私を殺して
「ねえI……貴女、私を殺してくれる?」
Sはいつも唐突に何かを言うけれど、今日はいつもよりも唐突さが増していた。
あまりの突飛な発言に、私は呆れながら返す。
「お断りよ。なんで人を殺さなきゃいけないのよ」
「……そっか」
そう言ったSの顔は、どこか寂しげだった。希望を奪われたかの様な表情で、天井を見ながらぼんやりとしている。
「何が言いたかったの?」
私のその言葉に、彼女が答える。
「昨日読んだ本にあったんだ。一番の幸せは、愛している人に殺されることなんだ、ってさ。だから、ね」
力無くSが笑う。
愛を語るには十代の私達はまだ若過ぎると、世間は言う。けれど、今だからこそ出来る愛があると、私達は思っていて、そのズレがもどかしくて、苛々を募らせる。
Sの考えは間違っているのだろうか。
私は間違っていると思う。
―――『今は』
『愛してる人』なんて言われて、心の中では混乱しているくせに、表向きは冷静なフリをしている。
まだ、その言葉を自分の中で消化しきれない内は、彼女を殺すことなんてできやしない。
私はSを抱き締める。
「今はダメ。だけど……」
Sは首筋に歯を立てると、小さな悲鳴を上げて、私に抱き付いた。それを無視する様に、そのまま鎖骨まで歯を滑らせる。Sは呼吸を荒くして、抱き締める力を強くした。
口を首から離した直後に、滑った後からじわじわと血が滲み出て、少し付いた唾と混ざりあい、そして、すぐに乾いた。
「痛いよ、I」
そう言って首筋を押さえるSを、私はもう一度抱き締めた。
「だけど……いつか必ず殺してあげる……。その時まで、その傷を忘れないでいて……そうしたら……」
Sは腕の中で頷く。
胸に、温かな涙が服に沁みていくのがわかった。
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