第4話 フェイク・アルコール・スクープ
何度、電話をかけてもつながらない。ファドは、仕方なく、短めの伝言をラーンズ宛てに残して、通話モードを切った。メディアが、密造酒に関するニュースを何かやっているかもしれない。そう思ったファドは、家に設置しているモニターの電源をつけた。
「では、次のニュースです。密造酒の製造・販売に関わったとして、関係者9人が逮捕されました。警察は、裁判に支障があるとして、彼らの認否を明らかにしていません」
また、同じ時間帯にやっていた別のチャンネルのニュースでは、こんなことも伝えていた。
「押収された密造酒からは、致死量をはるかに超えるメタノールが検出されたとのことです。このメタノールは、飲むと失明し、最悪の場合、命を落とすこともある大変強い毒性を持つアルコールとして知られています」
だが、密造酒による被害者の数を正確に把握しているニュースは、どこのチャンネルにもなかった。少なくとも、100人が被害に逢っているというのが、複数のメディアの共通認識らしい。
モニターを消して、どれくらいの時間が経過しただろうか、携帯電話が鳴った。ラーンズからの着信だった。
「もしもし」
「もしもし、ファドさんでしょうか?」
その声の持ち主は、友達のものではなかった。ファドは、努めて冷静になり、相手のことを尋ねた。
「はい、ファドです。すみませんが、お名前をお教え願えませんでしょうか?」
「突然の電話で申し訳ございません。私、ラーンズの母のラズリーと言います。本当に言いにくいことなのですが、あなたに、言わなければいけないことがあって」
母親だと理解し、あらゆる可能性を頭の中で検討しながら、先を促す。
「なんでしょう?」
「実は、息子のラーンズは、メタノール中毒が原因で倒れて、搬送先の病院で亡くなりました」
亡くなった。その言葉を聞かされた時、ファドの心の中では、後悔が渦巻いていた。あの時、ラーンズの家に行って、お酒を飲むことを止めていれば。しかし、今となってはもう遅い。今の自分にできることは、こう言って、密造酒を買わないよう、忠告することくらいだろう。
「安すぎるお酒には、くれぐれもご注意を……」
フェイク・アルコール・ドリンク 刻堂元記 @wolfstandard
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