もらい煙草

 「かんぱーい」


 12月。クリスマスに忘年会、仕事納めに大掃除や親戚の集まりと、みんなが走り回る月。いつも理由を探しては騒いでいる大学生たちは、クリスマスや忘年会にも飛びついた。

 大学生4年目の冬、何かに追われるように大きなクリスマスパーティーや忘年会ばかり年末に計画した私達は、3人だけではやめの忘年会をしていた。


 お祭り騒ぎが好きな友人と、ノリのいい友人。常に何かの理由を探している私と、仲良くなるのははやかった。お花見、バーベキュー、お祭り、海水浴、花火、思いつくことは何でもやった。どれも計画は3人で、ただ、3人だけでわざわざ会うのはこれが初めてだった。

 春になると二人の友人は東京へ行く。私には東京で就職する理由はなかった。


「走りきったな、大学生」


 なんとなくもう会わない気がして、今までの話をたくさんした。

 お花見の場所取りの為に、みんなで前日から近くの友人の家にお泊りをしたこと。友人が黒いおじさんのウイスキーを出してきて、誰も朝起きることはできなかった。

 日帰りでのバーベキューだったはずが、帰宅が翌日の夕方になったこと。黒いおじさんに取り憑かれている友人が買い出し班になってしまった。

 公園でピクニックをしてから紅葉の名所へ行くはずが、閉園時間を過ぎてしまったこと。お弁当担当に黒いおじさんがいた。

 クリスマスに女の子に告白をするつもりだったお祭り騒ぎが好きな友人が、当日女の子含めてイブにあったパーティーの2次会に巻き込まれたこと。クリスマスプレゼントに、赤い帽子を被った黒いおじさんが紛れ込んでいた。

 黒いおじさんに呪われた大学時代だった。


 お祭り騒ぎが好きな友人は、別の日に二人きりで告白を成功させたらしい。どこか高校生の延長のような遊び方をする友人たちの中で、唯一のカップルだった。そのカップルも、就職活動を経て別れていた。


「煙草平気?」

「いいよ。匂いは好き」


 就職活動で会わなかったこの半年で、ふたりとも喫煙者になったらしい。お調子者な先輩の影響だろうか。騒いでばかりだった友人たちが煙草を吸っているのが新鮮で、なんだか少し大人に見えた。

 依存性や身体への影響も考えると、私には吸う理由はなかった。


「かわいい先輩とはどうなったの」

「別れたね」


 かわいい先輩と付き合っていたノリのいい友人も、いつの間にか別れていたらしい。最近SNSでツーショットを見かけなくなっていた。すぐふらふらとするノリのいい友人に、面倒見のいいかわいい先輩はもったいなかった。大人な人と幸せになってほしい。


「束縛彼氏は?」

「さよならした」


 大人な遊び方をしている友人を近くで見ていた彼氏は、子供でいたい私たちを受け入れられなかった。彼氏の友人と私たちでは、お酒を飲んでするゲームが違った。私たちがいつも集まる家には家庭用ゲーム機があった。


「こいつはどうなの」

「ないかな」

「即答すんなよ」


 今まで友人たちをそういう目で見たことがなくて、思わず笑ってしまった。


「そういうところだぞ」


 余計なお世話だ。笑うとのどが渇いて、一気にワインを飲み干した。


「煙草、一本いる?」

「もらおうかな」


 ワインのなくなったグラスが寂しい。なんだか吸ってみたい気分になった。


「咥えて息吸って」


 肺まで入ってきた煙にむせて、二人にくすくすと笑われた。


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徒然 よしだはる @44da_

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