53
53
命が助かったと思ったのも束の間、やっぱり僕はここで死ぬ運命だったんだ。
ドラゴンに遭遇したことでそれは確定。話が通じる相手じゃないし、戦って勝てるわけがない。逃げられるスピードも体力もない。
まぁ、山の中を彷徨って苦しみながら野垂れ死ぬより、ドラゴンに襲われてサクッと死ねる方が楽か……。
「さぁ、早く僕を殺せ――っ!」
『奇妙なことを言う。おぬしは死を望むのか?』
「っ!?」
突然、どこからか響いてきた声に僕は目を丸くした。
低音で落ち着いた声。どことなく知性を感じるような空気があって、温かみも感じられる。
この声の主はもしかして目の前にいるドラゴンかっ!? でも口は動いていない。かといってほかの誰かが喋っているような感じでもない。
――となると、やはり今の声はドラゴンのものなのかな?
いや、そもそも彼は僕の言葉が理解できるのか? 恐怖や疲れの影響で耳がおかしくなったか、幻聴である可能性も。
『我はおぬしの目の前にいるドラゴンだ。今、おぬしの心に直接呼びかけている』
「っ!? ……あなたは僕の言葉を理解できるのですか?」
『人間の言葉を理解することくらい容易い。ドラゴンの知能をそこらの獣と同等だと思われては困る。むしろ我らは人間以上の知能を持っていると認識しているが?』
なるほど、信じがたいけどこの事実を目の当たりにしている以上は彼の言葉――と言っていいのか分からないけど、その言葉のような『思念』の内容を信じるしかない。
『それよりも答えよ。おぬしはなぜ死を望んだ?』
「だってあなたはどうせ僕を殺すでしょう?」
『無抵抗の者に危害は加えぬ。もっとも、攻撃してきた者に対しては容赦なく裁きを下すがな。多くの人間は愚かだ。我の姿を見ただけで敵と判断し、攻撃を仕掛けてくる』
「……ッ!」
危ないところだった。自暴自棄になって下手に抵抗していたら、僕は確実にこのドラゴンに殺されていた。まさに紙一重。どうやら僕は偶然にも正しい選択が出来たらしい。
…………。
……危ないところ? なんでそんなことを思ったんだ? 僕は全てを諦め、死を望んでいたというのに。
もしかして僕は……本当は……心の奥底ではやっぱり……。
『おぬしは我に攻撃をしてこなかったが、それはなにゆえか?』
「だってそんなの無意味ですから。僕は力も魔法も勇気も知識もありません。何も出来ない人間なんです。戦って勝てるわけがないんです。もともと戦いだって好きじゃないし……」
『ふむ……』
「もし殺されてしまっても、それが僕の運命なんだと思えば諦めもつきます」
『……興味深い。おぬしは普通の人間とはどこか違うようだ。ならば今一度、問おう。もし我が小さな虫だとして、おぬしを襲ったとする。それでも戦わぬのか?」
襲ってきた相手が小さな虫だったら?
確かにそれならいくら僕でも負けることはないだろう。一方的に倒すことが出来る。
その状況で僕はどうするだろうか――
●分からない……→14へ
https://kakuyomu.jp/works/16816700429434671245/episodes/16816700429435123706
●やっぱり戦わない……→30へ
https://kakuyomu.jp/works/16816700429434671245/episodes/16816700429435383440
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます