* 1-5-8 *

 ときに新緑の革命事件において、私がその後どういう道を辿ったのかについても振り返っておこう。


 あの事件は機構の介入によって財団側の恐れていた“事実の発覚”がなされることで終わりを迎えたわけだが、しかし機構はセルフェイス財団を告発するようなことはせず、グリーンゴッドの特性上の話だけで運用試験中止と永久使用停止を提言し、世界はそれを承認するという形で幕を閉じた。


 当の私はというと、機構が財団の隠匿していた情報の開示を迫って支部に乗り込んできた際に、イベリスとアルビジアによってその場を追い出されてしまった。

 用済みとなったラーニーとシャーロットを殺す過程を密室で楽しんでいる最中、扉を破壊して突入してきた2人に良いようにやられてしまったのだ。


 遊びが過ぎた。今では少し反省している。

 殺すならもっと早く殺せば良かった、と。


 だが、思い返すたびに理不尽だと思わなくもない。

 あの日、財団へ乗り込んだ機構はグリーンゴッドの試験データを証拠として収集する為に財団の機密情報が保管されているデータベースへのアクセスを試みていた。

 しかし、最後の悪あがきとばかりにラーニーが仕掛けたデータベースへのアクセス遮断によって試みは頓挫していたのだ。

 ラーニーはセルフェイス家の人間しか立ち入ることの出来ない特殊なセキュリティが敷かれた部屋に逃げ込み、まずは財団のデータベースサーバーと支部を結ぶ回線を遮断した。

 その上で、機構が財団に対する強硬措置を実施完了して真実を曝露する前に“世界各国の政府及びメディアに対し、機構による悪質な調査がなされたと告発する文書”を作成してばら撒こうとしたのだ。

『機構の強引な調査によってグリーンゴッドのデータは失われ、薬品の試験運用は困難なものとなった』というデタラメを拡散しようとしたのである。


 こうなると機構側も分が悪くなってくる。

 強制調査権を用いてまで調査したにも関わらず、グリーンゴッドに関する証拠情報の入手経路が断たれて〈何も見つけられなかった〉挙句、強引な調査でデータそのものを消失させたともなれば責任問題への発展は免れない。

 強権を承認した英国政府の立場は無いし、世界からも事情説明を求める声が上がったことだろう。

 セルフェイス財団は被害者の立場から物事を有利に進められるようになるし、機構は財団に対して今後何の手出しも出来なくなっていたかもしれない。


 だからあの日。

 私はそうした〈機構側の不利〉を帳消しにしてあげたのだ。

 

 絶対の法を用いて、セルフェイス家の人間しか立ち入ることが出来ない部屋に入り込み、告発文書を作成するラーニーを止めたのだから。


 機構の面々は少しは私に感謝して欲しい。


 あそこまで惨めな彼の姿を堪能すれば、後は綺麗に幕引きとしても良いだろうと思ったのである。

 高貴な身分にあるものが堕ちていくに従って、人間の本能ともいうべき醜悪さを晒す。今回はそんな状況を存分に楽しむことが出来たのだから“そろそろ許してあげようかな”と思ったのだ。


