3 -海勇《みお》、24歳side-



逃げるように避け始めたたんだ。

惟月さんから。自分の気持ちから。

惟月さんからは何も期待しないように、

自分の気持ちを押し殺す。

…別れの決心がつくまで何ヶ月もかかった。



そして、別れて3年かかった。

仕事でストレスを感じなくなるまで。

どうせ傷付くなら

自分に素直になった方が良いと思えるまで。


両脚が泥濘みで動けなくなっても、

全身でもがくのも楽しそうだと思えるまで。


好きな人の領域の中なら。




「束縛…されたくない」


「…じゃあ、逆にして?以外と楽しそう。

するのもされるのも」


『束縛するな』でもなく、

以前よくされた無言で冷たい反応でもない。

ソファに座る惟月さんに笑いかけると、

惟月さんも笑い出す。

俺の手の中にいる惟月さんは、

何も変わってなくて…


唇を重ねると、ゆっくり反応していく唇は

貪りたくなる程エロい動きで…


「……」


笑顔のまま、何度も唇を重ねた。

次第に体や心臓が煽られる。

以前夢中になった熱が自分の全身に巡る。

勢いが抑えられなくなって……笑えなくなる。


唇を離さずに深く舌を押し込むと

惟月さんの体がソファの上で倒れて

覆い被さる体制になった。


「……」


『……』


あの時も惟月さんをソファに押し倒した。


惟月さんの顔色を窺うと、目を丸くして…

いつもの余裕さが薄れて幼女のような瞳。

俺よりなんでも知っているはずなのに、

なにも知らない清純そうな。


「……」


『……』


惟月さんは避ける言葉も逃げる動きもしない。

口はSEXでお金を稼ぐ娼婦のような赤い唇で

多分どんな娼婦、男娼よりもエロく艶やか。

その唇でどんな言葉で恋人と過ごしてきたのか。


「……惟月さん…」


『……惟月さん…』


身長も身体つきもモデル並…

実際のモデルが憧れる理想的な男の体型で

ひとつも落ち度がないのに気取ってもいない。

…一緒に過ごす時間だけでも、

俺の自由にしたい。手にしたい。


惟月さんの真上、顔の隣に両手を置き、

両膝でも惟月さんを挟むように跨った。

こんな最低な男、

俺じゃなければ蹴り飛ばして欲しい。

…喜んで受け入れてくれるわけではないけど、

笑いかけると優しく笑い返してくれる。

昔も今も…


「…海勇…」


『…海勇…』


名前を呼ばれただけで好きだと言われたような、

求められているような気持ちになる。

俺がそんな気持ちで惟月さんと呼んでいるから…


『……惟月さん…』


「……惟月さん…」


…ゆっくりと、また唇を重ねた。

何度も重ね、熱い息と一緒に舌を絡ませると

下から腰を撫でられる。

惟月さんの唇と舌を味わいながら…

お互いの漏れる息が苦しさを表して激しくなる。

堪らずに惟月さんの体を

ソファの隙間に手を入れて強く引き寄せた。


「……ッ」


『……ッ』


…更に刺激したくて強く、引き寄せる…


『……ァッ、で…電気…消して…?』


鮮明に覚えている。

あの時も、みるみる潤む瞳で見つめられたから

それを隠さないで欲しいくて…


「…電気消して欲しい…?」


「……ッ…よく覚えてるね…

なんか…初めてしたとき…みたいだね…」


「……ッ…そう、だよね…あの時みたい…

って、…惟月さんもよく覚えてたね…」


「…覚えてるよ…明るいの…嫌なのに…ッ…」


「……だって…全部見たくて…」


「………ッ見せてるだろッ…」



あの時、明かりは消さなかった。

すると惟月さんは香水をつけ出して…

その香りはまるで媚薬のように、

現実と天国の境目を無くした。


『何…?この香り…』


『海勇が電気…ッ消さないから…

せめて…明るくても夢の中みたいでしょ…』


現実を見たくないのか。見せたくないのか。

以前は、嫌がられながらも

明るい所を好んでSEXしていたけど、

今回は…テーブルの上にあったリモコンを渡すと

惟月さんが照明を消した。


「…暗くしていいんだ?優しいじゃん…」


「ホントは明るい所で惟月さんの事

丸々見たいけどね…」


「…だからそれが恥ずかしいんだって…」


「…隠したって、3年経ってたって、

