一話 異世界転移

 私は、辺りを見渡した。

 そこには森が広がっているだけで、さっき通ってきた扉すら無い。


「もしかして、これって異世界転移ってやつ?」


 脳裏には大好きな異世界転移系のラノベが浮かんだ。

 その主人公は急に魔法陣が現れ、気づいたら見知らぬ森にいたという感じだった。


 魔法陣は現れてないけど、気がついたら見知らぬ森にいたという点は似ているな……。


「まさか。こんなことってありなの」


 私は、思わず息を呑んだ。

 少し震えているのが私にもわかる。

 そして、ミーシャを強く抱きしめて叫ぶ


「やった、念願の異世界に来れた!ついに……。私の願いが叶ったんだ!」


 嬉しすぎて、ジャンプしたり走り回ったりした。

 まるで幼少期に戻ったようにはしゃいだ。

 嬉しすぎるんだからしょうがないよね。


 しかし、普段運動していない身体には、30秒程度が限界だった。


 私は、息を切らして光が差し込む草むらに倒れるように横になった。

 草むらは、私の体を優しく包み込んでくれた。


 確か、異世界転移者は、みんな元の世界に帰ろうとがんばってたけどなんでなんだろ。


 絶対異世界の方がいいと思うんだけどな。

 私には、元の世界に帰っても友達も親もいないし、帰る必要がない!


 でも中川さんに会えないのは少し悲しいかな。


 一緒に横になっているミーシャを抱きしめて起き上がった。


 黒いドレス、俗にいうゴスロリという服についている草を落とす。


 その後再び辺りを見渡した。


 さっきはパニックになっていて、気づかなかったが、一本だけ細い道が有るのを見つけた。


 獣道ぽいけど、まぁ大丈夫でしょ。

 迷いなくその獣道に入って行った。


 数分歩いてみたが、同じ光景が続くばっかりでどこかに繋がっているのか、怪しくなってきた。


「この服、黒だからめちゃくちゃ暑いんですけど」


 森とはいえ、密集はしていないから直接光が体に当たってくる。

 滴り落ちてくる汗を拭きながら、ちょうど木陰になっている木に寄りかかった。


「熱過ぎるよ、水とか無いのかな……」


 肩から斜めにかかっているポーチを開けた。


 開けると中には、スマホと財布、ハンカチにテイッシュ。

 最後に、コンビニで買ったナッツの入ったクッキーだけだった。


 お水もコンビニで買っておけば良かったな。

 すぐ帰るからいらないと思ったんだもん。

 まさか異世界転移するなんて想像もできないよ。


 木に寄りかかってから、体感時間で10分程度休みをとった。


 体からの汗が止まったのを感じて、歩き始めようと立ち上がった。


 その時、木の枝が折れた様な音が聞こえた。


「なんも踏んでないよね?まさか……」


 耳を済ましてみると、またすぐに、音が鳴る。

 段々と音が近づいているようだ。


 これってやばいやつかも。


 音が聞こえる方向に目を向けた。


 ⒉0の私の視力を舐めるなよ。

 よく凝らしてみると何かがのっしりとこっちに来ているのが見えた。


「まさか、あの動物って……」


 私は、後退りをしながら頭を働かせた。


 見たことがある動物に目が釘付けになりそらすことができない。

 異世界系のラノベには絶対に出てくる。


 あれは……。


「ウルフだーー!!」


 ウルフの来ている逆方向に全力で走った。


 ゴスロリ服のフリルを掴んで、お嬢様が走るの様な格好で逃げている。

 靴は、当然走りやすいスニーカーでは無く、厚底のローファーを履いている。


 そのせいですごく走りにくい。何度も転けそうになるのを我慢している。


 一般女性の半分の速度程度しか出ていない気がするんですけど。


 約25メートル走ったところで足の動きが鈍くなってきた。


「もう限界ー!足が取れるー!」


 もうとっくに限界を突破していた。

 気合いでなんとか走っている感じだ。


 数メートル後ろでは、飢えたウルフが涎を垂らしながら走ってくる。


 とにかく追いつかれたら死ぬ。


 しかし、どんなに全力で走ってもウルフの走るスピードには敵わない。


 もう手が届きそうな位置までウルフが迫ってきた。


 もう無理かも。


「あっ」


 石か何かにつまずき、履いていたローファーが脱げた。


 その瞬間に、視界が地面めがけて追突していく。


 顔が地面に追突する目前に背中に激痛が走った。

 背中の後は顔、手の順に激痛が走った。


「いったっ!」


 目を開けると、血だらけになっている手が視界に入る。

 次に、生暖かい液体が頭や顔から流れ出てくるのを感じた。


 どう考えても助かる様な出血ではない量をしている。


 しかし、転けただけでは出ない血の量をしている。

 激痛に耐えながらも視線をあげる。


 視線の先には、何本かの木が斜めに切り倒されていた。

 その木の前には、こちらにゆっくりと近づいてくるウルフの姿がある。


 まるで勝ち誇ったかの様な感じに見えた。


 ここで私はこの血の量について理解した。


 ウルフからの攻撃を受けてしまったのだと。


「ふふっ。私ここで死ぬんだ。やっと私の望んでいた世界にこれたというのに」


 大量出血のせいだろうか、痛覚が麻痺して痛みを感じなくなった。

 それに、目を開ける力すら無くなってきた。


 次第に視界が赤く染まり消えた。


 暗い意識の中、ふわふわした何かが身体に触れた感覚があった。


 まるでミーシャの毛皮に似てる。


 もしかしたらミーシャが助けてくれるのかもな……。





















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ゴスロリ娘とは、最強である。 わらび餅 @warabimoti1

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