自由の刑#3



「結局、戦ってましたよね」

 精神的衝撃から回復したスミレが、開口一番苦言を述べる。幻想兵装を解除した梁人は振り返って彼女の様子を確認すると、「大丈夫そうだな」とだけ言って再び歩き出した。その後をスミレは慌てて追った。

「最上さん、今のがVIA……いわゆる幻想兵装ってヤツですか?」

「そうだ。原始精神体──いや、今は精神体じゃないから原始生体とでも呼ぶか。ヤツらに通常兵器は効かない、加えて殺しても死なない」

 言って地面に転がる羽人間の死体を梁人が見やる。スミレも同様に視線を向けながら「じゃあコレがまた……?」と不安げに聞き返した。

「いや生き返らない。僕のVIAの能力は〈不可逆の死〉、つまり死なない存在すら殺せる力だ」

「なんですかそれ、よく分からないけど凄い力ですね……」

 スミレは先刻見た梁人が生成していた黒い鉄棍を思い浮かべて、あんなどこかの工場とかホームセンターにでもありそうなモノにそんな力が宿っている事に驚く。その間に、梁人はスタスタと前へと進んでおり、スミレはまた彼の後を慌てて追いかけた。

「で、でもそれがあれば〈赤頭巾〉とも戦えるって事ですよね。それならそうと早く言ってくださいよ!」

「……そうだな」

 間を空けて梁人が微かに頷いた。



 二人が更にトンネルを進んでいき、十五番の看板が壁に見え始めてきた。目的地が近い事が分かってくると、スミレの中に途端に緊張が生まれた。

「最上さん、本当にこの先に赤頭巾がいるんですよね……?」

「さぁな。連中はどうやってるのか知らないが、神出鬼没だ。具体的な目的すらも不明。分かっているのは連中が羽海野有数を崇めている事と────」

 その先を梁人が言い淀んだ。

「いる事と? もう一つはなんですか?」

「お前には関係のない事だ」

「はぁ──!? それはどういう事ですか!?」

「無駄話は終わりだ」

 言って梁人の視線がスミレの背後に向けられる。そこには地上へと繋がる梯子がしん、と吊り下がっていた。梯子は使用感の薄い錆の少ない金属製で、繋がっている先は目的地である十五区のどこかだ。二人は梁人を先頭に梯子を上がっていく。途中で、梯子を覆う様に縦長のトンネルが見え始めると、梁人が懐中電灯を咥えて先を照らした。暗い中を上へと向かって登っていくと、梁人が止まりスミレも止まる。

「開けるぞ」

 梁人が言って、梯子の最端に着いたのだとスミレは理解する。重そうな鉄の蓋を梁人が軽々と片腕で押し上げた。

「ここが第十五区か」

 地上に上がった梁人が周囲を見渡してスーツに付着した埃を払う。後から出てきたスミレは半身だけを出した状態で、状況を確認し自らの目を疑った。

「な、なんですかコレ……どうなってるんですか……!?」

 

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