第37話 ベルセルク


 義徒達の連携に感嘆の声を漏らし、アロンは指を鳴らした。


 ティアのリングブレードとその横から襲う義徒の蛇腹剣、この二つは無防備なアロンを確実に斬り裂くはずだった……しかし、二枚の刃が当たる刹那、二つの閃きがどちらも弾いた。


 その正体は二体のゾンビが振るった剣。


 見ればアロンと朱美の間の地面からもゾンビは次々に生まれている。


 だが、義徒はそのゾンビ達の異常さにすぐ気付いた。


「そいつら、ただのゾンビじゃねえだろ……」

「ご名答、こいつらは私が顧問をしていた空手部の連中さ、その体格と身体能力をぞんぶんに生かさせてもらったよ、こいつらは戦闘用に特別な処置を施した作品でね、ベルセルク製造の過程で作らせてもらった。まだまだ本物のベルセルクには程遠いが、いずれは伝説に負けないシロモノを作るつもりだよ」


 ベルセルク、北欧神話に登場する戦士のアンデットである。


 主神オーディンが巨人族との戦争に供えて用意した兵士だけあり、その戦闘能力はアンデット系最強ランクを保持し、傷ついてもすぐに再生するという。


 オーディンは戦場で勇敢に戦い死んだ勇者の死体を蘇らせたらしいが、空手部員の死体から作れば材料的には近いだろう。


 無論、いくらアロンが優秀なネクロマンサーと言えど神が作り出したアンデットには負けるはずだ。


 それでも、今まで戦ったアンデットの中では最強という事実は変わらなかった。


 アロンの号令に従い襲い掛かってくるベルセルク達は、どれも今までのゾンビとは比較にならない身体能力を誇っているし、剣で斬っても徐々にではあるが傷口が閉じてきていく。


 ファムは武器の潰すという特性上、ベルセルクの再生が間に合わず。なんとか倒せるが。


 斬るという傷の再生が容易な刃の特性上、ティアとアリアが総身を切り刻み、体のパーツを義徒が火の魔術で焼き払うという方法を用い、三人は協力して戦った。


 前に屋上で戦ったように、巨大な水の渦に巻き込むという手もあったが、ベルセルクの身体能力や肉体強度を考えると、一度で絶命させられるほど捻じ切れる保障はなかった。


「ふむ、思ったよりも頑張るね、私としてはそろそろピンチになって真の力に目覚めてほしかったのだが、仕方ない」


 義徒達が最後のベルセルクを倒したの同時に、アロン周辺の地面が激震し、次々にヒビが入る。


「これは!?」

「下がってください義徒君、下に何かいます!」


 亡者の群れを全滅させた今こそ、朱美を助け出す絶好の機会だったのだが、ティア同様、義徒も地下に潜む巨大な怪異の気配を察知して下がった。


「フフフ、これが私の最高傑作……」


 我が子に初めて対面した父のような顔で笑うアロンの真下から、無数の手足が這い出し山のような巨躯を曝け出した。


『……ッッ!?』


 そのあまりにおぞましい姿には、義徒だけではなく、ティア達までもが絶句し、顔をしかめた。


 出てきたのは数え切れないほどの人間のパーツが合わさった異形の化物だった。


 長さも太さもマチマチの手足と頭の集合体、その中から大木ように太く長い腕が六本、どうやらそれで這うようにして進むらしいが、メインとなる頭は無かった。


 ただ意味も無く生えている頭はどれも怨嗟の言葉を吐き続け、義徒を妬ましげに見ている。


 手腕の全ては救いを求めるように義徒に向けられ、足は蹴る地を求めるように空しく虚空を彷徨っている。


「驚いたかい? これが私の持つ最強の駒、ヘカトンケイルだよ!」


 醜悪な肉の山の上に立つアロンは誇らしげに胸を張り、そう叫んだ。


 ヘカトンケイル、ギリシャ神話に登場する人物で、そのあまりに強大な力ゆえに神に冥界に閉じ込められたとされる五〇の頭と一〇〇の腕を持つ巨人である。


 当然、ベルセルク同様、アロンがそれを模して作っただけであって本物ではない、だがその巨体に漲(みなぎ)る霊力の波動はベルセルクの比ではなかった。


 義徒は対峙しただけで理解した。

 この怪物は自分よりも遥かに強いと……


「さあ、早くピンチになったら強くなる正義の味方の力を見せてくれ! 真の力を! 極限体の力を!」

「っざけるなぁああああ!!」


 義徒は咆哮して剣を振るった。


 ボルファーの言ったことは正しい、ピンチになれば極限体になって勝てる、などと思っているうちは己の理想など果たせるはずもない、この敵は自分の力で、戦士としての力と召喚術師としての力、ティア、アリア、ファムと連携して倒し、そして朱美を救い出さねばならない、それこそが自分の、鷺澤義徒の未来に繋がるのだから。


「その顔、最高だよ義徒! 君は本当に最高の主人公だ! さあ、愛と正義のためにその力を存分に振るい、そして最高の輝きを見せてくれっ!」

 

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