桜 ~文字にしない言葉~
彼女に手紙を書いた時に、私は名前を書いてはいけないと思った。
だって、同性からもらった手紙を彼女が『うれしい』とは思わなかったら……。
想像するだけで、自分の中の真っ黒な感情が心を塗りつぶしていくのがわかる。
字でバレることはない。
だって、彼女は私のことなんか気にならないぐらいに遠い人。
学年も部活も、委員会も違う。
図書室でたった一目見ただけで、私の心を奪ってしまった彼女。
今でも、あの日のことは覚えている。
そして、今でも廊下であの人とすれ違う時は息をするのも忘れてしまうぐらいに緊張し、そしてうれしくなる。
そんな人に手紙を出す。
名前も書けないこの恋文を。
でも、どこかで気付いてほしくて、私は手紙に口づけをした。
さっき塗った、桜の香りのするリップクリームがほんの少しだけついた。
微かに香るその匂いに願いを込めながら、手紙を封筒に入れた。
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