第3話 この教師がオタクすぎる
今日、義徒の通う秋南高校では朝礼で校長がイギリスの英語教師、ロベルト・サースを紹介し終え。
二時間目が始まる前の教室は普段の呑気な雰囲気とは違い、にわかに沸き立っていた。
秋南高校はまだ国際化が進んでおらず、留学生や外国の先生は今までいなかったからである。
飛行機に乗ったことが無いという生徒が大半を占めるクラスでは外国人に直接会うのは初めてという生徒もいる。
外国人はおろか人外の存在と日常的に会話している義徒からすれば別段興奮するようなことではないのだが……
「ヨッシー、イギリス人だって、髪キンキラキンだったねー」
幼稚に騒ぎ立てる朱美(あけみ)に義徒は飽きることなく付き合っていた。
彼女のうるささには幼稚園の時から慣れているというのもあるが、元々義徒自身の人間性によるものが強く、義徒は昔から彼女には振り回されっぱなしだ。
中学生の頃からクラスでは男子からややウザがられる所はあるものの、だまっていれば可愛いのにと残念がられたりもする。
家がボクシングジムをやっているせいか、幼い頃から義徒相手に遊びの一種として、現在はプロを目指して日々トレーニングに明け暮れ、そのおかげで学年でも随一のスマートなプロポーションを持ち、ウエストのすっきり具合には女子達からも羨ましがられている。
余談だが、子供の頃から義徒は朱美の生きたサンドバック状態になり続け、高校入学の時にようやく御役御免になったという裏エピソードがある。
明るく活発で笑いが絶えず、ネコ好きのせいかはわからないが、寒いと義徒に擦り寄る習性を持っている。
「はは、そうだな、朱美は外国人見るのは初めてか?」
「うん、黒以外の髪って本当にあるんだねえ、そんなのボク、ヤンキーでしか見たこと無いよ」
「ヤンキーって、染髪料じゃん……」
「おーす、少年少女の若人達、噂のイギリスセンセーのご到着だぞー」
勢いよく教室のドアを開けて大またに入ってきた陽気な大人はこのクラスの担任の山下教諭、眼鏡に七三ヘアーが特徴的で担当科目は理科と数学、自他ともに認めるアニメゲームオタクである。
続いて、朝礼で紹介されたロベルト先生とおぼしき金髪が見えかかった瞬間、山下がサッと手をロベルトにかざして制止する。
「待ちたまえロベルト君、君の出番はまだ先だ……」
出鼻をくじかれ、うなだれながら廊下の奥に引っ込むロベルトに構わず、山下は胸を張って高らかに言い放つ。
「みんな、実は先生は昨晩の失踪事件の現場にいたぞ!」
『マジでッ!?』とクラスの全員に質され、山下は得意げに笑った。
「まあな、昨日先生が街のゲーセンにいた時のことだ。格ゲーやってる連中がやたらと騒がしくてな、でも両替に行ったきり戻ってこなかったんだけど……」
虚空を見ながら何かに思いを馳せるようにして、一人うんうんと頷く。
「今朝のニュースは驚いたなー、まさか両替に行った先で失踪かぁー」
「それよりも、何で教師がゲーセンなんかにいたんですか?」
苦笑いを浮かべる義徒に山下はニカッと笑って親指を立てた。
「いやあ、実はクイズゲームマジカルアカデミーでもうすぐ賢者のレベルになれるとこまできていてなぁ」
「アノウ先生、ボクノ紹介……」
ロベルトの悲痛な訴えなど何処吹く風で山下はまくしたてる。
「もう昨日の先生の武勇伝といったら、全然わからん問題が立てつづけに出題されて、ああもう駄目だと思ったんだけどニュータイプも真っ青のピカーンが起こってさー、なんと直感だけで三問連続正解、先生は見事賢者の称号を手に入れましたー、はい拍手ぅー」
今年赴任してきたばかりの新卒とはいえこのテンションについていけるのはクラスでも朱美だけだった。
朱美に合わせて義徒も呆れ顔で手を叩いてあげるが、二人以外の生徒からは「そろそろロベルト先生出してあげようよ」という声がちらほら聞こえる。
そうして、ようやく山下がわざとらしい拍手でイギリス人英語教師、ロベルトを呼び出した。
本来は山下教諭がロベルト先生の紹介をするのだが、自分の武勇伝とは比較にならない生徒達の拍手と笑顔に山下はいじけてしまったのでロベルト先生は、かたことの日本語で必死に自己紹介をした。
するとそれがおもしろいとかえって生徒達の心を掴むことになった。
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