恋人マッチングシステムを使ったら、お相手に妹が選ばれてしまった。

新名天生

恋人マッチングシステムを使ったら、お相手に妹が選ばれてしまった。


 俺は変態だった。

 だって……こんな兄は世の中にいない。

 妹を愛する兄なんている筈が無い。


 そう……俺は自分が変態だって気が付いてしまった。

 


「おはよう、お兄」


「ああ、おはよう」

 朝、一番に妹からおはようと言われる事が俺にとって最も幸せを感じる瞬間だ。

 この幸せがずっと続けばいいなんて思っているが、俺と妹は兄妹……この挨拶が延々と続くわけはなく、いつか終わりが来てしまう。


 そんな事をいつも考え、そして……もし妹が誰かの物になり、そいつと……そんな想像をしただけで気が狂いそうになる。

 


 そう……俺はやっぱり変態なのだ……。

 


 思春期に突入した俺は、恋をしてしまった。

 それまでは異性に全く興味がなかった……勿論同性にもだ。


 周囲はアイドルや同級生の誰が好きだのと盛り上がる中、俺はそいつらを冷めた目で見ていた。

 だがそんな俺にもそいつらと同じ思春期がやって来てしまう。

 俺はある日の夏をきっかけに四六時中その異性の事を想い、考えてしまうようになった。


 それ以来、その彼女の事を常に意識して、彼女の事を常に想い……そして、思春期特有の行為をするようになってしまう。


 性の対象として、意識してしまう。


 別に普通の事だと周囲の友人達は口を揃えてそう言うが、俺はその相手を友人達には一切伝える事は出来ず今に至っている。


 言えなかった、言えるわけがない。

 誰であろうとも俺の好きな相手の事は打ち明けられない。

 その想いを寄せるその相手の事は、一切公言してはいけないのだ。


 なぜなら、その相手は……俺の妹だからだ。


 一つ年下の妹、 名前はあずさ小学生の時まではただの妹としか思っていなかった。

 それまではなんの感情もなく、俺と妹はその辺の兄妹同様に普通にすごしていた。いや、今思えそれはそうあるべきと自分に言い聞かせていたのかも知れない。


 しかし小学校を卒業すると、何故だか俺は少しずつ妹の事が気になり出していた。


 そして家族旅行で行った沖縄旅行が完全に切っ掛けとなる。


 そこで妹は初めてビキニを着た。


 小さい頃は一緒にお風呂にも入っていた。だからそんな物見た所でなんでも無いと思っていた。

 しかし、青いビキニを着た妹の美しさに俺は思わず目を奪われてしまった。


 少女と大人の中間、いや、妹は同学年の女子達よりも少し成長が早かった。

 

