浅い眠りに彼女を呼んで

 浅い眠りの中でだけ、私はクラスのあの娘に堂々と会える。

 いつもなら、授業中にばれないように盗み見をするのが精一杯だけど、現実から離れた場所でなら、私は彼女の一番の親友で、大事な人になれる。

 だから、眠る時間が楽しみでならない。


「おはよう」も「こんにちは」も現実では言えるけれど「こんばんは」を言える日は、多分私には来ない。


 彼女へ思いを伝えるには、私はあまりに汚いと言わざるをえない。

 それに、この思いは彼女を困惑させるし、それに、二度と学校で会えなくなるかもしれない。

 だから、私は眠りの中で彼女と同じ姿形のものを作り上げて愛でる。現実と言う檻の中で触れられない、彼女を、純粋培養させてもっと私好みにした彼女を。

 できることならば、現実でも話しかけたい。

 気楽に、何かを語りたいと思う。

 だけど、それをすることは……現実ではできない。


 ふと、目を開ける。

 月の明かりで微かに天井が見える。枕元にあるスマホに触れると、部屋の中が少しだけ明るくなる。

 目を細めながら、時間を確認すると、夜中の1時だった。

 スマホを放って、また目を閉じる。

 彼女のいる世界に行きたい。けれど、時間を見てしまった手前、明日の予定が目の前で踊る。

 そういえば、明日は放課後に一番苦手なあれがあるのだった。

 もう一度目を開けて、天井に向かって呟く。





「職員会議なんて意味ないんだから、やめればいいのに……」


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