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 もはやどうすることも出来ない。抵抗したところで運命を切り拓けるとも思えない。戦う力があれば別だけど……。


 全てを諦めた僕は彼らの言うことを素直に聞き入れ、路銀の入った袋を懐から取り出した。それを大人しくジフテルに差し出す。


「ほぉ、やけに素直ですね」


「抵抗するだけ無意味ですから。あとは僕を殺して終わりですね」


「命乞いはしないのですか?」


「それで助けてもらえるならしますけど、無理ですよね。僕の口封じをしないとあなたたちの身が危険になりますから。もう無意味なことはしたくないんですよ。疲れました。無様な姿をさらすのも真っ平です。早く僕を殺してください」


 半ばヤケになって言い放つと、僕は覚悟を決めて静かに目を閉じた。そのまま棒立ちになって『その瞬間』をひたすらに待つ。



 …………。



 でも……これで……良かったのかもしれない。勇者というプレッシャーから解放されて、楽になれるんだから。


 それに僕はモンスターに襲われて名誉の戦死と世の中に伝えられるらしいから、少しは格好がつくかな。ヘタレで何の力もない僕にしては充分すぎる結果だ。願ったり叶ったりじゃないか。



 あぁ、あの世って……どんなところなのかな……?



 あれ……おかしいな……。なんでこんなに……悲しい気持ちなんだろう……。



 楽になれるんだから……嬉しいはずじゃないか……。



 なのに涙が勝手に……うぅ……っ……ぅ……。



「やれやれ……。これが勇者の末裔とは情けない。私の剣のサビにするのもおこがましいですよ」


「泣き叫ぶなり抵抗するなり、何らかの反応をしてくれないと面白くないよな。もうこんなガキ、放っておこうぜ」


「そうですね。私も魔法力を無駄にしたくないですし。捨て置いてもモンスターどもがこのガキを食らってくれるでしょう。ここはそういう場所です。生き延びられるとも思えない」


 そんな会話が聞こえてきたあと、足音や武具の擦れる音が次第に遠ざかっていった。




 感じるのは穏やかな風の息吹と鳥たちの歌声、木々の囁き、土の匂い――。




 やがて傭兵たちの気配は完全に消失し、目を開けた時には僕がひとりその場に取り残されていたのだった。


「…………」


 全てを諦めたはずだったのに……図らずも命が助かってしまった……。


 不思議なものだ。世の中、何がどう転ぶか分からない。まぁ、命が助かったのは一時的なものに過ぎないかもだけど。


 だって僕は強力なモンスターがウヨウヨしている山道に放置されたのだから。戦う力のない僕は襲われて食べられてしまう可能性が極めて高い。


 例えモンスターに襲われなかったとしても、まだ問題がある。それはシアの城下町に辿り着けるかどうかということ。果たして水も食料もない状態で徒覇できるだろうか? ジフテルの話から察するに、あと三日くらいはかかる。


 もちろん、距離的にはトンモロ村の方が多少は近いんだろうけど、今さら戻れるわけがない。だってあんなに盛大に送り出されて、どの面下げてみんなに会えっていうんだ?



 あぁ……これからどうなるんだろう……。



 僕は近くの岩に腰掛け、途方に暮れる。


 見上げれば雲ひとつない青空。もし翼があればあの空を飛んで、どこへでも自由に素速く移動できるのに。




 …………。



 ……え?


 見上げていた僕は思わず目を疑った。手で目を擦って二度見した。でもどうやら見間違いじゃないらしい!


 空を旋回していた小さな黒い影がこちらへ向かって降りてくるっ!!


 最初は鳥かと思ったんだけど、そんな小さな動物じゃない。近付くにつれどんどん大きく見えるようになってきて、最終的には家くらいの大きさがあるのだと分かる。


 漆黒の体に漆黒の巨大な翼。皮膚には光沢のあるウロコがびっしりと連なっている。そして何もかも切り裂くような鋭い爪と牙がその黒い巨体の中で浮かび上がるように白く輝いて見える。


「も、ももも、もしかしてっ、ド、ドラゴンッ!?」


 一難去ってまた一難――というか、最悪の展開だ。よりによってモンスターの中でも最強クラスのドラゴンといきなり遭遇してしまうなんて!



 ――さて、どうする?



●戦う……→24へ

https://kakuyomu.jp/works/16816700429434671245/episodes/16816700429435271380


●何もしない……→53へ

https://kakuyomu.jp/works/16816700429434671245/episodes/16816700429435836408


 

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