 いつの間にか大きくなっていた胸、括れたウエスト、張りのあるヒップ。

 透ける様な白い肌が沖縄の青い海と重なり、まるで妹が妖精の様に、天使の様に見えてしまったのだ。


 でもそれは一時の気の迷いと、俺はそう思っていた。

 妹を可愛いって思う事は別におかしく無いと、この時はそう思うように、自分のその気持ちはただの勘違いだってそう思い込んだ。


 しかし、それ以降……俺のその思いは、妹へのこの想いは、どんどん膨れ上がっていく。


 そして俺は数ヶ月後遂に気付く……気付いてしまう。これは……この想いは……恋だって事に。


 でも、どうしようもし無い、告白なんて出来る筈も無い。

 自分の中で妹に対しての想いが膨れ上がり、やがてそれが自身のそして妹の成長と共に性欲へと変化していく。


 だが、俺はひたすら耐えた、妹のパンツに手を出さないように、妹の風呂を覗かないように……そして妹を襲わない様に、ひたすら耐え続けた。


 しかし思春期の性欲は凄まじく、ただ耐えるだけではいつか爆発してしまう。

 自分でなんとかしても、運動しても発散する事は出来なかった。


 考えてみれば当たり前の事なんだ。だって一つ屋根の下で大好きな女の子と一緒に暮らしているんだから。


 それでも俺のこの気持ちを唯一解放出来る日があった。


 それは妹が趣味で始めたダンスのレッスンで遅くなる水曜日だ。


 俺は水曜日、確実に帰って来ない時間を見計らい妹の部屋に忍び込む。


 そして妹のベッドに顔を埋めた。


 甘い香りが僕の鼻腔を擽る。

 生クリームと蜂蜜とチョコレートを混ぜたような香り、ほんの少しバニラも混ぜよう、そうすると妹の香りになる。

 今度作って見ようか、妹の香りを俺はそう思いながらベッドに寝転び枕に顔を埋める。 くんかくんかと匂いをかぐ。

 どんなアロマよりも芳しい香りを堪能する。


 そう……俺は……妹の香りを嗅いで満足する、変態なのだ。



 しかし、そんな事で発散していた俺にも、ついに限界がきてしまった。

 高校2年になってもいまだに妹の事が好きで溜まらない俺。

 

 翌日俺と同じ高校に入学を控えた妹がお風呂あがりにバスタオル一枚で俺の前に現れたのだ。


「あっと、ごめん、着替忘れちゃって」


「お、おお」

 風呂に入るのに着替えを忘れる事なんてあるのか? とそう思ったその時、妹のバスタオルがパサリと落ちた。


「きゃ!」


「…………」

 身体を腕で隠し、慌ててバスタオルを拾う妹は、あの沖縄の時よりもさらに美しく成長していた。

 身体を屈めバスタオルを拾い身体に巻きつけた妹は、真っ赤な顔で俺を睨み言った。


「お兄の……エッチ!」

 パタパタと音を立て部屋に逃げていく妹の後ろ姿を呆然と見つめ、俺は思った。


「……ああ、もう駄目だ」

 

 もう匂いをかぐだけでは満足出来ない。このままだと、俺はとんでもない事をしでかしてしまう。

 このままでは妹に手を出してしまう……そして、そんな事をすれば家族が崩壊してしまう。


 忘れなければ……早く妹の事を忘れなければ……。


 でもどうやって……俺は考えた。そして思った。


「そうだ! 誰か別の人を好きになればいいんだ」


 自分の容姿に自信が無いわけじゃ無い……身長だって低くない、顔もそこそこと自負している。

 その証拠に今まで何度か告白めいた事を言われた事もある。


 ただ好きになれなかった……どんな人も、それこそテレビに出ているアイドルでさえも、妹と比べると霞んでしまう。


 それでも……俺は妹を忘れる為に……誰かを好きにならなければいけないのだ。


 だから俺は……好きでもない女子に告白し、そして……見事付き合う事になった。


 しかし……そんな思いで付き合っても、長続きする筈もなく。

 僅か数ヶ月も経たず別れる事になってしまう。


「なんで何もしないの? 本当に私の事が好きなの?」

 そう言って彼女は俺の前から去って行った。そう、俺は彼女に何も出来なかった。どうしてもそんな時……妹の顔が浮かんでしまうのだ。


「もう……本当に駄目だ」

 自力では無理と悟った俺は、一つの決断をする。


 この国には応募すれば強制的に恋愛をさせられるシステムがあるのだ。

 

『少子高齢化対策国民恋人適合システム』通称マッチングシステム。

 恋愛に臆病になっている若者を救済するべく、国が行っているお見合いシステムだ。

 これに登録すると、自動的に自分の理想の相手が選出され、1年間強制的に付き合う事になる。

 最初は合わないと思っていても、1年間付き合う事によって次第に相手を想うようになる……らしい。

 自分の理想の人物を登録すると理想の相手と巡り会える。

 過去の膨大なデータから選出された相手だけに、相性は抜群なのだ。


 俺はすがる思いでマッチングシステムに登録した。

 妹を忘れる為に、この呪縛から逃れる為に。



 そして2週間後相手が選出され、俺のスマホに連絡が入った。





「どどどど、どういう事なんだ?」

 国が管理する『少子高齢化対策国民恋人適合システム』通称マッチングシステムから遂に相手が紹介された。

 そして俺はそれを見て愕然とする。


 【二ノ宮一輝様】

 この度は『少子高齢化対策国民恋人適合システム』ご利用頂きありがとうございます。

 今回ディープラーニングにて最適と思われる方が決定致しました。

 貴方のお相手は『二ノ宮 梓』様となりました。

 詳細はシステムのマイページにて別途ご案内致します。



 確かにそう書かれていた。


「いやいや嘘だろ、故障か? そんな馬鹿な事が……そうか同性同名か?!」


 俺はその十分すぎる程見覚えのある相手の名前を見てそう結論付けた。

 あり得ない、でも……もしかしたら、俺は慌てて部屋のPCの前に座ると、マッチングシステムのホームページを表示しパスワードを打ち込んだ。


 そしてマイページを確認すると、スマホのメッセージソフトに来た通り新規のお知らせが表示されている。


 俺はカーソルを新規のお知らせに合わせると慌てる様にマウスの右ボタンを連打した。


『二ノ宮 梓』詳細

 俺の相手の欄は、間違いなくそう表示されている。

 スマホの小さな画面で慌てて見たので、『二ノ宮』を『三ノ宮』とか『梓』を『柊』とかに見間違えたわけでは無かった。


 一字一句間違いなく、妹と同じ名前だ。


 俺は最後の確認をするべく詳細をクリックする。

 いくつかの注意事項に同意させられた後、ようやく相手のプロフィール画面にたどり着いた。


「あああああああああ……」

 その詳細情報を見た瞬間俺は全身が震え、奇声を上げ椅子に座ったまま後ろに倒れてしまう。

 背中を強打するもあまりの事に感覚が無い。でもこれが夢ではないって事だけはわかる。


 俺はそのまま天井を見上げる。

 だが天井は見えなかった……なぜなら俺の目から涙が溢れているから。


 そう……間違いなかった……そこに書かれていたのは間違いなく同一住所、学校も誕生日も同じ、俺の知っている事と全て同じ情報だった。


 

 俺の相手は……間違いなく……俺の妹だった。



「お兄ちゃん! ど、どういう事なの! ってどうしたの!?」

 俺が涙を流し天井をみあげていると、妹は息を切らして俺の部屋に駆け込んでくる。

 天井なんて見えなくても良いが、妹は一瞬足りとも見逃したく無い俺はシャツの袖で涙を拭い、ゆっくりと妹に視線を移す。


 いつもの様に美しい黒髪ロングをたなびかせ、大きな瞳は俺を見て驚きのあまりいつもの1.5倍程大きくなっていた。

 その顔は、まるでプリクラの修正後の様だった。


 可愛い……俺の愛する人はやっぱり可愛いな……そう思うが今はそれどころでは無い。


 俺は最後の確認をするべく妹に聞いた。


「お前も……マッチングシステム使ってたのか?」


「え! う、うん……だって……お兄に彼女が……ううんなんでもない」


「そうか……」

 それ以上聞く必要は無かった。妹もマッチングシステムを使っていたのは明らかなのだから。


「そ、それより、どうして? なんで私がお兄となの!? あとなんでそんな状態で寝転がっているの? なんで泣いてるの?!」

 うん、まあ、突っ込みどころ満載だよな。


「お前は気が付かないのか?」


「な、なにを?」


「いや、俺も断定したわけじゃないんだけど……」

 椅子に座ったままの姿勢で仰向けに寝ている間抜けな俺は、そのままゴロリと転がると、のそのそと立ち上がる。


 そして、妹の手を取ると階段を駆け下り、リビングに向かった。


「ちょ! お兄? ど、どうしたの?!」


「確認しに行くぞ」


「だから何を?」

 

