第3話 フェイク・アルコール・バイヤーズ
ファドが何を売っているか知るために、
ファドは、バーを出た後に、行きと同じ大通りを歩いて家に帰ったが、その途中にあった、やたらと混んでいたお店のことなど、すっかり頭から忘れていた。そうして、家の扉を開けて、ベッドに寝転がり眠気が訪れるのをひたすら待っていたら、ベッドの横に置いていた携帯電話が鳴った。何事かと思い、急いで電話に出る。
「もしもし、ファドです」
「おお、ファド!こうして話すのは久しぶりだな」
なぜか、友達のラーンズは、上機嫌だった。初めの第一声で、名前を名乗らないのも実に彼らしい。だけど、ラーンズの声のトーンを聞く限りにおいては、深刻な話ではなさそうなので、ひとまず安心した。
「なんだ、ラーンズか。どうしたんだよ、こんな時間に。やけに嬉しそうじゃないか」
「聞いてくれよ。俺、実はすっごく安くいいお酒を手に入れたんだ。良かったらでいいんだけど、明日、何も予定がないなら、朝まで一緒に俺の家でお酒を飲みながら、楽しくおしゃべりでもしないか?」
「せっかくの誘いだけど、やめておくよ。今日、バーで飲みすぎたんだ」
そう言って断ると、ラーンズは残念そうな声を出した。そして、
「そうか。もし、気が変わって飲みたい気分になったら、いつでも電話をくれよな。じゃ」
と言うと、ラーンズは、一方的に電話を切ってしまった。言いかけた言葉を飲み込み、携帯電話を手から離す。それから、暗い室内に、仄かに明かりが灯る空間で、ファドは、ゆっくりと瞼を閉じた。
目を覚ます。時計を見ると、時刻は午前8時を少し過ぎた頃だろうか。毎朝の習慣で、携帯電話を開くと、とあるニュースがロック画面に飛び込んできた。
『メタノール入りの密造酒で31人が死亡』
ファドは、このニュースを見て、3つのことを思い出していた。多くの人々が群がるお店。バーで聞いた噂。とても安くお酒を買ったというラーンズ。仮に、これらのことが相互に関連しているのだとしたら?
ファドは、無事を祈りながら、即時、ラーンズに電話をかけた。
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