第7話

「蝶々みたいな髪型にしとくれよ」

 初めて会った日、彼女はそう言った。

「蝶々みたいって……どんな結い方です?」

「姉様たちがやってんだろ。こう……二つに分かれてて」

「……こうですか?」

「全然違う!お前さん、髪結いのくせにそんなことも知らねえのかい」

「仕方ねえでしょう、これまで野郎の髪しかやったことねえんだ」

「ふうん、じゃあ、精進するんだね。あたしは花魁になる女だから」

「花魁って、新造になったばっかりなのに」

「うるさいよ、とっとと結いな」

 

 息の凍る冬の朝、手を合わせて、橘の木を見上げる。凛とした空気の中、蝶が一羽、甘酸っぱい香の漂うように、悠然と羽ばたいていた。

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橘と蝶 絵空こそら @hiidurutokorono

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