「来ればわかる」


 夕食後俺と妹はさっさと部屋に戻るが、仲の良い父さんと母さんはいつも1時間程リビングで談笑している。


 俺は妹を連れ乱暴に扉を開くとリビングに入った。

 コーヒーを飲みイチャイチャしている両親は俺達を見て驚いた。

 しかし俺の顔を見て父さんは何か悟った様な顔をする。


「──そうか……まあ、座れ」


「ああ……」

 俺は何も言わず妹と二人で父さんの正面に座る。

 いつも座っているソファーなのに座り心地が悪く感じる。

 母さんは黙ってキッチンの方に行くと、俺と妹にコーヒーを入れ始めた。


 隣に座る妹は何が起きているかわかっていない様子だ。


 母さんがコーヒーを入れ俺と妹の前に置くと神妙な面持ちで父さんの隣に座った。


「なんでわかった?」

 親父は俺にそう言う。

 俺は持っていたスマホの画面を見せた。


「そうか……そんな偶然が」

 マッチングシステムの相手が妹になった事を見せつける。


 しかし、これは偶然ではない……俺はマッチングシステムの問に全て妹のデータを打ち込んだのだ。

 俺にとっての理想の相手は妹なのだ……妹の代わりを探す為に、出来る限り妹に近い人物を選んで貰う為に、俺の知っている妹のデータをそのまま打ち込んだのだ。


「そうだ……お前たちの血は繋がっていない」

 俺の思った通りの答えだった。


「どっちが養子なんだ?」

 俺がそう聞くと親父は俺を見つめた。


「俺なのか」


「ああ」


「そうか……」

 俺はそう聞いて少しだけショックを受け、そして安心した。

 妹が孤独にならなくて良かったと。


「え? ど、どういう事なの?! お兄」


「聞いての通りだよ」


「……そ、そうなんだ」

 そう言うと妹は俺の手に自らの手を重ねた。

 妹の手が震えている。妹はどう思っているんだろうか、俺の中で不安が過る。


「安心して」

 しかし妹は俺の気持ちを知っているかの様に俺の目をじっと見つめそう呟く。

 安心? 何を? と思ったその時、妹は両親に自分のスマホを見せた。


「私がお兄と結婚すればいい」


「え?」


「マッチングシステムでお兄を指名された、これって運命だって思うの、だから私……お兄と結婚する!」

 妹は俺の手を強く握りしめそう父さんと母さんに宣言した。

 驚く両親と俺、妹は何を言い出してるんだ?


「いや、ええええ? ちょっ、ちょっと待ってくれ、そんな事いきなり言われても、ってかさっきまで俺達は血の繋がった兄妹だったのに、いきなり結婚とか」


「お兄は私の事嫌い?」


「いや、そんな事は」


「私はお兄の事がずっと好きだった……兄妹なのにおかしいって、私は変態なんだってずっと思ってた……でもお兄に彼女が出来てもう諦めなきゃって、これ以上はお兄の迷惑になっちゃうって……そう思ってマッチングシステムに登録したの」


「え?」

 妹は俺と全く同じ気持ちでマッチングシステムに登録していた。

 そう聞いて一瞬兄妹だなって思ってしまう。


 そう……俺達は兄妹なんだ、血が繋がっていなくても、ずっと兄妹として育って来たんだ。


 その妹の言葉を聞いて、父さんと母さんは「二人で話し合って決めなさい」と言ってくれた。

 そして今までの事、これからの事は後で皆で話し合おうって、そう言ってくれた。

 

 俺と妹は話し合いをするべくリビングを後にして妹の部屋に入った。

 そして妹は最初にとんでもない事を告白する。


「あ、あのね……この間お風呂の後にタオルを落としたの……あれ……わざとなの」


「は? ええええ?!」


「わ、私そんなドジじゃないし!」


「いや、じゃあなんでそんな事」


「……あのね……お兄が私に興味があるか、最後に試してみたの……お兄時々私の部屋に入ってベッドでなんかしてたし」


「ええええ!」

 バレていた。


「だから……お兄を誘惑してみたの、でも、お兄は普通にスルーしたから……やっぱり脈は無いなって」


「……ば、バカ言わないでくれ……俺があの後どれだけ」


「わ、私だって……一杯泣いたんだから、その後お兄に彼女が出来たって聞いた時……一杯一杯泣いたんだから!」


「それなら、俺の方が泣いてるよ!」


「いいえ、私の方が泣いてますう」


「俺がどれだけお前の事好きでいたと思ってるんだよ」


「私の方がずっとずっと好きでいました!」


「「じゃあ……なんでマッチングシステムに?」」

 俺達は同時にそう聞いた。


「さっきも言ったけど……私はお兄に彼女が出来たって聞いて……それで……このままじゃ、いつか私お兄に襲いかかるかもって、既成事実を作って彼女と別れて貰おうって……でもそんな事したらお兄に嫌われるかも知れない……家族がバラバラになっちゃうかも知れないって、だから諦めようって、なんとしてでも諦めようって」

