*3-4-4*

 空間を満たす赤い光。

 光がゆらゆらと揺らめくように見えるのは、自らの視界がぐらついているからだろうか。

 陰鬱で怪しげな雰囲気を醸し出す赤い光は、視野に入るだけで気が狂いそうになるほどの嫌悪感を植え付けてくる。


 呻き、嗚咽、悲鳴、断末魔。

 この光は、ただ見ているというだけで憎悪や悔恨の念を激しく想起させるものだ。

 呑まれてはいけない。当てられてはならない。

 正気をもて、耐えろ!


 フロリアンは極力目を開けないように、赤い光が視界に入らないよう顔を逸らして目を閉じた。

 しかし、全身を襲う体の痛みによって姿勢を変えることは叶わず、体をよじることはおろか、腕を動かすことも出来ず、ただひたすらに瞼を閉じて狂気の光を遮ることが今出来る精一杯でもある。


 玉座の間にいたはずが、気が付いたら何もない部屋の中央に倒れ込んでいた。端的に今を表すなら、それが全てだ。

 故に状況という状況が理解できない。考えられるとすれば、アンジェリカの絶対の法による強制転移を施されたといったところだろう。

 頭に思い浮かべた空想を、現実の物理法則などを一切無視して具現化してしまう彼女の異能。自分自身の転移のみならず、他者に対する転移も実行できるとは。

 とはいえ、本来の力を取り戻したという彼女に掛かればこのような芸当も容易いのかもしれない。


『このままじゃダメだ。何か、対策をして動き出さないと』


 頭では思うが、体の痛みとだるさは精神と意思だけで乗り越えられるようなものではなかった。気合と根性だけで解決する問題ならどれほど良かったか。


 ふと数か月前の記憶が蘇る。

 そうだ、これはあの時と同じだ。ミュンスターの地で、ウェストファリアの亡霊事件を追いかけていた時に自身を襲ったあの強烈な気だるさと気持ち悪さ。

 赤い霧の放つ負の力に当てられたのと同じ類の感覚だ。

 身体だけではなく、頭痛によってまともな思考力も奪われかけている。

 込み上げる気持ち悪さによって息を吸って吐くという行為すらまともに出来ているのか怪しい。


 限界に近い状況を打破する為に必要なこと。

 事実がどうであるかは重要ではない。これがアンジェリカの絶対の法による〈幻覚である〉と仮定して、その幻を意識の外に追いやることが出来れば……或いは。

 彼女が作り出す空間というものは現実と空想の狭間にある不安定なものだと聞く。本来は力を行使する本人の意図した状況外の事象が起こりえることは無いと言うが、例外が存在することを自分は知っている。

 彼女の力そのものが“作り出された偽りである”と強く意識することで、この場に関してだけは抜け出すことも可能なのではないかと考えていた。

 この考えは、ロザリアやアシスタシアが絶対の法による“侵入不可領域”に易々と姿を現していたことから思いついた仮説だ。


 フロリアンは頭の中で繰り返し念じた。

『これは嘘だ。嘘だ。目の前に見えるものは真実ではない。赤い霧、ウェストファリアの亡霊、アムブロシアー。そういった脅威を与える存在が自身の心の隙間に生み出した“恐怖心”を煽ることで成立しているだけの幻覚に過ぎない』

 サンダルフォンに乗艦する前、セントラルの自室でマリアとアザミに助けられた時も同様の感覚があった。

 だからこそである。今度こそ、自らの力でこの虚構を打ち破らなくてはならない。


『これは嘘だ。幻だ。消えろ、消えろ。僕の目に映るものはこんな陰鬱な光景じゃない!』


 その時である。

 瞼の裏を覆っていた赤い光が突然消え去り、白色の光で照らされたような感覚を感じ取った。

 それと同時に、鼻孔の奥を突くような甘ったるい香りの中で、小さな手をぱちぱちと叩く音が耳に飛び込む。

 くすくすとした笑い声と共に、ヒールが硬質の床を叩くゆったりとした足音を鳴らしながら“天使のような悪魔”は現れた。


「おめでとう☆おめでとう!そして正解~☆よくできました。褒めてあげましょう、お兄ぃちゃん?」


 目を開けなくても声の主が誰であるかなど分かり切ったものだ。

 ヒールの音は自分のすぐ傍で止まり、続いてその“誰か”が腰を下げたかのような風が一瞬身体を伝った。

 周囲を満たす甘ったるい花のような香りは先ほどよりも強く感じられる。フロリアンは恐る恐る目を開け、頭に思い描いた人物がそこにいると察した上で対象を見据えた。


 想像通り。

 視線の先には不敵な笑みを浮かべ、しゃがみ込んで自身を覗き込む姿勢をとるアンジェリカの姿があった。

 だが、妙な確信がある。彼女は“アンジェリカでありながらアンジェリカではない”。おそらくアンジェリーナと呼ばれる第2人格の彼女だ。

 フロリアンはじっと彼女を見据える。しかし、彼女が自身の穿く短いスカートをまったく気にすることなくしゃがみ込んでいる姿が目に入り、視線のやり場に困ってすぐに目を背けてしまった。

 すると、アンジェリカはその様子を楽しむようにさらに顔を覗き込む態勢を取り、ぐっと顔を寄せた上で挑発気味に言う。

「ダメよ☆私から目を逸らしたらー、めっ!なんだよ?」

「アンジェリーナ。僕に何の用だ」

 視線を交わすことなく、フロリアンは言った。


 すると、きょとんとした表情を一瞬見せた彼女は乗り出した身を後ろに下げて言った。

「あら、私があの子と同じであって同じではないと見抜いた上で、素直に名を呼んだのは貴方が初めてかもしれないわ。やっぱり真似は出来ないものね。私には可愛らしい喋り方のセンスが足りないということかしら?」

 アンジェリカではなく、アンジェリーナと呼ばれたことが意外だったのだろうか。


 そう言ってアンジェリカは指を一度ぱちんっと弾いた。

 彼女が指を弾いた瞬間、フロリアンは全身を襲っていた気だるさと痛みが瞬時に消え去っていくのを感じた。

 浅かった呼吸もいつも通りに出来るようになっている。

 二度ほど咳き込んだが、すぐに息を整えて起き上がって再びアンジェリカを見据えて言う。

「僕に何か話したいことがあって来たんだろう?その為に僕を1人きりにしたのかい?」

「話の早い人は嫌いでは無いわ。むしろ好きよ。好ましいからこそ余計に嫌悪してしまう。貴方がマリアの側に付いているという事実が」

 アンジェリカの表情にいつもの余裕を湛えた笑みはない。じっと視線をぶつけるように、ただ瞳を見つめて彼女は言った。

「マリーが理想としていることが何であるのか僕は知らない。けれど、知ったところで僕が彼女に対して思うことに何か変化があるわけでもない」

「そういう頑固さも、あの子を惹きつけた魅力の一つということかしら?本当に白けてしまうけれど、まぁ良いわ」

 アンジェリカはすっと立ち上がり、部屋の壁までつかつかと歩くと、壁にもたれかかる姿勢を取って言った。

「本当はね、貴方を殺しに来たというのが正解なの。けれど、残念ながら今の私では貴方を殺すことが出来ない。その忌々しい黒曜石の守護が働いている限り、私の絶対の法による干渉も随分と制約されているの。

 さっきまで貴方を襲っていた全身の痛みと気分の不快さを与える程度のことしか出来ないってわけ」

「そこまで開けっ広げに事実を話して君に得はないはずだ。むしろ、何も出来ないとこちらに知らせることによって自分を不利にしているようにすら見える」


 フロリアンはアンジェリカが真実を語っていないと考えた。黒曜石の守護があるから殺せないというのは詭弁だ。

 物理的な干渉が出来るのだから、ルドゲリカイゼルでしようとしたように、風の刃なりアイスピックを突き立てるなりしてこの場で殺すことは十分に可能なはずなのに。

 前提が違う。力の制約によって出来ないのではなく、彼女の精神的な側面が“殺すことを拒んでいる”と言った方が正しいのではないだろうか。


 フロリアンが思考を巡らせる中、アンジェリカは話の趣旨をすり替えるように言った。 

「それで良いのよ。私の目的は既に貴方を殺すことではないの。むしろ、貴方には意地でも生き残ってもらって、マリアの企んでいる理想とやらを潰す手伝いをしてほしいくらいだわ。

 玉座の間で機構に国連との決別と共和国との協力を持ち掛けたのにも十分な意味があるってこと」

「じゃぁ、君は今ここで僕に、マリーが理想とすることが一体どういうものなのかを打ち明けることも出来ると?」

「もちろん。あの子が語らないのであれば私が教えて差し上げましょう?」

 アンジェリカはそう言うと顔を伏せ気味にしながら続ける。

「プロヴィデンス。貴方達機構の人間が有り難がって使用している例の機械。貴方達のようにうまく使えば自然災害を未然に防いだり、今後発生するだろう人為的な細菌兵器などに対する特効薬の開発も容易にこなすことが出来る反面、使い方を間違えれば人間と機械という主従が完全に入れ替わることになる。

 倫理の話よ。スマートデバイスにインストールしたゲームに従属させられているような人間が多い現代。それを見て、機械そのものが人間を支配するというディストピアの成立が有り得るかどうかなんて容易に答えが出る話でしょう?」

「確か君は“人間ではない者による世界統治”と言ったね。それはつまり、プロヴィデンスのようなAI、機械が人類を支配するという意味かい?」

「のようなではなくそのものよ。プロヴィデンスを用いてAIによる人類統治を成し遂げようというのがマリアの目論見であると私達は考えている。

 実にくだらない、つまらない退屈な世界。この世界で生きる資格のある人間かどうかの査定を機械が行い、基準から外れたものは“普通に生きることを許されなくなる”。

 罪を犯す可能性のあるものは撥ね、人類に有益をもたらす人間のみで構成される社会。或いは、他者に一切の危害を加えぬ人間だけを飼い慣らすような世界。それがあの子の理想。

 実現すればこの世界から戦争は消え、並行する飢餓や難民問題なんてものも一気に解決してしまうでしょう。何せ、人が人であることを象徴する“野心”や“欲望”が取り除かれた世界なのだから。争いが生じないのは必定というもの」

 フロリアンはアンジェリカの言うことの恐ろしさを内心で感じ取りながらも、今はそれ以上に危険である彼女自身に目を向けて言う。

「なるほど、それは一大事だ。仮にそれがマリーの理想であるというのなら、僕は彼女に直接考えを改めるように言い聞かせないといけない」

「どうかしらね。例え王子様の言葉であっても、あの子がまともに話を聞くとは思えないわ。傍に控えるアザミの力、玉座の間で見たでしょう?いえ、セントラルの貴方の部屋で先に見ていたわね。

 マリアを止めるというのなら、あの子とあの神を殺す気概でも持って向かって行かないとお話にならない。そうでもしなければ考えを改めないでしょうね。

 この際教えてあげるけど、頑固さについては貴方達、よく似ているわよ。見た目と立場は不釣り合いだけれど、ある意味ではお似合いね?」

 アンジェリカはそう言いながらくすくすと笑いだした。

 フロリアンは構うことなく言う。

「話はそれだけかい?であるなら答えは変わらない。僕は君の願いも理想も聞くことは出来ないし、協力することも決してない。ましてや機構の皆を裏切るなんてことも。

 君が辿って来た人生を知ったとて考えを変える気はない。君はここから引き下がるべきだ。今すぐに軍を退き、世界に対して調和を訴えかけるべきだろう」

 心の傷にフロリアンが言葉で触れた瞬間、アンジェリカの表情から笑みは消えた。

「ずけずけと。素直な頑固者というのも考え物ね」

「言うことを聞かなければ、殺すのかい?」

「言ったでしょう。私には出来ないと。ただ、別の意味において貴方を殺しておいた方が良いという考えがあることは否定はしないわ。ただしそれはこの一連の事件にまつわる話ではなく、あくまで私自身の問題としてね」

「君自身の?アンジェリカではなく、アンジェリーナとしての問題とでも?」

 聞き捨てならない言葉を聞き、フロリアンは思わず聞き直した。しかし、アンジェリカははっとした表情をしてすぐに訂正する。

「あら、口が滑ってしまったかしら。聞かなかったことにしなさい。これだから、貴方と長話をするのはダメね」

「僕は君を説得することを諦めているわけでもない」

「黙りなさい」

 アンジェリカは寄りかかった壁から背を離し、再びフロリアンに歩み寄る。未だ床から上体を起こしただけの彼を見下すような視線を送りながら言う。

「私の、私達の意に沿わないというのなら、貴方は残りの生の全てをこの何もない監獄の中で過ごすだけのつまらない人生を送ることになる。それだけのこと」

 フロリアンは先ほどからずっと気になっていたことを問う機会がようやく訪れたと考えて言った。

「それだ。ここは一体どこで、何の為に僕をここに閉じ込めた」

 アンジェリカは視線を逸らし、フロリアンのすぐ傍に腰を下ろしながら言う。

「ここは歴史が生み出した負の遺産を電子的に組み替えて構築された監獄。全周囲展望型電子監獄-パノプティコン-。アンヘリック・イーリオン内部に存在する、罪人たちを収監しておくための特別な監房よ。貴方を閉じ込めた理由は先に語り聞かせた通り。他に意図なんて有りはしないわ」

「パノプティコン?名前と概要だけなら知っている。最小の看守によって最大の囚人を見張ることができるように作られた円筒形の建物だ。元は病院に転化して使用する構想もあったと聞く」

「パノプティコンだのベツレヘムだの。イギリス人の考えることは最低ね。何が紳士なんだか」

 いつも見せるような笑みを完全に沈黙させ、吐き捨てるようにアンジェリカは言った。

 彼女の表情にフロリアンはいつもと違う雰囲気を感じ取ったが、今は敢えて気に留めないように努めて返事をする。

「つまり、監獄に閉じ込められた僕は自力で脱出することは出来ず、君の提案に対して首を縦に振らない限り、ここで人生の終わりを待つだけの暮らしになるということだね」

「こういうときに話の飲み込みが早い人って言うのは、結局理解した話を飲み込もうとしないのよね。喉にピンポン玉でも詰まっているのかしら」

「もちろん。僕はどんな手段を使ってでもここから脱出するつもりだ。もちろん、他の皆も一緒にね」

「あがくだけあがいてみればいいと思うけれど、叶うのかしら。私としては、途中で絶望して私達に傅く未来に期待したいものだわ」

 アンジェリカは不敵な笑みを湛えながら言う。

 フロリアンは嘲笑を浮かべる彼女を見やって口を開こうとしたが、その時であった。


 突然、部屋の中に白い一筋の閃光が走ったかと思うと、その軌道をなぞるように青白い炎が立ち昇った。

 コンマ数秒で美しい半円を描いたそれはアンジェリカの胸部を確実に貫き、彼女を真っ二つに切り裂く。

「ご無事ですか?フロリアン」

 聞き慣れた声に安堵を感じる。愛想こそ皆無だが凛として真っすぐで、迷いのない声。

「アシスタシア!」

 青白い炎が消え去ると同時にアンジェリカの背後から姿を見せたのは、真っ黒な修道服に身を包むアシスタシアであった。

「はい、私です。何やら此方より物騒な異端の声が聞こえたものですから」

「ちっ。やっぱり貴女、死神そのものね」

 体を真っ二つに切り裂かれたアンジェリカは背後の彼女を睨みつけるような視線を送り、吐き捨てるように言うと赤紫色の煙を弾けるように散らし、その場から消え去ったのであった。


 フロリアンが言う。

「どうしてここに?見た所、窓も出入り口も換気口すらない完全四面体の部屋だ。この部屋のどこから……」

 言いかけたが、フロリアンは彼女の背後で見事に切り開かれた縦長の穴を見つけて苦笑した。

「なるほど。物理的に、ね?」

「普通の人間であれば破壊は叶わないでしょうが、私にとってはこの壁1枚など紙切れにも等しい強度でしかありませんでした」

「君も別の部屋に?」

「はい。ここと似たような部屋にただ1人。じっとしているわけにも参りませんので、とりあえず壁を切り裂いて外に出て歩いていると、彼女の声が聞こえたので突き破った次第にございます。

 あと、ロザリア様の存在も知覚こそ出来ますが、どこにいらっしゃるかまではわかりません」

「ははは……“とりあえず壁を”、ね」

 呆れるとも違うし、驚愕とも違う。

 無鉄砲、猪突猛進、猪武者?いや、きちんとした理性をもって行動を起こす彼女には該当しない言葉だ。

 こういった事柄を表現する言葉はうまく浮かばないが、実に“彼女らしい”真っすぐな行動だとフロリアンは考えた。

「さぁ、フロリアン。とにもかくにも外へ参りましょう。ここにいても何も始まりません」

「その意見には賛成だけれど、皆と合流してからでなければ脱出も出来ない。今の騒ぎでアンジェリカが僕達が逃げ出すのをじっと待っているとも思えない」

「尚更のこと、時間勝負です。すぐに移動を開始しましょう」

「待ってくれ、アシスタシア。焦って行動するだけでは自分達を窮地に追い込むことにも繋がりかねない。ミュンスターでロザリアが僕に言った言葉を覚えているかい?」

 アシスタシアは少し考える様子を見せるが、すぐに答えには至らなかったようだった。

 フロリアンは笑って見せながら答えを言う。

「Eile mit Weile.〈ゆっくり急げ〉」


 アシスタシアは無表情ながら、一瞬だけはっとした表情を見せ過去を思い出したように言う。

「承知いたしました。この先は貴方の指示に従いましょう。道筋を示してくだされば、私はその通りに行動します」

「頼もしい限りだ。さて、まずはこのパノプティコンという建物の解析から……」

 フロリアンは懐からヘルメスを取り出し、建造物の解析から開始しようとしたが、思惑と言葉を遮るようにヘルメスは誰かからの信号を受信したという通知を示した。

 怪訝な表情でフロリアンはメッセージを開くと、そこには驚愕というべきデータが添えられていた。

 それはルーカスからの簡単なメッセージと、建物全体の3Dモデリングと座標が示されたデータであったのだ。

「えっと、『信じるものは救われる』?」

「〈不可視の薔薇〉〈光の王妃〉。つまり赤い点が示しているのは、そこにロザリア様やイベリス様たちがいらっしゃるということでしょうか」

「情報を信じてここに来てくれというメッセージだね。准尉、こんなところでまで彼女に喧嘩を売って」

 常日頃から〈神は人の祈りを聞き届けない〉と言っていたロザリアの言葉に相反するメッセージを読み、フロリアンはそれがどういった意図を持つのかを明確に感じ取った。

「目指すべき場所は決まった。これは勘だけれど、ロザリアは准尉と一緒にいる。つまり、この赤い点の位置が僕達が目指すべき場所だ。壁を破壊する力を持つのは僕達の中でおそらくアシスタシア、君しかいない。位置的に近いロザリアと准尉を救出して、その後すぐにイベリスたちのところへ行こう」

「承知しました。ご命令通りに」

「そう改まらなくても良いよ。ミュンスターの時と同じように」


 そう言ってフロリアンは立ち上がると、アシスタシアが切り裂いて作り上げた壁の穴から外を見やり、周囲に何もないことを確認して通路へと出た。

「お待ちを!危険ですから、先陣は私が努めます。貴方は私の後ろへ」

 手を伸ばし、珍しく焦ったように言うアシスタシアへ振り返りフロリアンは言う。

「言っただろう?ここからは時間との戦いだ」

 そう言って笑みを見せたフロリアンは一足先に通路を進み始め、アシスタシアが即座に後ろを追いかけていくのであった。



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