助手と世界の交差点

日出詩歌

助手と世界の交差点

 先生と私は深い深い穴から這い出ると、土埃だらけの軍手と作業着をぱんぱんとはたく。そして小高い地べたに2人して腰掛けた。

「それ。わが助手、発掘の休憩がてらに本業だ」先生は私の前に拾得物を並べると、その内一つを手に取る。土塗れの小さな白い塊だ。

「千年前の古代文明、その生き証人たる君に聞こう。これは何かね?」

「発泡スチロールですよそれ。梱包する時に使うんです」

「ほう、梱包とな。私はてっきり地震防止剤かと思ったのだが…違ったようだ」

 そんなものはない。未来人はつくづく発想が豊かだ。

 私は呆れて溜息をつく。

「先生はどうしてゴミばかり集めるんですか。調査隊が遺跡と呼ぶあそこの穴に埋まっているのは…弱者から色んなものを奪って、弱者は頑張ったって報われることのない、価値のない世界なんですよ」

 こんな世界滅べばいい、なんて誰もが考えた事がある話だ。自分に世界を変える力なんて無いと知った時、ふとそう思う。かつての私も例外ではなかった。

 そんな時、変な科学者に出会ってコールドスリープマシンの被験者になった。別に死ぬなら死んでよかった。

 そして寝て起きたら、私の世界はとっくに滅んでいた。私が悪と呼んだそれは土の下で息絶えていたのだ。

 けれどそれを掘り起こす人が居た。世界の塵を宝と呼ぶ人が居た。

 子供みたいにきらきらした目で。

 正直、自分を死に至らしめた拷問器具を見せびらかされている様な気分だった。

 だからこそ聞いてみたい。

「一体私の世界のどこに価値があるんですか」

 先生はややあってから口を開いた。

「君の世界に価値はない。大切なのは人がその世界で足掻きながら生きたって事だ。ゴミだと貶されようが何も変わらなかろうがそれでも生きた。その生きざまに価値がある。だから私は魅せられるのさ」

 そっか。納得して私は俯く。

「じゃあズルして未来に逃げた私は価値が無いって事ですね」

「勿論価値など無いさ」

 そして先生は私の頭に優しく手を置く。

「だって君はまだ生きてるんだから。大事なのはこれからだよ」

「これから…」

「うん。過去だろうが未来だろうが、生きる道はまだあるはずさ」

 先生はそれだけ言って立ち上がった。

「さて、もう一頑張りいきますかね。立てるか?」

 埃の付いた手が差し伸べられる。

 そういえば。荒れ果てた未来で初めて目を覚ました時。知らない世界で孤独だった時。私はこの手に生かされたのだった。

「はい!」

もう一度。私は先生の手を取った。

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