手を洗うのは、君の為

「寒い」

 隣で寝ようとしている弓枝がそう言う。

 確かに今日は寒い。

 私も布団を4枚も重ねているが、寒気のやつは隙間を見つけて入り込んでくる。

「ねえ、寒い」

 もう一度、今度は少し強い口調でそう言う。

 それを無視して、私は手を洗いに行った。

 うんと冷たい水で手を洗い終え、彼女の布団に入る。

「寒い?」

「うん」

「じゃあ、もっと寒くしてあげよう」

 弓枝の頬に手を当てる。一瞬の沈黙の後、彼女は悲鳴を上げて布団の中でバタバタと動き回る。

「寒い寒い寒い!」

「うふふふ、私はあったかいなあ」

「鬼鬼鬼~!」

 こんなバタバタも、ものの10分で終わってしまう。

 だけど、こんな短い時間に幸せを感じる。

 特に彼女が悲鳴を上げる部分なんかは、最高だ。

 明日も、私は寝る前に冷たい水で手を洗うだろう。

 でも、彼女も……懲りずに『寒い』って言ってしまうのだろう。

 いっそのこと、ずっと冬でもいいかもしれない。

 そんな阿呆な事を考えながら、私は徐々に温まる手に幸せを感じていた。

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