第6話 失踪者


 次の日の朝、学校にて朱美の言葉が義徒の頭を打ち鳴らした。


「あっ、ヨッシー、朝のニュース見た? 昨日ボク達がいた商店街で失踪者八人だって」


 日直で朝早くに家を出たのでニュースを見ることができなかったが、まさか昨日自分のいた場所で失踪事件が起きたというのは重大な情報である。


 朱美は「あの時すぐに帰ってよかった」などと浮かれているが、義徒はあのあと一人で商店街へ戻ればよかったと自責した。


 当然、そんなことは予測できるはずがないのだから、昨日の義徒の行動にはなんの落ち度もない。


 それでも義徒からすれば、もしかしたらすでに犯人が潜んでいたかもしれないのに、それを見落とした自分のせいで犠牲者を出してしまったという思いがあるのだろう。


 内なる悔しさがつい顔に出てしまい、朱美が不安そうに顔を覗きこんでくる。


「ヨッシー、もしかして変なこと考えてない?」

「へっ、変なことって?」


 問い返す義徒に朱美は軽く頬を膨らませて注意を促す。


「だって昔から変に正義感強くてさ、いつも無茶するじゃん、ヨッシーはただの庶民で正義の味方じゃないんだから、そういうのは秘密組織に所属しているヒーローや伝説の武器をもった勇者の仕事なんだからね」


 冗談めいた幼稚なセリフに義徒は胸が痛む。


(御免、魔道協会に所属してるし今日も具現武装もってきてます。つうか超常の精霊三体が護衛にいるんですよ朱美さん)


 遊び半分に言う朱美の軽口がまるで自分の正体を知っているふうに言われているようで義徒の脈拍はその数値を上げていく。


「安心しろって、もうそんな子供じゃないし、今回は失踪事件だぞ、近所のガキ大将にゲームソフト取られた時とは状況が違いすぎるよ」

「まああの時はボクの右ストレートで済んだけどね」


 誇らしげに胸を張る朱美に笑いながら「そうだな」と言って義徒は幼い頃の朱美に思いを馳せた。


 弱い自分を鍛えるなどと言って、結局は同い年で戦う子が欲しかった朱美にいつも殴られ続けた自分、一般人に比べれば莫大な霊力を誇る自分が本気を出せばあの時でさえ朱美に勝つのは簡単だった。


 だが魔道の存在がバレないよう、ひたすら目立たないよう心がけてきた義徒のことは、幼馴染の朱美ですら眼鏡の文化系少年としか見ていない。


 これもまた、魔道師らしからぬ面だが、こうやって朱美を騙しながら生きていくのかと思うと心が苦しかった。


 一般人に魔道の存在を明かしても良い例外は一つ、それは一般人と婚姻を結ぶことだ。


 無論、嫁か婿養子に対してのみ、つまりは一般人を魔道の世界へ引き込んだ時、その者に魔道の存在を教えてよいのだ。


 年がら年中義徒にひっついている朱美ならその可能性は大な気もするが、あいにくと義徒は朱美のはただのノリやネタとして受け止めているため、今年のお正月に朱美が義徒と鴛鴦(おしどり)みたいな関係になれますようにと祈って賽銭箱に投入した一〇〇円玉は無駄になりそうである。


 とは言っても付き合っていないだけで今でも十分一緒にいるのだから願いは半分叶った状態からスタートしたようなものである。


 ついでに言えば、夫婦が常に寄り添い合いながら行動する鴛鴦のメスは毎年相手のオス鳥を変えることも、オス鳥も以外と他のメス鳥と一緒にいることが多いというのも、朱美が知らない事実であった。



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