眼の眩む夜#4
黒電話を取ると同時、梁人の視界に激しいノイズの嵐が奔り、直後──世界が切り替わる。
◆
視界が定まると、また別の場所に立っている事を認識して梁人は周囲を確認した。
「ここは?」
十畳ほどの一室内には、乱雑に積み重ねられた姿見の残骸の山、周囲に散らばる無数の鏡の破片。それと部屋の片隅には一般的なサイズのシンプルな水槽が置かれている。
こうした異質な雰囲気は、ランド・オブ・ワンダー内では至極ありふれたものだが、それでも奇妙な空間である事に変わりは無い。
梁人は、数秒の思考を経た結果、水槽へと足を向けた。
水槽はエアポンプの機械が取り付けられ、上からUVライトの紫光が注がれている。梁人が観察していると、水草の陰から一匹の熱帯魚がゆらりと現れた。
「こんな所に熱帯魚か……?」
全体的な色は赤と黒、特に尾鰭と背鰭は眩い程の赤色を放っており、およそ現実でこんな魚を梁人は見た事が無い。
『どうやら成功したようだな』
梁人の頭にどこか聞き覚えのある声が響いた。低音で威圧感のある声音、すぐにそれがアラバキのモノだと気付き、梁人は周囲を見回した。
『どこを見ている。こっちだ』
声が再度響き、梁人の視線は水槽へと向けられた。水槽の中には、悠然と泳ぐ赤と黒の禍々しい熱帯魚が泳いでいるだけだ。しかし、よく見れば魚の目玉だけが、ぎろと梁人の方を見ていた。
「まさか」
屈んで水槽に顔を近付けると、熱帯魚が呆れた様にため息を漏らした。
『はぁ。シニガミ、お前に私の姿がどう映っているのかは知らんが、反応を見る限りおよそ人の形はしていないのだろうな』
「端的に言えば魚の姿をしています」
『魚──魚か。羽海野にとって、私はその程度の認識という事か。忌々しいバケモノめ』
「あまりヤツの思考について考えるのは避けた方がよろしいですよ、アラバキ管理官。ヤツの中身は────」
『……よせ、分かっている。それよりも、今立っている部屋は我々が
「了解しました。ところで、外界の方はどうなっていますか?」
『〈犯人〉は現在、都市第一七区画で〈サイコフィジター部隊〉が抑え込んでいる。とは言えお前の働きに掛かっているのは変わりない。時間は限られているのだ。お前に与えられた任務は部隊が壊滅し、〈犯人〉の手が羽海野有数に届くよりも速く〈犯人〉の精神を解体し無力化する事だ』
「言われずとも分かっています」
『この通信を終了した直後、お前は先ほどのバックルームへと戻る。VIAの再抽出が済んだのならすぐに〈犯人〉の解体に取り掛かれ』
「了解」
『では、通信を終了する』
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