眼の眩む夜#11
『あれはわたしだった』
そう述べたアリスの意図を探して、梁人は脳内の情報を整理する。
アリスは羽海野有数の左眼球を
直感で、梁人はアリス以外にも羽海野有数の
もし、本当にそんな人間がいるのなら、犯人よりもはるかに危険な存在だ。
梁人は、何も無い中空に向かって、
「今すぐ羽海野有数に確認してください。我々以外にも身体部位を持つ勢力がいる可能性があります」
◆
声は、恐らくこちらをモニターしているアラバキ管理官に届いているだろう。
心理課の指揮所は常に〈犯人〉と梁人達をモニタリングしているが、L.O.Wへの介入は方法が限定されているせいで、梁人達が外の状況を知るのは難しい。
今はとにかく、能力核の破壊が最優先だ。
アリスが不意に、梁人の腕に触れてきた。
「梁人、次が来るみたいだよ」
ろくに考える暇もないな、と梁人は眉根を寄せる。羽海野の遊戯は常に余裕や心を削る様なやり方をしてくるが、同時に遊戯の本質でもある。
その悪辣さに耐えた先に、ヤツは必ず答えを用意している。
梁人とアリスは戦闘体勢を取った。
◇
「これで、三体目だね」
瞳から真紅の光を消したアリスが呟く。その傍ら、梁人は額の血を拭って梁人が肩で息をしながら頷いた。
「……名前は?」
エスティカレン・セブン・シンスの名を持つ〈ゴースト〉同様、その後に討伐した二体の名はアリスだけが観測し、記憶している。
「ビムウェル・シックス・シンス、
ガーリオン・フォース・シンス……やっぱり名前に関連性があるみたい」
名の関連性、梁人はそう聞いてそこに作為的なモノを感じざる得ない。
そうだ、隠す事のない作為。
乱雑に積み重ねられた規則。
これが単なる遊戯である事を改めて思い知らされる。
「明らかに割り振られた番号だな。普通、ここまで規則的に原始精神体の名前が揃う事なんてないだろ」
「そうみたい。だってホラ」
アリスの指が廊下に並んだ絞首台を指した。ここに招かれた際にはただ絞首台があるだけだったが、七つあるうちの三つに奥で鎮座する首吊り石像と同じ様な首無しの石像が出現していた。
新たに出現した石像には、天使の羽の様な装飾品が付属しており歪な神秘性を醸し出している。
「七か……七はあまりいい数じゃないね」
◆
少女には似つかわしく無い神妙な面持ちで、アリスが呟いた。
「七って数字はさ、単なる数字じゃないと思うんだよね。色んな意味が付随してくるじゃない? 分かりやすいところで言えば神様が世界を作ったのは七日間とか……それに七大天使みたいなのもあるし……」
「何が言いたい?」
「意味が強すぎる、かな。それぞれが大きな意味に直結しすぎてる。今回の事件は
想定してるよりもずっと慎重に対応しないとかも」
「そうは言っても、放っておく訳にもいかないだろ」
梁人の視界にノイズが走り、敵の出現を知らせる。再び、廊下の奥に歪な影がこちらを窺っていた。
「こうして敵はやって来るんだ、どちらにせよ倒すしかない」
見据えた先に現れた影は、黒から実体へと推移して怪物となる。だが、怪物が襲い来るよりも速く、アリスは真紅の光を残して大鎌を振るっていた。
大鎌の通り過ぎた後には光の粒子だけが、散っており、怪物の姿は既に消失していた。
「今のはどうだった」
「ラスティエ・スリー・シンス、つまり三番目ってことかな?」
◆
アリスの視線が廊下に並んだ絞首台に移り、そこに新たな首無し像が増えているのを梁人も確認する。
着実に何かの条件を満たしつつあるのは明白だ。だが、何もかもが曖昧だ。
本当にこれでいいのか、という疑問。
迷いが自分の中で生じている事に、梁人は気付きつつもそれを振り払った。
「揃った時、何が起こるか……か」
鎮座しているだけの首吊り石像を見やり、梁人は思う。
いずれにせよ、倒し続けるしかない。
羽海野有数が何を企んでいようと。
「梁人、次が来る」
戻れない道を進んでいる様な違和感が付きまとうのを押し退けて、梁人はアリスと共に敵を見据えた。
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