第23話 ハーレムするの?


 まるで自分のことのように嬉しそうに語るボルファーに義徒は呆れたように息を漏らした。


「肝心な人間達の信頼は得られなかったんだな、まあ、初代様の行為は協会からすればただの猪武者だからな……つうか、お前、初代様のこと話す時っていつも楽しそうだよな……いや、お前に限ったことでもないか…………」


 幼い頃、義徒に時則の偉大さを教える時のティアやアリア、ファムの顔を思い出しながら義徒は感想を述べた。


「ふふん、奴と駆けた戦場はいつでも我の心を躍らせたからな、それに引き換え、奴の子孫達は実にツマラン小物揃いである、時則と我の覇王道にも興味を示さんかったし、まったくもってけしからん」


「ソレって父さんも?」


「時義(ときよし)か? そうさなあ、あいつはツマラン輩の代表であろう、くだらない世間体ばかり気にしおって、精霊の妾も少ないし、時則に一番似ていない存在かもしれん」


「ボルファーは初代様みたいな術師が好きなのか?」


「当然だわな、人間共の礼儀や格式など精霊からすれば取るに足らない物、そんなモンにかまけているほうがよっぽど非合理的なのにそんなことにも気付かず、ルールという名の団長と世間の評価という観客に踊らされている道化達なんかと一緒にいるより時則のように舞台を飛び降り客と戯れる破天荒者と一緒にいたほうが万倍は愉快だぞ」


 仮にも世間的には自分のマスターである鷺澤家の歴代当主を、臆面もなくツマランの一言で一蹴するボルファーに苦笑しながら、義徒はふと、視線をボルファーに向けなおした。


「なっ……なあ、それって、俺は、お前たちからすれば、良いマスターになるのか?」


 今まで散々魔道師らしくないと罵られてきたが、それが召喚術師としてのアドバンテージになるならと僅かな希望を乗せて義徒は問う。


「そりゃまあ、人格面で言えば貴様は歴代当主よりも居心地は良いな、実際のところティアやアリア、ファムも貴様には歴代当主とは違った思いを抱いているようだし、我も貴様を多少、評価してはいる」


 一瞬、悦びで顔を明るくさせた義徒に、ボルファーは「だが」と続けた。


「貴様の場合は時則と違って実力が伴っておらん、奴ならば圧倒的な霊力と戦闘経験でどんな敵でも殺すことなく戦力を削ぎ、降伏させた上で仲間にしたり協会に引き渡したりしていたからな、しかし貴様の実力では死力を尽くさんと強敵には勝てんだろうし、死力を尽くした戦いならば相手を生かす余裕などあるはずもないだろう、そもそも時則は青臭い理想論は持っていたが同時に悪を容赦なく斬り殺す非情さも兼ね備えていた。少なくとも既に死んだアンデットを斬れないなんてことは一度たりともなかったし、話し合いの余地がない戦争なれば有無を言わさず敵の部隊を殲滅させてきた。貴様とは根本から違いすぎる」


「………………」


 返す言葉がなかった。ボルファーの言うとおりだ。自分の理想はそれこそ初代様こと鷺澤時則のような伝説級の力でもなければ実現できないだろうし、時則ほどの力があっても結局、戦争などの局面においては全てを救うことは出来なかったのだ。


 誰も傷つかない、誰も悲しまない、みんなを幸せにできる正義の味方なんてやはり無理なのかと改めて実感させられるが、それでも魔道師史上、最も自分の理想を体現したであろう時則と自分の精神性が似ているという事実は彼の肩を軽くはしてくれた。


 すると面を伏せる義徒にボルファーが怪しく笑い、突然肩を抱き寄せた。


「時に小僧、奴に近づくにはまず実現可能な物からやってはどうだ?」

「実現可能って?」

「さよう、戦闘術はアリアが教えるとして、霊力面は我とティアで特訓してやる、だがそれが時則の域に達するのには十数年を要するであろう?」


 何が言いたいのかはよくわからないが、アリアと一緒に街へ捜索しに行く時同様、彼のずばぬけた第六巻はすこぶる嫌な未来を危惧させる。


「つまり、俺にどうしろと?」

「手始めにアリア達三人を娶(めと)れ」

「なっ……!?」


 義徒の脳内で爆竹が暴発し、顔が耳と首筋まで赤く染まった。


「奴の強さの秘訣はその欲望の深さでな、誰よりも寝食を楽しみ、そして誰よりも色事が好きな男であった。時代によって差はあれど、鷺澤家の頭首達が代々人間の妻を本妻とし、人外の妾(めかけ)を侍(はべ)らしているのも、実は時則が始まりでな、何せあいつときたら男の精を貪り喰らうはずのサキュバス数人を余裕で手玉に取ってからデザートにと天使に夜伽をさせるような男だったからな、小僧もまずはそこから始めてみろ」


「ばっ、バカ言うなこの色ボケイフリートォッ!!」


 脳内でダイナマイトを爆発させながら義徒が怒鳴った。


「俺はまだ一七歳だぞッ! そっ、そんなことして良いわけないだろッ!」

「時則が一七歳の時には妾だけで一五人、関係を持った女なら八〇人はいたぞ、それとも小僧、貴様、女に興味がないのか?」


 義徒は怒りと羞恥でもう声も出なかった、体を小刻みに震わせながらマグマのように赤い顔は口をパクパクと動かすだけだ。


 何せ小学生の頃まではティアとアリアが義徒の背中を流していたし、中学生になってもアリアは主の背中を流すのは家臣の勤めと言って何度か風呂場に入って来たことがある。


 ファムに至っては未だに一緒に入ろうと言ってくるため、今回だってファムに見つからないよう風呂場に来るのに苦労したのだ。


 だというのにボルファーがそんなことを言うものだから三人の体が自動的に脳内から引き出されてしまう。


 すると次の瞬間、ボルファーが卒倒寸前のダメ召喚師の息の根を止めるべく、とどめの一撃を撃ち放った。


「それとアリアには一〇分後に背中を流しにくるよう言っといた、もう九分は経っただろうがな」

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