第53話東海道(〝りほ〟視点)
「さて、どうやって陸奥まで行く?」
「東海道を行きませぬか? 直線的だし」
「東海道じゃと!?」
平安時代の京から陸奥までの陸路は、東山道が普通じゃった。
京から近江国、美濃国、飛騨国、信濃国、上野国、下野国、武蔵国を通って陸奥に入る。険しい山道が続く上、陸奥へ行くには大きく遠回りしなければならないが…。
当時、東海道を進もうとすれば、どこかで海路を行かねばならなかったのじゃ。
「船旅もおつなものでは?」
「船…あれは揺れが大きく、いつ転覆するとも知れぬ最悪な乗り物じゃ。海のない京で育ったであろうそなたに耐えられるかの?」
「何事も経験、経験。それに…」
「それに?」
「追手がかかるであろう我らの旅。普通に東山道を通っては容易に追いつかれましょう。追手を撒くためにもどこかで海路をとるのがよいかと」
「そなたがそれで良いなら、異存はあらぬが…」
とりあえず…わらわたちは東海道を行くこととなった。
♠️
東海道には有名な関所がある。鈴鹿関。近江国と伊勢国の境にある場所。
ここは、東海道において箱根関のつぐ難所と言われている。急勾配の坂道がつづき天候も変わりやすい。
「鈴鹿山、ここは鬼の棲家として有名なところ。一稼ぎしましょうか?」
路銀か?
「鬼狩り…丸焼きかのぅ」
「丸焼き…」
「まさか、生で食せ…と?」
「いや、どのみち鬼を食べるのですな」
「食べなければ、死ぬじゃろうが。飢え死にじゃ!」
「人は食べないので?」
「食うてよいのか?」
わらわは意外に思って、聞いた。
人を食うと討伐の対象になるし、長いこと食うのを遠慮しておったのじゃが…。食うとしても精気を首から啜るくらい。
「いや、食わぬ方が良いでしょうな」
「じゃろう」
そんなとりとめない話をしていた、その時。
シャラン♪
鈴の音が聞こえた。
♠️
鈴の音は、関所を超えた少し先で聞こえた。
そちらを注視する。
「旅の陰陽師さまとその使い魔とお見受けいたします」
「使い魔ぁ?」
わらわは、はるか太古から生きる神獣じゃぞ?
「ほほほ。失礼、神獣・九尾の狐様」
巫女服姿の女が目深に笠を被って佇んでいた。笑い声は玉を転がすように涼やかである。
「何か用ですか?」
「いえ、一夜の宿でもいかがかと」
「どうする?」
もうすぐ、夜。
確かに、宿を取らなくてはならない。野宿は嫌。
「是非ともお願いしましょう」
「よいのか?」
わらわは念を押した。
あれは……歩き巫女のような…遊び女のような風体じゃが…鬼じゃぞ。
しかも、高位の鬼。溢れ出る鬼気を巧妙に隠しておるが、わらわの目や鼻は誤魔化せぬ。
「笠で隠していますが、あれは
孝明は、うきうきした感じで言った。
相変わらずというか…好色な奴。
「女で失敗して京から逃げだしておる途中のくせに」
女郎蜘蛛は交尾のあと、オスを喰らうという。
さしずめ、この女も客人を油断させたあげくに栄養価の高そうな陰陽師を貪り食うつもりなのではなかろうか?
そうでなくても、追手にも追われてもいるはずじゃ。いろいろ警戒しなくて良いのか??
まぁ、よい。食うか食われるか、旅の余興じゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます