Do you believe that?

 炭酸がぬけたコーラは、ただの砂糖水になってしまった。

 ワークはあと少しで終わるが、そのあと少しが終わらない。

「とりあえず、帰ろうか」

零が腰を上げた。

「うわ、もう八時か。こりゃ、徹夜かな。英太は?」

「俺も」


 自動ドアから、外に出ると冷たくも、ほてった体には心地よい風が頬をなでた。

 人の波に飲まれないよう三人で歩いていく。

「僕はさ、信じるよ、英太の話」

零は静かに言った。意外だった。

「マジか。俺はフェイクにしか思えないけどな」

「さすがは零、わかってる」

英太は人懐っこい笑顔を浮かべた。

「ただ、」

零は再び口を開いた。

「サンタさんはいないかな。英太の話は本当だとしても、サンタさんはいないと思う」

サンタクロースの店員が、レジ打ちをするケーキ屋の前を通りすぎた。

「おっ、俺もサンタさんはいないと思う。零も言うんだし、諦めろ、英太」

ニコニコ顔だった英太は途端に顔を曇らせた。しかし、零は思いがけないことを呟いた。

「きっと、何かあるんだよ。家族そろって英太を騙したとか」

零の顔は、謎に喜ぶようだった。そういえば、零はよくミステリーを読んでた。

「そこまで言うならさ、冬休みに三人で調べようぜ。題して『消えたサンタさんを追え』!」

「英太って、いちいち、タイトル付けるの好きだな」

「ふーん。稜は参加しないのか」

英太は目を細めて言った。

「は? そんこと言ってないし。どうせ居ないのに。時間の無駄。なぁ、零」

「え、僕はやりたいな」

「よっしゃ。な? 稜もやろう」

「零もかよ。俺、ぼっちじゃん。それはいやだしな、まあ、うん」

歯切れ悪くも、俺は久しぶりにクリスマスの興奮を感じた。それは、いつかサンタクロースを信じていた時の興奮だった。

「とりあえず明日の補講終わりに、事件現場の俺の家集合な」

了解、と言おうとしたときだった。

 突然、鈴の音がはっきりとに聞こえた。心地よい音だ。耳に響く鈴独特の音はなく、澄み切った音だった。それは、空から降ってきたかのように、はるか頭上で鳴った。見上げても、空には、宝石を散りばめたような、星空がただ、どこまでも広がっているだけだった。

 再び、視線を戻すと、零はさらに好奇心の目を光らせていた。

「……俺に、一ポイント」

英太は言った。

                               〈了〉

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消えたサンタクロース 朝凪千代 @tiizu

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