第15話 ネクロマンサー
目的の店では待ち伏せをする予定だったが、実際には調査をしてすぐに店を出た。
義徒は舌打ちをして握り拳を振るわせた。
一足遅かったのだ。
店内にはすでに魔術を使った痕跡が残っており、その新しさから察するに、犯人はほんの一〇分かそこら前には逃げた様子だった。
店内にはトイレに行ったきり戻ってこないと、友人を探す若い男の姿があった。
きっとその友人は明日のニュースで報道されることだろう。
義徒にはわかっていた。
自分の甘さが招いたことだと、もしも先ほどの戦いで彼らはもう死んでいるのだからと割り切っていれば、霊力を最大開放し、全てを一瞬で切り払い、この店に真っ直ぐ向かっていたなら、もしかしたら間に合ったかもしれない。
結局、今夜の義徒は死んだ人間のために、まだ生きている人間を犠牲にしたことになる。
涙を押し殺し、喉の奥で何度も泣きながら、義徒は帰宅した。
唯一の救いは、周囲の目を気にして実体化はしなかったが、ティアが励まし、アリアも激励こそしなかったが、さっきの戦いのように責めることはせず、側に寄り添ってくれたことだった。
「じゃあきっとネクロマンサーだね」
義徒の話を聞きながらパソコンのキーを叩くファムが告げた。
ネクロマンサーとは死霊や死体を操り戦わせる魔術師で、戦闘方法としてはしては召喚術師によく似ているが、彼らの場合はその性質に問題があった。
なにせ死んだ人間が武器なのだから、精霊と契約するのと違い、死体を手にいれなければならない、ソルジャーとして、あるいは研究者として協会に所属するネクロマンサーは、多くは家族の死体で、数体の死体を戦闘用に改造し使い、もしくは数体の死霊を使う、だが、彼らの使う、死者繰りの術の効果をより発揮させ、より強い力を手に入れるならば、自らの研究をより捗(はかど)らせるならば、より多くの死者が必要となる。
故に、ネクロマンサーには一般人を手にかけるという禁忌を犯す異端の術師が多く、己が欲望を満たすために見境なく人々を虐殺する輩が多数存在するのだ。
今回のゾンビ達、そして失踪者も実験用にさらったと見れば辻褄(つじつま)が合う。
「はいデータ」
コピー用紙を義徒に手渡して、ファムはパソコンの画面に向き直る。
ファムの部屋は洋館ではなく、武家屋敷のほうにあるため、和室にて椅子ではなく座布団に座りながら義徒は用紙を眺めた。
「これは?」
「異端のネクロマンサー一覧表だよ、古い順に並べておいたから、最後のは事件発生の前後に紀物(きもの)市に引っ越してきた人の表だよっと」
最後にエンターキーを押して、ファムのパソコンに警察の捜査結果が一気に流れ込んできた。
「ふうん、やっぱり消えちゃったのは一三歳から二二歳ぐらい、社会人の失踪者数は去年とペース変わってないね」
言って、右に積んでいる団子を食べてその串を左側の皿に置く、もう三〇本近い串を見ながら、義徒はよくそんなに食べれるなと呆れてしまった。
「でも今年度になってからこの街だけ若い人の失踪者数が激増しているだけで、ソレ以外の年代の人も数年前から失踪したり変死したりしてるよな、これも魔道師の仕業なのか?」
「そうだね、でも犯人は別人だよ、やり方が全然違うから、ファムちゃんの見立てだとまた戦争が起きると思うな」
今度は板チョコをかじりながら言う。
「物騒なこと言うなよ……でも、人間の文明が進むにつれて、魔道協会の隠蔽工作も難しくなってきているしなあ、異端の魔術師達からすれば、やりやすいと言えばやりやすいかもな」
義徒の言うとおり、特にネットの発達した二十一世紀以降はネットでの噂を消しきれるはずもなく、二〇六六年現在では当たり前のように持っている携帯電話のカメラで撮った超高画質映像をネットで晒し、その量や利便性により発生する都市伝説や噂になってしまった魔道の痕跡は、確実に一般人の頭に入ってしまう。
一般人に魔道を秘匿しなくてはならない協会と違い、異端の魔術師はどうせ協会がやってくれるからとバレるリスクを承知で一般人を食い物にするし、中には魔道の存在を明るみにし、今こそ自分達が世界の覇者になるべきだと考える輩もいる。
ともかく、相手が人間社会だろうと協会だろうと、異端の魔術師や有害なモンスター、亜人種は攻撃だけに専念できるのに対し、協会側は年々難しくなる一般人への隠蔽工作に力を割きながら対応しなければならない。
義徒の言うとおり、時代が進むに連れて、流れは異端者側に向いてきていると言っていいだろう。
「それと犯人はファムちゃんの予想だと最後の人だよ」
「最後?」
異端者リストの最後に載っている人物の名はアロン・ベイス、去年、協会から姿を晦ましたばかりのネクロマンサーで、階級もAランクと、今回の犯人の実力と一致する。
「って言ってもこいつイギリス人だよな、今年引っ越してきたイギリス人なんてウチの学校のロベルト先生しかいないけど……顔違うな……」
「その通りだ」
涼やかな声のあとに部屋の障子がスッと開いた。
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