第42話 全員集合


 突然すぎる出来事に、義徒達はしばし言葉を失ったが、とりあえずとして、今回の事件の犯人である、アロン・ベイスは倒したわけである。


「つか、ボルファーなんでああも都合よく湧いて出たんだよ?」

「んっ? ああ、実はずっと霊体化して側で見ておったのだ、いやはや、中々におもしろかったぞ」


 大笑いするボルファーに呆れて、義徒は怒りも嘆息も出なかった。


「じゃあ何か? お前もしかして、朱美が捕まってる時も、みんなの首がへし折られそうな時も、黙って見てたのか?」

「まっことその通りである。貴様がどういうふうに対処するのか見たくてな」

「その、ボルファー殿、それはつまり……」


 ボルファーの力ならばいつでも朱美を助けられたし、それどころからボルファーの気分一つでアロンはいつでも殺せたわけである。

 つまり……


「その通り、奴はこの戦いが全て自分の手の平の上で操っているつもりだったらしいが、奴自身も我の道化にすぎなかったのだ」


 痛快に笑うボルファーに、義徒はつくづく、彼の途方もない大きさに呆然として、力なく腰を地につけて脱力してしまった。


 そして、周囲が光り出す。


『!?』


 その場にいた全員が驚き、義徒もすぐに立ち上がり周囲を見渡す。


 グラウンドに巨大な模様、否、魔法陣の一部が記されている。


 巨大な、それこそナスカの地上絵を遥かに越えるあまりに巨大すぎる陣はグラウンドには収まらずに模様は広がり、膨れ上がり、ドーム状の光の空間を作り出して紀物市をまるごと覆い尽くそうとする。


「まさか……!? でもアロンはもう……」

「そう、死んだよ」


 声のするほうを五人が見ると、そこには半透明のアロン・ベイスその人が立っていた。


「お前……」

「やれやれ、私もとうとう死んでしまったか、まあ結構楽しめたし、未練もないからこのまま成仏させてもらうよ」


 落ち着きはらっているアロンに義徒は詰め寄る。


「待て、これはどうゆうことだ!? 何でお前を倒したのに術が発動してるんだ!?」


 声を荒げる義徒に、だがアロンはさも当然といった具合に軽々しく応える。


「だって発動のスイッチは私が持っているんじゃなくて私自身なんだから、当然だろ?」

「なん……だって…………!?」

「だから、私が死んだら発動するように術式を組んでおいたんだよ、まんまと騙された主人公は哀れ、町の人を救えずに終わるのでした。

 私の物語は私の用意したエンディングしか迎えない、私に勝とうが負けようが、この物語にはバッドエンドしか無かったんだよ、言っておくけど解除したり壊そうとするとすぐにその力を解析して分解するから、何をしても無駄だよ」


 歯噛みし、怒りに顔を歪める義徒の姿を嬉しそうに眺めるアロンの姿がより透明度を増して、やがて虚空に掻き消える。


「じゃ、なかなか楽しいゲームだったよ」


 満足げに言葉を残して消え切ったアロン、もう彼の立っていた空間には何も残っていない。


「クソッ! こんなでかい魔法陣、どうやって解除するんだよ!」


 赤紫色に覆われた空を憎らしげに見上げて義徒が頭を抱えると、ボルファーは落ち着いた声で、


「やれやれ、この規模と性質では我でも無理だな……なれば……」


 何か方法があるのかと義徒がボルファーを見て、ティア達がまさかと口に手を当てると、ボルファーは突然両手を天にかざし、


「集え!! 全員集合だぁぁあああああああああああっ!!!」


 ボルファーの全身から嵐のような霊力を吹き出し、空に昇るとそのままアロンの魔法陣を突き破り、夜空に巨大な光の球体を形成した。


 謎の幾何学模様に彩られた球体は膨張すると爆発、八つの方角へと光の奔流が飛び出した。

 刹那、世界が震撼した。

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