インソムニア

 彼女のすべすべの手、それに触れるだけで私はドキドキしてしまう。


「ねえ、ちゃんと手を握っていてね」

 ベッドに横たわる彼女のその言葉に、適当に返事をすると、強く手を握られた。

「ちゃんと、返事してよ」

 暗闇に目が慣れ、その瞳がこちらを見ているのがわかる。

 満月の様なその瞳を見ながら、私は「はいはい」とだけ答えた。

「そうやって誤魔化してもダメだからね!みっちゃん、三日前に自分から『寝る時、ずっと手を握っていてあげる』って言ったんだから!」

「そうだけどさ」

「言い訳はダメ!今日はこのまま寝てもらうよ」

「え~……」

「はい、おやすみ!」

「えー……」

「ちゃんと『おやすみ』って言って!」

「……おやすみ」


 私の手を両手で握りながら、彼女は瞳を閉じた。

 仰向けに寝て、暗闇の中にぼんやりと見える天井の木目を視線でなぞる。

 シンとした部屋の中、聞こえるのは、自分の心音。

 彼女のすべすべの手、それに触れるだけでドキドキしてしまう私は、多分今日も眠れない。

 幸せそうに隣で寝息を立てている彼女に、ちょっとだけ腹が立ったので、頬を指でぐりぐりとしてやった。

 その柔らかさがまたかわいくて、私の心音は二倍になった。

 私はバカだ。

 多分、今日は昨日以上に眠れない。


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