第31話 みんながうちに来た理由

「そういえば野球部員達は?」

「それなら皆さん無事ですよ、ロベルト先生も特に変わったようすはありませんでしたし」


 生徒達の無事で気が抜けたのだろう、義徒は安心して息を大きく吐き出して眼を閉じた。


「そっか、あーあ、結局、初代様みたいにはいかなかったな」

「何を言うのですか、極限体まで追い詰められはしましたが、結果的に義徒殿はソルジャーとしての務めを果たしきりました。毒島とやらの死体はアサシンが回収しましたから、今朝のニュースでも昨晩は行方不明者は彼一人、警察も驚きの結果でした」


「毒島は守れなかった……」


 落胆し切った声に、アリアは言葉を詰まらせ、義徒はなおも続けた。


「初代様なら、毒島の奴を救えたかもしれない……」


 三人は同時に声をかけようとして、だが先に義徒が顔を手で隠し告げた。


「悪いけど寝かせてくれないか……」


 義徒のあまりに力無い言葉に三人とも視線を落とし、何も言わずに部屋を出て行った。


 部屋に一人残された義徒は涙を流さず、特に深いことも考えず、ただ今まで以上に深く気を落として意識をシャットダウンした。





 夕食の時間にティアが起こすと、義徒は見ただけで空元気と分かる様子ではあったが、柔らかい表情で夕食を食べた。


 リビングにはボルファーを除いた三人の精霊が揃っていたが、誰も話題を振ろうとはせず、陰鬱とした空気が流れる。


 一番良い流れとして、義徒が沈黙を破ってくれたのは僥倖(ぎょうこう)だったろう。


「そういえばさ、みんなが初代様の持ち霊になったのって、霊力に惹かれたからなのか?」

「いえ、時則君は霊力を使わなかったので、わたし達はみんな普通に勧誘されただけですよ」

「じゃあどういういきさつで契約したんだよ?」


 するとアリアは真顔で、残る二人は笑顔で。


「地面に突き刺さった時則君を引き抜いたのがわたしなんです」

「顔とスタイルで選ばれた」

「アメくれたからだよ」

「って、お前らよくそれでついていったな、つうかファムのアメってなんだよ……」


 ファムは指を顎に当てて遠い日のことを思い出した。


「うーんとね、ファムちゃんがヨーロッパから迷子になってインドにいた時のことなんだけどね……」


 義徒の「どう迷ったらインドに行くんだよ」という指摘は無視してファムが続ける。


「人通りの少ない路地で時則ちゃんがファムちゃんに言ったんだ」


「お譲ちゃん名前は? おうちどこ?」


「なんだよその普通の質問!?」

 義徒が声を張り上げるとファムは続けて。

「だからファムちゃんは言ったんだよ」


「ファムちゃんは土の精霊、おうちは地面の下だよ」


「どこの痛いアイドルの設定だ……」

 頭を手で抑える義徒にファムが追撃の一手をしかける。

「そしたら時則ちゃんはこう言ったよ」


「アメあげるからお兄ちゃんと一緒に来ない?」


「それ誘拐だろッ!?」

 そしてトドメの一撃。

「だからファムちゃんは素直に言ったよ」


「うん」


「というわけでファムちゃんは時則ちゃんの持ち霊になったんだー」


 あまりに酷いエピソードに乾いた笑い声を出しながら苦笑いする義徒はなんとか一つの問いを言うのが精一杯であった。


「っで、初代様のほうは何でファムを選んだんだ?」

「なんか仲間内に一人くらい幼女がいたほうがバランスいいからだって」

「ったく、初代様精霊選びいい加減すぎだ……」


 義徒が先祖に呆れながら嘆息を漏らすとファムが不意に飛び掛り、義徒の膝の上に座った。


「えへへ、義徒ちゃん元気出た?」


 気付けば義徒は怒鳴って呆れて、沈鬱な気分が消えているのに気付いた。


 義徒は自分のことを思ってくれている少女を抱いてお礼を言った。


「俺のために嘘まで言って……ありがとうな」

「ううん、今の話は本当だよ」


 絶句する義徒に対して、ファムの笑顔はどこまでも眩しかった。

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