呼び方だった。


−−−−−−−−


 それから僕達は家路についた。帰りがけイルミネーションの近くを通りがかると、いつの間にか復旧が終わったのか、電飾が輝いていた。少しばかり明さんと見ていた。……本当の意味で恋人同士になれた後に見られたというのは実は運が良かったのかもしれない。


 僕達がこれから歩む未来もこのイルミネーションのように、明るく輝かしくあってほしい。……ずっと続いて、出来れば……未来を共有できるような、そういう関係になりたい。僕はそんなことを考えていた。

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大好きな彼女からの意外なクリスマスプレゼント 緑川 湖 @Green_River_114

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