後編

 ホテルを出ると、いつの間にかバックヤードから消えていたヤツが外で待っていて、もうツッコむのにも疲れた俺は、流れでそのままヤツと共に歩き始めた。

「……なぁ、今更なんだけど、あの生首って人間?」

「そうですね。トウコさんの術で辛うじて息をしていますが。まあ、持ってあと三日ってところですね」

「え」

「トウコさんの妖力で息ができている状態ですけど、人が首を斬られてずっと生きていられる道理はありません。それに彼女、もともと人を活かすのは苦手ですから」

 まるで、切花ってあんまり日持ちしませんよね、彼女、お花の世話は好きだけど上手じゃないんですよ、とでも言うような気軽さでヤツは淡々と語る。

「でもよ、あの女、ずいぶん生首の男に惚れ込んでいるみてえだったぞ?」

「そりゃ、もちろんですよ。トウコさんは恋には常に一途で本気です。日数の長さは問題じゃない。彼が死んだら、彼女はきっと悲しむでしょうね」

「……なあ。あの男を首チョンパしたのって」

「トウコさんは、この人と決めた人の首を斬って、寿命が尽きるまで愛でるんです。それが彼女の本気の恋なんですね」

……バケモノの考えを、人が理解しようとしてはいけない。非難することもできない。ただ、黙って見ないふりをする。それがあのラブホテルで仕事を続けるコツだ。

 だから、今日も俺は、何もおかしなものを見も聞きもしなかったふりをして、わざと大きな声で呟く。

「……はあ、タバコ吸いてえ」

「それなら、あそこの喫茶店にでも入りますか」

「なんで当然のようについてくんの?」

「コーヒー奢ってあげますから」

 何故コイツは嫌煙家のくせに毎回俺がヤニを吸う場面についてくるのかも、俺にはまったく理解できないし、しようとも思わない。

 そして、あの新人フロント係が仕事を続けるのか辞めるのかも、俺にとっては関係のないことだ。



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あなたに首ったけ 藤ともみ @fuji_T0m0m1

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