惟月さんの身体丸々覚えてるけどね」


「…変わってるかも知れないけどね」


「それでも惟月さんは惟月さんだし」


「なんか、海勇…丸くなったね…」


「え、…太ってないし…

前より少し筋肉落として少し痩せたけど…?」


「…ふっ…性格が、だよ」


暗くなったリビングの部屋、

それでも微かな間接照明はそのままで

惟月さんの笑顔はうかがえる。


「…香水つける?夢の中、行きたいんでしょ?」


「…ん?……海勇の香りで十分…」


下から首の後ろに手を回され、

引き寄せられるように唇を重ねられた。

そして大胆に俺の服を脱がしていく。

俺もキスを繰り返しながら服を脱がしていった。

ソファの上で裸になった2人。

首や胸に唇や舌を這わすと、

ゆっくり崩れて倒れそうになりながらも

俺の背中に手を回される。


「……ッ…ァァ…」


胸の突起を舌で転がし吸い上げると、漏れる声。

仰け反る細い身体。

その白さまでは見えないけれど、覚えてる。


惟月さんが嫌がるけど感じる場所を

味わいながら口付け音を軽く鳴らすと、

顔を赤くして、泣きそうな瞳で言ったんだ。


『…みおッ…ぃやッ…』


また、嫌がるけど感じる箇所を舐めた。


「…みおッ…ぃやッ…」


惟月さん以外の人とで、

味わうなんて絶対にしなかったけど…


「…おいし…」


今でも苦味ですら美味しくて甘い。

惟月さんの心も身体も大切に扱うように、

ゆっくりと進ませた。



すんなり受け入れてはくれなそうなのに、

甘くて緩くて蕩けた泥濘みは

俺をはまらせて全身抜けられなくなる。


俺は実感、体感させられた。

気持ちを誤魔化す事を諦めなきゃいけない。

認めなきゃいけない。

素直にならなきゃいけない。

こんなに惟月さんの事が愛おしいから。



腰を深く突いて更に

惟月さんの腰を引き寄せる。

惟月さんが夢を彷徨うなら…

出来る限り、

束縛してでも、邪険な態度をされても…


俺の手で。俺と一緒に。


「……ッ…すご……」


惟月さんを抱きしめると

弱々しく抱きしめ返される。


唇を重ねて舌も絡ませ、

お互い舐め取り吸い付きながら…

抱きしめ合った。







まだ朝にはなっていない。

ソファからどうにか立ち上がり、

2人でさっきシャワーを浴びた。

そしてまた俺はソファに座り直すと、

惟月さんが香水とコーヒーの香りと共に

マグカップを2つ持ってキッチンから現れた。

…さっきまでの高揚感が薄れていて

まるでこれから仕事でもするような雰囲気だけど…


「寝る前だけど…あ、休んでくだろ?」


「…うん。…ねぇ、香水付けたよね?」


「あぁ…この方が安眠出来そうだから…」


さっきと同じ、自分のイニシャルの方を

惟月さんから受け取ってコーヒーをすする。

そして、同じくソファに座り

コーヒーをすする惟月さんに身体を向けて

真っ直ぐ見つめて話を切り出した。


「まずは、

俺だけでも惟月さんの恋人って宣言するから…

それでもこんなふうに突然おしかけて来たり

突然迫ってくるような奴がいたら

まず俺に連絡してください」


「は?何言って…こんなふうに来られたって

海勇じゃなかったら相手にしないし…」


「……それは、俺、…かなり愛されてるな」


「調子に乗るなよ」


…全否定の言葉なんだろうけど、

可愛く口元を緩めて頬を赤くして…

否定されても調子に乗ってしまう。


「…惟月さんも素直になりましょ…?」


俺が笑いながら話すと、

惟月さんも笑い出す。

答えを聞きたくて、顔を近づけて…


「ん?ん?」


と、惟月さんを見つめて返事を待つけど…

惟月さんも同じ表情を俺に返してきた。


「ん?ん?」


トボケるようにおどけてみせる顔が

面白くて…可愛くて…


ふたりで暫く笑ってしまった。




---end---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SMELL【短編】コーヒーも煙草も香水も… けなこ @kenako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