第43話 ファミリア
刹那、世界が震撼した。
大地が、空が、遠くの海が、世界の全てが激震して義徒が感じた事も無い、否、世界のどの魔道師でも感じた事が無いほどの霊力の強さと数に、義徒は震え上がった。
大地を揺るがす正体は無数の人外、空を揺るがす正体も人外、大地を揺るがす人外には海の人外も混ざっている。
人型、獣型、鳥肩、不定型、無機物型、数え切れないほどの亜人種に妖怪、精霊、妖精、土地神に不幽霊に動物霊、さらにはそこら中の空間に孔(あな)が空いて天使や悪魔、魔獣や聖獣、そして神獣が姿を現す。
フェニックスがいた、ドラゴンがいた、エルフ、ドワーフ、鬼に龍人、天狗にカッパ、海に住むクラーケンやらシーサーペントは大地を這いずり駆けつける。
上は神クラスから下は低級霊クラスまで、ありとあらゆるタイプのありとあらゆる人外がグラウンドに、紀物市に集まる。
魔道大戦争、そんな言葉が義徒の頭に浮かんだ。
震える声をなんとか絞り出し、
「これって……まさか……」
とだけ言うと、アリアが前に進み出て、誇らしげに胸を張った。
「はい、彼らは、この者達は全員、初代鷺澤家当主、鷺澤時則(さぎさわときのり)様に恩ある者達です」
「嘘だろ………………」
いくらなんでもこれは無いだろうと否定しつつ、やはり気になりすぎる存在がいる。
「なあ、なんか尻尾が九本あるでかいキツネがいるんだけど……」
「九尾の狐様です」
「あっちの猿は……」
「ハヌマーン様です」
「なんか鎧着て馬で空飛んでる女の子達がいるんだけど……」
「ヴァルキリー達ですね、時則様は東西南北、世界全ての大陸の全ての国と地方を旅し、さらには天界や魔界まで行った方ですから、天使と悪魔、聖神と魔神、聖魔の両方にコネのある人間など、後にも先にも時則様だけです」
「…………」
常識はずれも甚だしい光景に義徒が絶句している間にも、天界、魔界、人界の全世界から集まる人外達はその数を増やし続け、そしてボルファーが高らかに叫ぶ。
「皆の者!! 我等が盟友にして最大の恩人である鷺澤時則の故郷に住む民をまるごとアンデットにしようとするこの魔法陣、その存在は到底許せるモノではない、故に……」
一呼吸置いて、ボルファーは轟く。
「潰せッ!!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオッッッッ!!!!!』
世界が爆音に満たされる。
無数の魔道達の怒号は声と呼ぶにはあまりに格が違い過ぎる。
幽霊が、亜人が、モンスターが、天使が悪魔が神が時則所縁(ゆかり)の全ての存在が陣に自らの力を流し込み、強制的に破壊を始めた。
世界的にも霊格の高い紀物の土地が持つ霊力と紀物市民数万の魂を糧に発動する魔法陣も世界最強の軍団、否、世界最強の友達グループの前にその勢いを押され、崩れていく。
「見るがいい義徒、これが鷺澤家初代当主、鷺澤時則(さぎさわときのり)の使った最強の技、日本における妖怪の総大将ぬらりひょんの百鬼(ひゃっき)夜行(やこう)を凌駕し神々の軍勢ですら足元にも及ばない…………霊力ではなく人徳で発動する天界、魔界、人界、三界全てのあらゆる人外を率いる、三界史上最強最大の超絶秘奥義、無限(むげん)夜行(やこう)!!
またの名を果てなき無限の絆(アンリミテッド・ファミリア)!!!」
「…………すごい…………」
ボルファーの説明と、そして目の前の光景に義徒はかつてない興奮と緊張に魂が震え上がった。
「信じられないといった顔だな、だがこれが現実、時則の奴がその生涯を通して三界の世界全てを冒険し尽くし全ての者に平等なる器と慈愛を、男気と志を指し示し、あらゆる者との信頼と絆を勝ち取り、情を確かめ合い、神すら叶わなかった聖魔同盟すら実現した男の人生の集大成がこの光景だ」
「でも……集めたのは…………」
「馬鹿を言うな、わしはただ時則の故郷が危険だと知らせただけ、ここにいる何億何十億という連中は皆、大好きな時則の故郷を守ろうと自発的に集まったに過ぎんよ……」
ボルファーは嬉しそうに笑い、だがその目は遠い日を映している。
「そうだ、時則が死のうが生きようが関係無い、我らからすれば一瞬の事に過ぎない数年、数十年の月日でも……時則と過ごした日々は本物で……時則は確かに我らを照らし続けて……時則は全ての者が大好きで、我らも時則が大好きでその気持ちに偽りは無い、そう、だから……だからなぁ…………」
なつかしむように語るボルファーの声に熱が込められる。
ボルファーの総身から力が溢れ出す。
そしてボルファーは心の底から叫ぶ。
「我らは時則を守る!
時則が死んだなら時則が愛したモノを守る!
我らと時則との絆は未来永劫変わりはしない!!
時則と我らが育んだ友情は死してなお不滅!!
死した朋(とも)の墓前を汚すモノは許さぬ!!!
我らと時則との果て無き無限の絆!!!
時則と共に歩んだ覇王道!!!!
その道、我らが駆けずに誰が駆け抜ける!!!!?」
ボルファーは地を殴りつけ、そしてティア、アリア、ファムも地に手をつけて自らの霊力をアロンの陣に流し込む。
「皆の者!! 我らは誰の友だ!!?」
世界が応える。
『鷺澤時則!!!』
「我らは誰のおかげで知り合えた!!?」
世界が答えた。
『鷺澤時則!!!!』
「我らは奴を忘れぬ! そう!!」
世界が叫ぶ。
『鷺澤!!! 鷺澤時則!!!!』
アロンが構築した魔法陣は霊格の高い紀物市に流れる霊力と数万の市民の魂を糧にし、かつ破壊しようとしてもすぐにその力を解析、排除するというものだったが、今、陣には天力、魔力、霊力、邪力、炎属性に雷属性など、あらゆる質のあらゆる属性の力が流し込まれ、解析能力が追いつくはずも無く、まして今も増え続けている数十億の人外が送り込む力の総量に勝つなど望むべくもない。
次の瞬間、アロンの構築した魔法陣は跡形も無く崩れ去り、紀物市の空は本来の姿を取り戻した。
世界が歓喜し勝ち鬨(どき)の咆哮が天を衝いた。
そして数十億の人外達は現当主にして時則によく似た少年、義徒を一瞥してから次々闇夜に溶け込み、ある者は歩き去り、またある者は空間の穴から帰り、さきほどまでの光景が嘘のように全ての人外達は数分足らずで姿を消してしまった。
「果て無き無限の絆(アンリミテッド・ファミリア)を発動させ敵、魔法陣を破壊、義徒殿、お疲れ様でした」
そう言ってアリアに笑いかけられると、義徒は腰を抜かして息を吐き出した。
「初代様越えるのは大変だ」
苦笑しつつ、義徒はいずれ、初代様こと鷺澤時則を越えてみせると、そう心に誓った。
明るすぎる人工の光で、もう日本の夜空ではあまり星を見れないが、それでもなお存在感を失わない月を見上げて、義徒は自身の夢に思いを馳せた。
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