眼の眩む夜#8
首を吊った石の人体模型というあからさまに奇妙な存在が、色の無い瞳で梁人達を凝視している。
「回廊が変異した……!? とにかく梁人、VIAを構えて!」
分かりやすいモノを除外して、石の人体模型について梁人は思考を巡らす。
首を吊っているという事から、恐らく〈犯人〉の原型となった人物は自ら命を絶とうとした。だが、石の人体模という特徴的な心象は、そこに不自由さや意思の喪失、或いは固い意志の現れを象徴しているのかもしれない。
そこまで考えたところで、梁人が横目でアリスを見やると、丁度アリスと視線が交わった事で、アリスが自らの考えを述べた。
「現実にいる〈犯人〉の特徴を考慮すれば、あの首吊り彫像の特性はハングドマンだと見て良いと思う。それに、多分
能力の核。つまりはアレを解体すれば、現実の〈犯人〉は機能停止する。前回は幾度か回廊を巡ってようやく発見、といった流れだったがどうやら毎回同じという訳でも無いようだ。
棒状のVIAの先を
「ならアレをぶっ壊せばいいか?」
それなら簡単で良い、と梁人は思ったが、それはアリスが首を横に振った事で却下された。
「今の〈
アリスの言う通り、梁人の扱う
その前提条件が〈
どんな対象であれ、死の概念を付与し破壊する力だが、対象の名前を知らなければこのVIAは単なる長い棒でしかない。
ならどうする、と梁人が口にする前にアリスは更に言葉を続けた。
「
周囲を見渡すアリスの目が赤く灯り、少女は何かを見つけると同時に、梁人に告げた。
「
少女の声を聞いて、梁人は再度死神の鎌の柄を構えて、戦闘体勢へと移行する。
その時、梁人は状況──つまり、羽海野有数の仕組んだ
「アリス、ヤツの考えている事が分かった」
その発言を聞いたアリスは驚いた表情を梁人へと向けた。自分自身のクローンだと言うのに、アリスと羽海野有数はお互いの思考を理解しきれないという特徴がある。だからこそアリスはアリスであり、羽海野有数は羽海野有数と別存在として扱われていた。
梁人が心理課として招集された要因もそこにある。
「ヤツって羽海野有数の事だよね? どう言う事?」
「単純だ。ヤツは今回、こちらの力量を測ろうとしている。だから────」
瞬間、視界がチラつくのを感じ、梁人の身体が一瞬強張る。アリスも同様にひりつく気配を感じて視線を正面へと向けた。
◆
「ちっ」
「来るよ────!」
アリスが告げると同時、それは姿を現した。
薄い膜の様な物を頭から被り、細い足首だけを膜の切間から覗かせた人型の怪物は、小さな声の様な音を発してゆらゆらと梁人たちの方を向いた。
アリスは歪形の精神が現れるなり、即座に梁人に忠告した。
「あれは〈ゴースト〉。大した殺傷力は無いけど、変異したら回廊を破壊するほどの精神生命体になるかもしれない……だから少しの間だけ時間を稼いで」
「VIAで破壊する訳にはいかないのか?」
「ダメ。とにかく時間を稼いで。その間に私が〈ゴースト〉の名前を抽出するから、そしたら破壊して!」
「分かった」
名前の抽出。それは羽海野有数には無い、アリスの権能だ。L.O.Wには〈犯人〉に由来する精神世界〈回廊〉、その核を成す〈特性〉、そして回廊内を徘徊する化け物〈歪形の精神〉が存在している。
アリスの眼にはそうした化け物の名前を見通す能力がある。羽海野有数によって複雑に変異し、隠匿されている〈犯人〉には通用しないが、L.O.Wに原生している
アリスが時間を稼げと言ったのは、この歪形の精神の名前を暴くのに多少時間を要するからだろう。梁人はVIAを構えて、〈ゴースト〉の動きに注視する。
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