第4話 本日もカフェ エスペランサは営業中

 魂が抜けた遺体はその場にくずおれて物言わぬ骨と肉の塊となってしまうため、それらを埋葬し直し必要がある。当然、たった九人でできるような仕事ではないため、浄化が終わったら墓守の一族や聖職者を呼び寄せる算段となっていた。

 本来ならばここで帰ってもいいのだが、アリサはこの埋葬作業までも丁寧に付き合っている。埋め直し、祈りを捧げるその様は完全に聖女そのもので、すでに引退しているとはいえ多くの者達が心を打たれている。


 やがて朝日が昇る時間になりやっと埋葬作業が終わる。口々にお礼を言いながら去っていく人々を見送り、そこには来た時同様ルーナと護衛騎士、そしてアリサとユアンのみになった。

 

「ありがとうございます、アリサ様」


「いいえ、お安い御用よ」


「……私、全然駄目でしたね。押し寄せるアンデットに怖気付いて祈りの言葉が続かなくって……聖女失格です」


 俯き涙声で言うルーナの手をそっと取り、アリサは極めて優しい声を出す。


「そんなこと無いわ。皆、初めは自信がなかったり失敗したりするもの。私もそうだったもの。大切なのは努力を怠らず、日々研鑽を積むことよ。祈りを捧げ、聖書を読み解き、務めを果たしていればルーナ様も立派な聖女になれるわよ」


 真摯な言葉に胸を打たれたルーナは感極まった声で「アリサお姉様……!」と言った。

 アリサはニコリと微笑むと、言葉を続ける。


「何か困ったことがあれば、いつでもカフェ エスペランサへ来てね。いつでも私は待っているわ」


「はい……!」


 コクコク頷くルーナは感謝の言葉を述べ続けながら、馬車に乗って神殿へと帰って行った。送ると言われたので聖都までその言葉に甘え、城壁内に入ったところで降りてアリサとユアンは徒歩で店兼自宅へと帰って行く。


「とりあえずお風呂で、そのあとは開店作業ね」


「まさか、徹夜後にも店を開ける気ですか? 少し休んでください」


「あら、何を言っているの。お客様がいらっしゃるんだからいつでもお店は開けておかないと」


 ぐっと両手に握りこぶしを作るアリサは完徹の疲れを微塵も感じさせない。頼もしいことこの上なかった。


「さっ、帰って汚れを落としましょ!」


 朝日に照らされ、良い笑顔を浮かべるアリサにユアンはついていく。

 本日もカフェ エスペランサは営業するだろう。新たに来るお客様を待ちわびながら。

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