第2話 フェイク・アルコール・ファクトリー

 後に、フェイク・アルコール・ファクトリーと呼ばれることになる、その工場は、

多様なお酒を製造しては販売していた。しかし、長引く不景気と、過度な値下げ競争により、経営は悪化。工場は、閉鎖を検討しなければならないほど、追い詰められていた。


 このまま、工場をつぶすわけにはいかない。そう考えた工場長は、酒造会社のトップである社長と会談し、どうすれば、この危機を乗り越えることができるか、意見を聞いた。それに対し、社長は、そんなことも分からんのかとでも言いたげに、


「メタノールを混ぜて作ったものを、安く売ればいいだろ」


 と言い放った。工場長は、耳を疑った。そんなはずはない。そう思って、ゆっくりと目線を社長の方に合わせる。


「冗談ですよね?」

「いいや、本気だ。すぐにやれ」


 そう答えた社長の目は、少しも笑っていなかった。それどころか、ただならぬ威圧感をまとって、工場長を睨んでいた。工場長は、その威圧感から逃げるように、目を下に向けると、小さな声で、


「分かりました」


 と返事した。社長は、その言葉を聞いて満足そうな顔を浮かべると、直ちにその場から立ち去った。


 工場長は、その後、直ちに従業員全員を集めて、


「ウチは、明日からメタノール入りの密造酒を作る!」


 と宣言した。その声は、僅かながら震えてもいた。なぜなら、メタノールが人体に有毒であることを、工場長自身、よく知っているからである。


 それはさておき、工場長の宣言を聞いた従業員は、急に騒ぎ始めた。


「どういうことですか?」

「そんなことしたら、捕まりますよ!」

「密造酒を作るくらいなら、私、やめます!」


 従業員の反応は、様々だった。だが、この宣言を肯定的に捉えた者は誰ひとりとしていなかった。工場長は、従業員が静かになるのを待つと、


「私だって、本当はやりたくないんだ!でも、社長の命令なんだからやるしかない」


 と自らの思いを吐露とろした。もちろん、従業員の一部からは工場で働くことを止める旨の書類を受け取ったが、大半の従業員はそのまま働く意思を、工場長に示した。


 それから、工場長及び従業員は、ある種の共犯関係となって、メタノールの入った密造酒の製造を開始した。

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