眼の眩む夜#7



 警視庁の地下には特別収容階層というフロアがある。地下は全十階層から構成され、地下五階から下は羽海野有数ただ一人を収容する為の施設となっている。


 そして地下一階、そこはL.O.Wの中にいる最上梁人、加えてアリスの支援及び行動把握の為の司令室となっていた。


 

 ◇



「最上心理監察官、第一の手がかりファースト・ハンズの回廊に入りました。映像、来ます」


 若い男性オペレーターの声を聞いて、アラバキは巨大な二つのモニターの内、左側に映し出された最上梁人とその傍らに幽霊の様に朧気に浮かぶ白い少女の姿を認識した。


 二人は石造りの回廊にいた。ギリシャの神殿を思わせる静謐で、荒涼とした印象をアラバキに抱かせる。


「これが〈犯人:首吊り〉のL.O.Wか。いやな静けさだな」


 奇しくも梁人と同じ感想を述べて、アラバキはもう一つのモニターへと視線を移す。そこには燃え上がる無数のビルディング、爆発する乗用車、瓦礫の山────何も無い宙空から伸びた何本もの輪っかの付いた縄。

 〈犯人〉の周囲には、何体もの首吊り死体が浮いており、対処にあたる〈サイコフィジター〉の隊員達の幾人かの首吊り死体も混じっていた。


「サイコフィジター部隊、〇三と〇七の生命反応途絶ロスト。〈犯人〉のオーバーライト反応検出しました」

 

 女性のオペレーターが淡々と述べ、更に一二、〇六と途絶ロストの報告が続いた。


「直接戦闘が無意味なタイプか」


 呟いてアラバキは管理官の席に備えられているマイクの電源を入れて、サイコフィジターへと指示を飛ばした。


「監察官がL.O.Wに入った。これより〈犯人〉の解体フェーズへと移行する。現在の被害はどの程度か報告しろ」


『了解。被害レベルいち。人命のみを対象とした〈犯人〉の為、市民の避難を優先します』


「よろしい。以降の指揮はカラス、お前が執れ」


 カラスと呼ばれた通信相手が『了解』と応えるのを聞いてアラバキは通信を切ると、再度L.O.W内を映すモニターに視線を戻した。同時、オペレーターのひとりが声を上げた。


「回廊の情報が書き換わっています──これは……」


 困惑するオペレーターの声を聞きながらアラバキだけが、事態を察して忌々しげに言葉を漏らした。


「……罠か」


 羽海野有数が易々と〈犯人〉の解体に協力する訳が無い。それは恐らく監察官も理解しているだろう。アラバキがと口にした理由は別にあった。


(我々の集めた手掛かりは間違いなく〈犯人〉のものだろう。だが────)


「回廊が……完全に切り替わります!」


 逡巡する思考をオペレーターの声に掻き消され、アラバキは静かに告げる。


「羽海野有数に繋げろ」




 

 

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