第21話 初代様の偉大さ

「甘いのう」


 刹那に起こった爆発はあまりにも巨大すぎて義徒は意識を失った。


 感じたこともない熱と衝撃波は義徒だけに向けられたものだった。


 いつのまにかファムはボルファーの左手につまみあげられ、ティアとアリアはそれぞれ球状の熱線に包まれ、動きを封じられていた。


 あの状況で何故ファムがボルファーの手中にあったのか、気を失う前に義徒はそれを見ていた。


 ボルファーの左肘が炎にかわり、そこから腕が伸び、ファムを掴み取ったのだ。


 なにせボルファーは炎の魔人、彼の総身は炎で形成されている。


 炎は無形、故に一度その身を炎に変えたなら肉体の形状や大きさは自由自在、これぞボルファーに限らず、イフリートそのものが精霊の中でも恐れられる理由である。


 伝説の中に登場するイフリートは隠れるときはネズミより小さく、怒れば城より巨大に、七本から八本の腕にそれぞれ異なる武器を持ち、斬っても突いても殺せず、口や手から全てを焼き尽くす灼熱の炎を撒き散らすとある。


 古代の魔術師の中には、四大精霊の火はイフリートではなくサラマンダーだと言う者がいるのは、イフリートだけシルフやウンディーネ、ノームとはあまりにその力が違いすぎるせいとも言われている。


 致命傷を与えたり、ゆっくりと気を失わせると義徒は霊力の枷が簡単にはずれてしまうことを知っていたボルファーは純粋に気絶させることを狙って攻撃したため、義徒は気を失ったが大きな外傷はなかった。


 数秒もしないうちに義徒が目を覚ますと、側には心配そうに見守ってくれるティアとアリア、ファムはボルファーのもとから慌てて走り寄ってくる。


 三人にそれぞれ名を呼ばれて義徒は礼を言うと立ち上がり、彼には珍しい、怒りに満ちた視線を投げつけた。


 それを受け取ったのは当然、ボルファーだ。


「ボルファー……お前、最初から協力する気なんてなかっただろ……」

「ふん、今さら気付いたか」


 二人のやりとりにティア達はうつむき、申し訳なさそうに謝った。


「すいません、せっかく、義徒君がやる気になっていたので……」

「ファムちゃんもごめんなさい」

「残念ながら、五分の一でも我々では力不足なのです」


 三者三様の言葉にボルファーは鼻を鳴らして語る。


「その通りだ、貴様らが束になってかかってきたところで、我は五分の一どころか十分の一の霊力でも対応できたわ、最初から小僧に勝ち目などあるわけなかろう」

「……ッッ」


 義徒は歯噛みした。


 桁違いだった。あまりに強すぎる。


 アリアはもちろんのこと、ティアやファムも時則が行った修行のおかげで精霊の中でもかなり強い部類に入る。


 なのにその三人プラス、まがりなりにも鷺澤家嫡男である自分が束になってもその足元にすら遥か及ばない。


 つくづく、ボルファーは最強だと痛感させられた。


 こんな化物など人の手にあっていい存在ではない、考えてもみれば父や祖父も当主でありながら、ボルファーとはまるで対等、場合によっては格上のように扱っていた。


 時則の偉大さを、身を持って体感してしまう。


 彼は一体どうやってこの男と契約し、使役したのか、もはや義徒の頭では想像もできなかった。


 豪快に笑いながら部屋を出て行くボルファーの声に涙を流しながら、義徒は泣き声だけは聞かれまいと必死に声を押し殺した。

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