 綺麗な瞳に涙を浮かべ、妹は俺を見つめそう言った。


「別れたよ、とっくに」


「うん、マッチングシステムに登録したって事はそういう事なんだよね……でもなんで? なんでお兄は登録したの?」


「……俺だっていつかお前の……に手を出しちゃうかもって」


「え? 何に?」


「…………言えるか! と、とにかく俺もお前の事を諦めようって必死だったんだよ! 彼女を作ったのだって諦めようとして……でも振られた、お前の事がどうしても忘れられなく、どうしても諦められなくて」


「……お兄……それは、今でも?」


「…………あ、諦められるか!」

 俺がそう言うと妹はテーブルを飛び越え俺に飛び付いて来る。

 そしてそのまま二人で床に倒れ込んだ。


「嬉しい、嬉しいよおおおお、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃん」

 妹は俺の胸に顔を埋め何度も何度もそう言った。


「俺だって……でも、嬉しいけど……俺は、俺だけは、梓と……父さんと母さんと、本当の家族じゃないってのは少し寂しい」

 妹の頭を撫でながら俺の本音を吐露する。


「……だからなろうよ、家族に……ね?」


「え?」


「結婚式……しよ」


「な、何言ってるんだ、俺は年齢がまだ」


「関係無いよ……ね? 大丈夫私達にはマッチングシステムがあるよ」

 

 1年間強制的に付き合う事を義務とするマッチングシステム、そして1年後に判断を迫られる。

 別れるか、継続か、婚約するか……。

 婚約すれば結婚出来る年齢に達すると自動的に結婚する事になる。

 

「もう今から【婚約する】を押しちゃおうよ」

 二人がそれを押せば婚約が成立する。

 

「えええ? そんな……まだ始まってもいないのにそんなに軽くできるもんじゃ…………そうだな、俺達には必要ないか」

 俺達は抱き合ったまま笑った。

 俺達兄妹にお付き合いは要らない。だってもうずっと一緒にいるんだから。

 全てを知っている、子供の頃からの全てを……そしてそれでもずっと好きでいられたんだから。


 だからこれからもずっとずっと好きで居続けられる。

 

 血の繋がりなんて関係無かった。


 もう俺達は既に家族なのだから。



 俺と妹はスマホでマッチングシステムの画面を開く。

 そして婚約するのボタンを押した。

 いくつかの注意喚起が表示される。

 その全てにチェックマークを入れ、最終決定ボタンを表示させた。


「じゃあ良いか?」


「うん」

 俺と妹は顔を見合わせる、まるでこれからイタズラでもする子供の様な表情で見つめ合う。


 そして二人でうろ覚えの誓いの言葉を交わす。

「「病めるときも健やかなる時も(俺の事を)(私の事を)愛すると誓いますか?」」


「「はい!」」


 そう二人で言い合いそのまま初めての共同作業……ケーキ入刀の様にお互いの手をそれぞれスマホの上で重ねた。

 

「「せーーーの!」」

 

 画面には俺たちの婚約が成立したと……恐らく出ているのだろう。

 でも俺達にそれを見る余裕は無かった。


「お兄ちゃん!」

 妹は俺に抱き付くとそう呼んだ。


「もう婚約したんだから兄妹じゃないだろ? 俺の事名前で呼ばないのかよ?!」

 

「ううん、だってこっちの方が燃えるでしょ?」


「……梓の変態」


「お兄こそ」


「「あははははは」」



「そう言えば……一つ忘れてたね」

 妹はそう言うとゆっくりと目を閉じた。


「……そうだったな」

 俺達はそのまま……抱き合ったまま誓いのキスをした。


 そして、キスの後は……。



 俺達がスマホの画面に表示されている【婚約確定】の文字を見るのは翌朝の事になった。


              ~完~




 【あとがき】

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短編は他に下記も投稿しております。

『ドッペルゲンガーの恋人、彼女は元カノの生まれ変わり?』

https://kakuyomu.jp/works/16816700429277266933/episodes/16816700429277300464

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恋人マッチングシステムを使ったら、お相手に妹が選ばれてしまった。 新名天生 @Niinaamesyou

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