第28話 復讐失敗、まぁ当然



 喉の奥で小さく笑う毒島を瞠目して見ながら義徒は問う。


「なんでお前が……」

「義徒君、クラスの方ですか?」


 見たことない人物の出現にアリアとファムも義徒に眼で質問してくる。


「ああ、俺のクラスメイトでいつもケンカ売ってくるんだよ、まさか魔道師だとは思わなかったけどな……」

「魔道師? ちょいと違うけど驚いたぜ、この世に魔法なんてあったんだな、俺は今までそんなもんはゲームや漫画の中だけの物だと思ってたぜ、その女達は精霊なんだろ?」

「こいつらはお前が操っているんじゃないのか?」


 顔をしかめる義徒に毒島は嬉しそうに応える。


「まあな、俺はアロンとか言うオッサンからこいつらを借りただけだ、一応俺の言うことは聞くけど実際主導権握ってるのはそいつだ。ここにくれば俺が一番嫌いな奴が来るからって言われたんだけどよう」


 眼をむいて毒島は叫んだ。


「それがてめえでホントに感謝してるぜぇええええ!」


 毒島の声に反応してゾンビ達は毒島の横を通り、一斉に義徒達に襲い掛かった。


 それに対し、瞬時に鎧を具現化させ、剣を空間から召喚させたアリアを一番槍としてティア、ファムもアンデットの群を遠慮なく八つ裂きにしていく。


 アリアは剣、ティアは真空の刃で戦うがファムだけは斬撃ではなく、空間から太い石柱を召喚し、それでゾンビ達を磨り潰していく。


 だが、その背後で義徒は自分に襲い掛かるゾンビの攻撃を防ぐだけで積極的な攻撃はしようとしない。


 クラスメイトが関わっているという事実がその原因だ。


 確かに毒島は義徒にケンカを仕掛けてきていた。


 でも圧倒的な身体能力を誇る義徒はそれが原因で特にケガはなく、毒島はあくまでも義徒本人にだけ絡み、義徒の友人には迷惑をかけていなかった。


 そのため、義徒は毒島にこれといった嫌悪や憎しみは抱いていなかった。


 義徒の決意は、自分の力の範囲内で出来る限りの人を救うのと、今生きている人達を救うために死んだ人達に安らかな眠りを与えられないことを我慢することである。


 だから、クラスメイトが敵になるなどという状況は考えもいなかった。


 冷静に対処すれば、義徒ならゾンビ達を一掃し、毒島を傷つけずに捕縛できただろう。


 しかし、それを可能とする冷静な状態まで回復するのにかかる時間を一体だけは見逃さなかった。


 表通りから、長身の黒いコート姿の男が音もなく路地裏に入り、突然義人の背後に近づいた。


 その気配に気付いた時には既に遅かった。


 義徒が振り向くとその男はコートの中から厚みと幅のある中華刀のような形の刃物を取り出し、刃を一閃させた。


 真っ直ぐ振り下ろされた黒い刃は義徒の左肩、それも首との境目に直撃した。


 異常に気付いたティア達が振り返った先に見たのは、鎖骨ごと斬り裂かれた左肩からおびただしい量の血が噴出しているシーンだった。


 どうやら大きな血管を裂かれた上に、一度に大量の血を失いすぎて思考力が下がったらしい。


 壊れた蛇口のように流れる血を抑えようともせず、義徒の体は後ろに傾いた。


「……あっ……」


 気が動転して痛みも感じなかった。


 義徒はただ薄れる意識の中で、コートの男が再び刃を振り上げるのを見ながら、ただ漠然と思った。


「(頼む……勢い余って毒島殺すなよ……俺……)」


 ティア達は必死に駆けた。


 早く義徒に回復呪文をかけなければならなかったが、それは義徒の命を救うためではない、義徒の理想を守るためだ。


 何故ならば、義徒は死にそうになると魔道師らしくなってしまうから……

 

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