間接キスにも満たない
「今年の九月一日は月曜日ですよ、なんですかね。これは。私達を殺しに来てる、そう思いませんか、菜々美さん」
死んだ魚の様な目でこちらを見ている藍の言葉は、終わってしまった夏休みを悔いる様な気持ちで溢れていた。
どうせ菜々美のことだ、だらだらと過ごしていたのであっという間に休みが終わってしまったのだろう。
どれだけ休みを与えたとしても、それを無駄に使ってしまう。そんなタイプのこの友人の言葉に少し頭を抱える。
「で、藍はどうしたいの?」
そう問うと、真剣な目になった。
「私、学校辞めたい」
もう、何度目の台詞だろうか。
実際にそれを行動に移すつもりのないその台詞に、私は少々呆れていた。
「なるほど、短い付き合いだったわね。サミシクナルワ、アア、サミシイサミシイ」
無表情でロボットのような口調を真似ながらそう言うと、藍は唇を尖らせ始める。
駄々っ子のようなその仕草に、表情が崩れそうになる。
この娘はバカだ。
それも、重量級の。
でも、そこがかわいくて、藍の意味のない愚痴に付き合っている。
アヒルの様な口になっている彼女の唇を摘まみ、ぐにぐにとする。すべすべした肌が、指の腹に触れて、少しドキドキした。
「黙って行きますよ、学校に。二学期は修学旅行、あるでしょ?行きたくないの?」
唇を挟んでいる指を無理矢理剥がすように頭を左右に振る。
「行く、行きます、行かないでか!」
「じゃあ、大人しく二学期を迎えてあげなさい」
「はいはい」
「はい、は一回でしょ?」
「は~い」
間延びした声で彼女が返事をする。
フラフラと私の前を歩き始めた彼女を見つめながら、先程唇を掴んだ指を自分の指に当てた。
間接キスにも満たないそれを堪能しながら、学校に行きたくなかった自分の心を励ました。
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