第35話 ラストバトル


 振るうだけでそれぞれ、風の刃と水の刃を放つティアとアリアの得物は次々にゾンビの群を切り崩し、その矮躯からは想像もできないほど軽々とハンマーを操るファムは片っ端から腐った亡者達を粉々に砕いていく。


 義徒も自らの刃に炎を纏わせ、容赦なく敵を焼き斬り続けた。


 切り裂かれた傷口から炎上するゾンビ達は見るも無残に倒れ伏していく。


 元は生者だったゾンビを倒すのに抵抗はあった。


 だが今を生きる者、ましてそれが幼馴染の朱美を救うためとあれば、義徒とて敵を斬らずにはいられない。


 それでも、彼の操る蛇腹剣に殺気がなく、技のキレがいまいちなのは否めない。


 すると、朱美のためにと戦う義徒の顔に魅入るアロンの口から言葉が漏れた。


「かっこいい……」


 まるで心酔するような声に、義徒は驚いた。


 見ればアロンは朱美に毛ほども近づいてはいなかった。


 彼にとって朱美はまったく眼中になく、ただ義徒達の戦いぶりに見惚れるばかりであった。


「うん、やっぱり正義の味方はこうでなくちゃね、やっぱり君は私のプロファイリングどおりだった。私の期待にどこまでも応えてくれた」


 アロンは何かを思い出すように右手の人差指を額に当てると饒舌に口を動かした。


「鷺澤(さぎさわ)義徒(よしと)、年齢一六歳、身長一七〇センチ、体重六〇キロ、使用武器は蛇腹剣、血液型AB型、持霊はシルフ、ウンディーネ、ノーム、イフリート、使用属性は火風水土雷氷とレパートリーが広く、黒魔術を混ぜての剣技で敵を翻弄、召喚術師としては三流、黒魔術師としては二流、錬金術は使えないが魔道具の知識が豊富で簡単な修理は出来る。白魔術は一切使えない」


「……お前、何言って……」


 戦いながら顔から闘志の退く義徒にアロンはなおも告げ続ける。


「好きな食べ物はビーフシチューと紅茶、昔から年上の女性に可愛がられる傾向が強く、逆に同年代の友人は少なめ、そして幼稚園の三年間と小学校の六年間、計九年間の将来の夢は、これには驚いたよ。英雄、ヒーロー、正義の味方に救世主、中学校の卒業アルバムに書いた夢は職業ではなく世界を救える男、これにはクラスの大半がドン引きか……馬鹿なクラスメイトを持つと苦労するね、幼少期に妹が死んで以来全てを護ると決めるが元々が戦闘嫌いの上に敵のことを気遣ってロクな成果を上げられず。未だDランクソルジャーのままで今回の事件を解決すればCランクに昇格できる……最高のステータスだね」


 特大の落雷でゾンビを焼き殺してから義徒は叫んだ。


「さっきからごちゃごちゃと、一体なんの話だ!?」


「何って、私と戦う正義の味方選びの資料さ、君は最高点だった。だから選ばれた。それだけさ、特に誰かを護るのに平気で自分の命を投げ出す行動や、いわゆる、殺されるのが恐いから戦わないのではなく、相手を殺すのが恐くて戦わない、という点、君は少年漫画の主人公そのものだった。加えて幼馴染の女の子と精霊の美少女に囲まれた生活、ギャルゲーの主人公としても申し分ない、本当に、私は未だかつてここまで出来すぎた設定を持った人間を見たことが無い、そう、まるで幼い頃から愛読していたライトノベルやハーレムゲームの主人公がこの世界に舞い降りたようじゃないか!」


 両手を広げて歓喜の声を高らかに吼えながらアロンは天を仰ぎ見た。


 義徒達は、アロンが何を言っているのかがまるで理解できなかった。


 もしかしたらこの男はただの狂人なのではないか、そんな思考が頭をよぎったのと同時に、四人はあることに気付いた。


「……義徒殿、このゾンビ達は」

「ああ、最初よりも強くなっているぞ……」


 アロンの口上に呆れ返っていた表情を引き締め、義徒はさらに刃を舞わせた。


 初めのゾンビ達は一撃で倒せたし、派手な技なら一度に五人は殺せた。


 なのに今は一撃で倒れる者は無く、徐々にその動きに力強さと速力が乗ってきているではないか。


 ゾンビとはただしぶといだけで、戦闘力事態は極めて低いというのが一般の魔道師の認識だ。


 だが、アロン・ベイスは最上級のネクロマンサーである、アロンの手にかかれば本来は足止めとしてしか使われないゾンビも主力の強さを誇るのだろう。


 次から次へと地面から沸いて出るゾンビの群れに肉迫する義徒達に、アロンが賞賛の言葉を送る。


「そのとおり、ゲームでも敵のレベルは段々上がってくるだろ? 完成度の高いゾンビほど後に控えているからそのつもりで頼むよ、そのためにわざわざ最高の材料にと若い子ばかり捕まえたのだから……うちの生徒とかね……」

「……!?」

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