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ドラゴンの問いかけに、僕は即答する。だって今までに似たような経験を何度もしたことがあるから。
「はい、戦いません。そういう時は『あっちへ行って。僕を襲わないで』って念じると、なぜか本当に虫や獣はどこかへ行ってくれますから。残念ながら人間には効果がありませんけどね……てはは……」
『何っ!? ……そうか……おぬしは……』
その声の様子から察するに、なぜかドラゴンは驚いているみたいだった。そして僕をジロジロと舐めるように見やり、やがてフッと柔和に笑う――というか、笑ったような気がする。
相手が人間じゃないから僕の気のせいかもだけど、全体の雰囲気というかオーラみたいなものが穏やかで優しくなったのは確かだと思う。
『なるほど、全て分かった。おぬしが普通の人間と違う感じがした理由もな。――では、話に付き合ってもらった礼に、これをおぬしにやろう』
そう言うとドラゴンはどこからか漆黒に輝く水晶玉を取り出して、僕に手渡してきた。
手のひら大のそれは持っているとほんのり温かくて、体が癒されていくような気がする。不思議と喉の渇きや空腹も満たされていく感じだ。
「これは?」
『竜水晶だ。すでに効果を感じ始めているだろう? 持っているだけで肉体を癒してくれる。それと困ったことがあったら念じてみるといい。では、さらばだ! その穏やかな心を決して忘れるでないぞ!』
ドラゴンは翼を何度か大きくはためかせると、直後に遥か天空へ向かって飛び去った。その姿はあっという間に黒い点になって、ついには見えなくなる。
その場には彼の起こした風がわずかに残り、周囲の木々や草を優しく揺らしている。そして静けさが戻り、小鳥たちの声が響いてくるようになる。
「……僕……また助かっちゃった……みたい……」
僕は竜水晶を握りしめたまま、ドラゴンの消えた方角の空をしばらく呆然と眺め続けていた。
無理もない。短時間に色々なことがありすぎて、頭が追いついていってないんだから。
それにしても世の中、何が起きてどう転ぶか分からないものだ。
傭兵たちに裏切られて殺されそうになったり、山の中に取り残されてドラゴンと遭遇したり。でも何度もあった絶体絶命のピンチを、なんだかんだで乗り越えてしまった。そのせいで僕はひとりで旅を続けるしかなくなったわけだけど。
てはは……運がいいのか悪いのか分かんないや……。
「とにかくもう少しだけ足掻いてみよう。まずはシアの城下町を目指して歩いていってみるか」
先のことは分からないけど、意外になんとかなりそうな気もする。うん、やれるだけやってみよう!
――僕はこの時、そう強く決意した。
TRUE END
※こちらが正史ルートです。『第2幕:優しい世界と謎の少女』は、この続きから始まります。
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※アイテム『竜水晶』『勇気の欠片・1』を手に入れました。メモをしておくと次章以降で役に立つかもしれません。
◆
引き続き、第2幕をご覧になる方はこちら(第2幕のパラグラフ『1』へ移動します)。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859115631802
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