 叶うことは無かったが、今でも彼とシャーロットを殺そうとした時の高揚感はふつふつと蘇ってくる。


 あの時、私は“用済み”となったラーニーに引導を渡すために彼に話しかけた。


                   *


 西暦2037年4月24日 午前

 セルフェイス財団 イーストサセックス州支部 の一室での記憶


『はぁい☆ご機嫌いかがかしら?ラーニー』

 あの日、満面の笑みで話しかける私に対して、彼は随分と不機嫌そうな態度で振り返りながら言った。

『この期に及んでもお約束の一言は言わなければならないかな?何の用だ。アンジェリカ』

 何の用だ、と問われるのも幾度目になるだろう。まったく、誰も彼もがそれしか言うことはないのだろうか。

『うふふふふ☆貴方のそういうところは嫌いじゃなかったわよ?でぇもー、同じネタを何度も繰り返すのは、めっ!なんだよ?だって飽きちゃうもんね☆』

『それはすまない。そう言われることを求めているのかと勘違いしていた。てっきり挨拶代わりのやり取りを気に入っているのかと思っていたからね』


 あの時の彼は全てに対する諦めを受け入れているかのようにも見えた。

 目の前で起きている事象に困惑することも無く、抵抗することもなく、ただただ現実を現実として受け入れている。そんな風に見えたのだ。

 そこで私は彼に尋ねた。この後に及んでどうするつもりなのかと。


『確かに嫌いではなかったけど、ね?ところで、ラーニー。どうするの?そろそろチェックメイトだと思うんだけど☆』


 彼は答えない。少し煽ってみることにしよう。

 そうすれば面白い反応をしてくれるに違いない。


『とっても楽しい幕引きになりそうでワクワクしちゃう!イベリスという花にもアルビジアという花にも手は届かず、伸ばした手が掴んだのは藁だった…☆ 何それ、最高!』

『そうだな。確かにお前の言う通り僕らはチェックメイトだ。けれどそれは別に僕達に限った話ではない』


 期待していたことではあった。

“面白い反応をしてくれる”ことを。

 しかし、彼が次に取った行動は自分にとって想像を少し超える“痛い”ものとなった。


 彼は即座に銃を取り出すと私の額を間髪入れずに撃ち抜いたのだ。



 撃つなら撃つと言って欲しかった。

 思い出すだけでおでこが痛い。

 銃で頭を撃ち抜かれたことがある人はいるだろうか?撃たれたことがない人には分からないと思うが、あれは痛い。

 撃ち抜かれた衝撃が体を震わせ、痛みの電気信号が全身の神経を駆け巡り痺れさせる。

 もし、自分のこめかみに銃を突き付けて撃ち抜こうと考える人がいるなら悪いことは言わない。止めた方がいい。もう少しましな別の手段があるはずだ。


 額を撃ち抜かれた私はきっと間抜けな表情をしていただろう。

 とりあえず“痛いなぁ”と思いつつ、自然と脱力する体と重力に身を任せて床に寝転がるしかなかった。それくらい痛い。

 まったく、美少女の顔を警告も無しに撃ち抜くなどどういう神経をしているのだろう?

 英国紳士などと言う概念は当の昔に潰えたのだろうか。彼には少し反省して欲しいものだ。乙女の顔に傷を付けた代償は高いんだ、ぞ?


 とはいえ、あの痛みもなかなかに気持ちの良い痛みではあったのだが……


 彼は倒れ込んだ私に向かってこう言った。

『チェックメイトだ。罪は裁かれなければならない。いつかお前が言っていたことだったな?今はこれ以上お前の相手をしている場合じゃないんだ。

 どこから来たのかもわからない悪魔。ならば、どこへ消えても分からないのだろう?

 お前はディーテの市に堕ちるべきだ。後片付けくらいはしておいてやるから、しばらくは安心してそこに転がっていれば良い』


 はぁ、何を言っているのやら。

 これから後片付けされるのは貴方だというのに。


 きっと彼は私が床に崩れ落ちた時、確実に死んだと思ったに違いない。

 まぁ普通はそうだ。普通はね?

 だが、お生憎さま私は普通ではない。本当に殺したいのなら子供のおもちゃサイズの銃ではなく、アンチマテリアルライフルかロケットランチャー、或いは地対空ミサイルくらいは持ってきて欲しいという話だ。

 それでも死なないのだが。いや、“死ねない”のだが。


 そういうわけで、千年も生きている“普通ではない”私は“普通ではない”方法で彼にお灸を据えることにした。



 彼は私の死亡を確信すると、後ろを振り返っていそいそと英国政府と世界に向けて送信する為の資料作りを始めた。

 私は痛みが和らいだ後、彼に気付かれないようにゆったりと立ち上がり、絶対の法で生成したちょっと大きめのナイフを彼に向けて投擲する。

 ほどなくしてナイフが、彼の背中をさくりと貫く。


 あぁ、綺麗な色。


 彼の背中からは真っ赤な血がだらだらと流れ、瞬く間に周囲を赤く染める。

 彼は驚きつつ、やや怯えの混じった表情で振り返ると、立ち上がっていた私を見つめながら困惑を隠しきれないという様子で言った。


『どういう……ことだ……』と。


 どうもこうもない。ちょっと頭に来たから刺しただけの話である。

 それからいくつか言葉を交わす中で〈空の容器〉がなんだと言われたような気がするが、聞かなかったことにした。


 それにしても足りない。もっと惨めな声を上げて地面に伏せってもらわなければ、昂った私の気は鎮まりそうもなかった。

 もっともっと私の心に響くような悲鳴を聞かせて欲しい。その悲鳴があれば、私は自分の義務を果たしたと〈褒めてもらえる〉のだから。


 それだけが私にとっての〈愛〉なのだから。


 そう思いながらアイスピックを1本ほど投擲し、彼の脚に刺してみる。すると彼は良い声で鳴いた。


 良い声が出せるじゃない?

 惨めで、無様で、今の貴方にはとってもお似合いよ。

 そうよ、そういう声をもっと聞かせて欲しいの。聞かせてちょうだい?

 ねぇ……


 あの時の私はもはや目的も何もかも忘れて、自らの享楽にのみ思考を寄せていたのだと思う。

 故に、命と命のやり取りの最中で、無粋にもどこからともなく部屋に立ち入って来たシャーロットに途中まで気付かなかった。

 セルフェイス家の人間しか立ち入ることが出来ない部屋。そういえば彼女も一応はセルフェイス一族の人間であったことだけを思い出す。

 大好きな兄を守る為、妹である彼女は体を張って血を流しながら床に倒れ込んだ彼の前に立ったのだ。


 健気、健気。

 度胸だけは認めてあげよう。健気な意思は尊重してあげよう。

 けれども残念。貴女が1人現れてどうあがいたところで、貴方達だけでは私を止めることは出来ない。出来るはずがない。

 連れて来るなら、そう。貴女が邪険にし続けたイベリスやアルビジアでも連れてくることね。


 シャーロットが現れたところで、なぶり殺しにする獲物が1人増えただけ。そう、ただ私の楽しみが増えただけに過ぎない。

 彼女はどんな悲鳴を聞かせてくれるのだろう。やはり女の子らしい、世の男たちが興奮してしまうような可愛らしい声で鳴くのだろうか。

 それとも分別を失くした人間が発するような汚らしい声で鳴くのだろうか。


 あぁ、愉しみ、楽しみ。

 早く私に聞かせてちょうだい?貴女も、早く。


 昂る気持ちを抑えきれず、シャーロットの右腕に1本ほどアイスピックを“プレゼント”する。そうすると実に可愛らしい声で悲鳴を上げてくれた。

 ぞくぞくとした快楽が胸に込み上げる。続けてもう1本、彼女の左脚へアイスピックを投擲し、さらに右脚へも1本ほど投擲して突き立てた。

 そこまで突き刺した時点で、彼女は自力で立っていられなくなり、床へとへたり込む。


 あら、とっても可愛い。

 痛みに耐えきれず、びくびくと体を震わせながら崩れ落ちる姿。

 高鳴りが止まらないの。


『体中を駆け巡る痛みは、今自分が生きているっていう生の実感を与えてくれるんだよねー★私は好きよ?だから、貴女にももっとプレゼントしたいな』


 昂った私は、確かそういうことを彼女に言ったと思う。


 あぁ、楽しい、楽しい、楽しい!


 ハンガリーでライアーが難民狩りをしていた時もこのような気分だったのだろうか。

 でもまだまだ。まだ足りない、もっともっと悲鳴を聞かせてくれなければ身体から溢れる熱は冷めそうになかった。

 とはいえ、へたり込んだままの彼女をそのまま嬲り殺すのも味がない。

 そこでエニグマによってこの世ならざる腕を顕現させ、彼女の細い両腕と首を掴ませて無理矢理宙へと引きずり上げた。

 か細い身体が一瞬で宙へと引き上げられる。

 青白い腕でゆっくりと首を絞めると、シャーロットは苦しそうにひゅーひゅーとした呼吸をして嗚咽を漏らす。その時の彼女は実に色っぽく見えたものだ。


 こういう趣向が趣味な男も世の中にはいるんでしょう?後ろにいる彼はどうなのかしらね。

 磔にされて、びくびく体を震わせながら苦しそうにもがく妹の姿を見てどう感じているのかしら?

 きゃはははは!★


 そうだ。そうそう。後ろで見ていたラーニーは喜んでくれただろうか?

 彼女は少し足をばたつかせていたので、ついでに腕をもう2本ほど顕現させて細い足首までがっちりと固定してあげた。

 このまま腕を反転させて、妹の苦しそうな顔を彼に見せてあげた方が良いのだろうか?

 でも、それだと私が楽しめない。

 今まで好き勝手なことを言ってくれたお礼はきっちり返してあげなければ。


 というわけで……さぁ、どちらを先に仕留めようか?

 まず兄の前で妹を殺す?それとも何も出来ない妹のすぐ後ろで兄を八つ裂きにする?

 どちらを仕留めるにしても、互いの視界から互いがどのようなことをされているのかは絶妙に見えない位置にある。

 人間にとって見えない、分からないというものは恐怖以外の何物でもない。精神的に愉しんでもらう為のシチュエーションとしては完璧だろう。うん☆

 やっぱり振り向かせないというのは正解だ。


 そして私は決めた。

 まずは私の頭を綺麗に撃ち抜いてくれた兄から手にかけよう。


 敢えて殺さないようにし、宙に固定したままのシャーロットの隣をゆっくりと通り抜ける。

 通り過ぎる瞬間、ゴミを見るような視線を彼女へ送った。

 わざと触れられそうなほど近くを通り抜けるが、それでも彼女の指先は私に届くことはない。

 絶望だけをその場で感じていればいい。それが貴女に対する私からの贈り物。


 ラーニーの目の前に立ち、アイスピックを1本だけ手に持った私はシャーロットへ再度目配せをしてみる。

 必死にもがこうとしている彼女の様子は伝わってくる。怪我をした状態でそんなに暴れようとしたらすぐに動けなくなるだけだというのに。


 憐れ、哀れだ。


 深呼吸をして手に力を籠める。緊張の一瞬だ。

 良い声で鳴かせられるかどうかは私の一投にかかっている。

 それより、そもそも彼はまだ良い声を出せるのだろうか?

 よし、確かめてみよう。


 目の前で倒れ込むラーニーの右膝に突き立ったままのアイスピックを靴の底で思い切り踏みつけて根本まで刺しこんだ。

 声にならない声を彼はあげた。


 んー……さっきより数段劣るけれど、これはこれで良いか。仕方ない。


 さて、歓喜の瞬間だ。

 八つ裂きにしようかと思っていたのだが、ここはひとつ、心臓辺りに1つだけ穴を空け返して差し上げるのがよろしいだろう。

 先程、額に穴を空けられたお礼だ。おあとがよろしいようで。


 恍惚の表情を湛え、歓喜に打ち震える。

 この瞬間はいつだって“楽しい”!

 高鳴る気持ちと、この一瞬の快楽を噛み締めながら手に握ったアイスピックを彼目掛けて振り下ろす。



 さらば、財団当主。

 妹との永遠の別れを前に、どうか彼女の姿をその目に焼きつけながら逝ってほしい。

 -完-



 しかし、お約束だった。

 私が振り下ろしたアイスピックは彼の胸元に届くことはなかったのだ。


 一瞬、扉の方に光の筋のようなものが確かに見えた。

 次の瞬間、厳重なセキュリティによってロックがかかった鋼鉄製の扉は爆発でもしたかのように凄まじい勢いで部屋の奥まで吹き飛ばされる。

 綺麗に切断された扉は見るも無残な形となって部屋の向こうで瓦礫の山となっていた。


 まじかー。

 そういうことしちゃう?お嬢様たちが?



 舞い上がった煙が晴れた後、向こう側に見えたのは“予想通り”の光景だ。


 ジェイドグリーンのアースアイを輝かせ、私を殺すと言わんばかりの形相でアルビジアがこちらを見つめていたのである。

 彼女の周囲を防御壁のように暴風が取り囲む。荒れ狂う風の圧がこちらにも流れ込み、踏ん張っていないと後ろの壁まで飛ばされそうだ。


 そして思う。


 あ、やっば。

 これ、20パーセントぽっちの力で向き合える相手じゃないよね?

 しかも後ろにいるんでしょう?イベリスさん。ねぇ?

 あとさ、これはどうでもいいんだけどちょっと気になるんだ。うん。

 重たい鉄の扉吹っ飛ばしたけどさ、その扉の前にラーニーやシャーロットがいたらどうするつもりだったの?

 そこにいたら死んでたからね?私が殺す前に。

 何でもかんでも力業で解決って、貴族の令嬢はみんな脳筋だったの?

 ギャップ萌えにもならないんだけど。


 色々なことが高速で頭をよぎる最中、思わず自分が今しがた殺そうとしていた2人の心配までしてしまった。あの時は自分らしくない心配をしたものだと思う。

 彼らを私が殺すのはきっと普通のことだが、イベリスやアルビジアがこの2人に怪我をさせるなど多分あってはならないと思う。

 彼女達は1回死んだ身だからか、そういう辺りに躊躇がない。

 精神は別として、肉体的に死んだことのない自分には分からない境地だ。


 とりあえず、そんなことはひとまず置いておこう。

 目の前に現れたやばい相手をなんとかして、さっさとこの場から逃げなければならない。

 でなければ私が殺される。死なないけど。


 アンヘリック・イーリオンに60パーセントの力を割き、アンジェリーナが20パーセントの力を持ち、自分の手持ちの出力は20パーセントぽっち。

 対して向こうは100パーセントどころか、イベリスとアルビジアを合わせて200パーセント以上の力で向かって来るわけだ。

 そんな化物を前に太刀打ちなど出来るわけがない。



 しかもあれ、あの瞳の輝き。

 インペリアリスを発動してるんじゃない?

 限界を超えた力を発揮できるっていうあれ。

 何それ、こっわ。



 たまらずとっさに右手を持ち上げ、いつものように指を弾いた。

 何本でも良いからと無数のアイスピックを顕現させ、牽制のつもりでアルビジアへ一斉投擲をする。

 だが、相手が悪かった。私に冷静さが欠けていた。

 彼女は風の力を自在に操るのだ。であるならば、この後どうなるかなど考えるまでもない。

 投擲したアイスピックはことごとくアルビジア周囲の暴風壁によってはじき返され、自分の元へと跳ね返ってきたのだ。


 っぶな!もう少しで刺さる所だった。

 あと……もうひとつ。

 だからさー、目の前に倒れ込んでる人と宙づりになってる人がいるじゃない?

 その弾き返したアイスピックがラーニーとシャーロットに当たったらどうするつもりだったの?

 私は手間が省けて良いんだけど、ね?


 いやいや、無駄なことを考えている場合ではない。この際、2人に流れ弾が当たることなど意に介している場合ではないのだから。

 だって私のすぐ隣には多分……


 1本ほどアイスピックを取り出し、シャーロット目掛けて投げつけようとした。

 すると突如として自分の真後ろに姿を顕したイベリスによって軽く手を払われて失敗してしまう。


 ほーら、やっぱりね。


 アルビジアの後ろに姿が見えないということは、姿を隠した上で自分の周辺に隠れている。そんな予感がしていたが的中した。

 こうなったら逃げるのみ。


 でも挨拶はきちんと、ね☆


 そう思いながらイベリスの方を振り返り、にこっとした笑みを送ってすぐさま撤退を決め込んだ。

 危なかった。あらゆる意味で絶対の法が無ければ即死だった。


 危機一髪という具合である。それにしても口惜しい、口惜しい、口惜しい。

 ラーニーへの手向けのアイスピック1本。胸に突き刺したかったな。



 あぁ……あの時もまた、不完全燃焼であったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る