眼の眩む夜#3
トレイの上に置かれた一粒だけの銀色のカプセル錠剤を呑み込んで、梁人は三つのドア一つずつを確認した。
扉にはそれぞれ、
『ギルト・ギャラリー』
『ロッカールーム』
『霊安室』
……と、纏まりのない言葉が刻まれている。部屋全体の金属的な無機質さとは違い、癖のある手書きの文字だ。誰が書いたのかなど、梁人は知る由も無いが同時に知る必要も無いと意識から外す。
ロッカールームへと移動した梁人は、記憶剤によって隔離保持されている『VIA』の再抽出を開始した。部屋には天井の高さ程もある大きな培養槽があり、扉の開いたままのいくつかのロッカーから用途不明のコードが束になって培養槽へと繋がっている。
それらコードの内の一つさえ、意図も用途も不明だがこの機械の扱いだけは梁人は理解している。
何十或いは──
試験管の中身は小さな幾何学的な何か。
四角形を循環させる奇妙な物体は、ビスマスの鉱石によく似ていた。
梁人がその試験管を中央の培養槽に備えられた挿入口に挿し込むと、機械は自動的に稼働を始める。
『論理循環開始』
そんな機械音声が培養槽から吐き出されたのを聞いて、梁人は培養槽へと視線を動かす。
先程、試験管の中にあった
『
二度目の機械音声が吐き出されると、二メートル近いサイズになった幾何学物質が循環をやめて変形を開始した。
『
最後の機械音声を聞いて、梁人は培養槽のガラスへと手を伸ばした。すると、まるで水面の様にトプンと梁人の腕はガラスの内へと入り込んだ。培養槽の中には、先端から終端までが真っ黒な一切の歪みが無い棒状の物体が出来上がっていた。
未知の材質の触感を確かめて、梁人はその漆黒の棒状物体を培養槽から引き抜く。
ここで扱われるVIAとは、いわゆる武装の概念に当てはまっている。
精神の特質を凝固させた、この世ならざる武器、VIAはvide・idea・armisの頭文字を取った略語だと、前回の面会の際に、梁人はアラバキから聞かされていた。
(……とは言え、まだこいつには分からないところが多すぎる。前回はたまたま上手くいったが────)
じりりりん。じりりりん。
「……考え事は後回しだな」
梁人が大方の準備を終えたタイミングを見計らってか、黒電話が鳴り出し梁人の意識を引き戻した。
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