第47話 Eveとルーガス

sideルーガス


「はぁ…………」


日も暮れてきたので、そろそろイヴを家まで送り、宿屋に帰る途中の俺。


「………何が勇気を出せだよ、もうすでに手遅れじゃないか………」


焼きそば屋のおじさんの言葉が脳裏に思い出されるが、もうすでに婚約者がいたのだ、あの時点で勇気を出そうが出さまいが後の祭り、後悔する運命しか俺にはまっていなかった。


「いや、あの時、イヴが『I』だとわかった時に、想いを伝えれば、もしかしたらチャンスがあったのかもしれないな」


………おじさんに責任転嫁する自分自身がひどく滑稽に感じた、誰の責任でもなく俺自身が招いた結果だ、潔く諦めるしかない。


「………クソ………」


……何だかよくわからないが、胸が痛い、目頭が熱くなっていくのがわかる、涙が滲み、元々薄暗い夜道だったが、さらに視界が歪み、周りにある物が何かわからなくなっていく。


「ーーーーなっさけないッッッ!!!あなたそれでも人狼族なの??!」


「ーーーッッッ、る、ルフッッッッ??!!、お、お前先に帰ったんじゃなかったのかよッッッ??!!」


不意にルフが現れ罵倒する、俺は慌てて涙を拭う。


「え?、い、いや、……気分転換に散歩してたら偶然アンタがいたから声かけただけっていうか……べ、別にアンタ達を後ろから尾けてたとか、そ、そんなんじゃないんだからねッッッッ\\\\」


「……尾けてたんだな、一緒に回ればよかったのに……」


先に帰ったと思ったが、ルフは俺とイヴの食べ歩きを後ろから尾けて、観察していたらしい。


「ーーーーッッッッ私の事は良いのよ!!、何??!!、好きな女に婚約者がいた程度で諦めるわけ??!!」


「……だって、相手は王子様なんだぜ?、一兵士の、獣人の俺なんか、相手にならない………月とスッポンだ……」


「だってもへちまもない!!!ダメだとわかっていても、想いをぶつけてみなさいよ!!、男でしょ??!!」


「………」


「ここで告白しなかったらはアンタは一生後悔する!!、断言してやるわ!!」


「………」


「それで何もかも手遅れになってからまた一人で泣くのよ!!!」


「ーーーーッッッッ…………そう……だな……そうそう簡単にこの国に来れないしな……ダメで元々……やってみるか……」


そうだ、さっき後悔したばかりではないか、あの時想いをぶつけておけばと………数秒前に悔いた事を再びやろうとする自分の愚行に気づき、ルフに、いや、自分に言い聞かせるよう、勇気を奮い立たせるように呟く、


「フン、わかれば良いのよ」


「俺、今から告白してくるよ」


俺はルフに尻を叩かれ、覚悟を決める………何の勝算もないが、それでも男には引けない時がある、引いちゃいけない時がある、今がその時とルフが教えてくれた。


「あ、そういえばこれお土産」


「何これ?」


「ベビーカステラ、甘くて美味いらしいぜ………ありがとうなルフ」


「その言葉は成功した時までにとっておきなさい」


俺はルフにベビーカステラが入った紙袋を手渡した後、イヴの家へと走る俺。


「……どこが甘いのよ、めちゃくちゃ塩っぱいじゃない」


…何かをルフが呟くが走る俺の耳には届かなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イヴ視点



「にしてもさ、きみたち天使と悪魔の力って私に渡すと貴方達が弱体化しちゃうから受け取り辛いんだよな~」


「す、すみません……」


「まぁ、帰ってきたら面倒くさい家事全般終わってるのは便利だから良いけどさ~」


家に帰った後、賑やかすぎる夕飯を食った後、皿を洗う私。


「満腹満腹」


………レクスもなぜか私の家にいる、いやまぁ、婚約者?、側室候補?、な訳だから別にいても良いとは思うけど………。


「食い終わったなら自分の皿は自分で洗ってよね、レクス」


「なぜ王たる我が皿洗いなどせねばならん」


「………実は私、家庭的な男が好きなんだよね~」


「任せておけ!!、何なら洗い場に出ているすべての皿を洗ってやろう!!」


「わぁ~、カッコいい~」


食ったあと寝転がるレクスに自分の皿ぐらい洗えというが、予想通りの返答が返ってきたので、対レクス最強の切り札を出す、すなわち「~な男が好きなんだよね~」だ、大体これを言っておけばレクスはいう事を聞く。


「うん?、誰か来たみたい、ちょっと出てくるわ」


呼び鈴が鳴ったので玄関へと移動する私。


「よ、よう」


「あれ?、ルーガス?、どうしたの」


「あ、いや、その…………」


「よくわかんないけど、なんか話あるならここじゃ何だし、上がる?」


「……中に人はいるか?」


「居候がひーふーみー……たくさんいるね」


「それなら、ちょっと外に付き合ってくれないか?、二人きりでしたい話なんだ」


「おけ、みんな、私外出るから後の片付けお願いね~」


適当に居候達に指示を飛ばした後、ルーガスについていく私。


「……それで、何の用なの?」


「昼間、相談した俺の好きな相手の事だ」


「え?、何々、進展あったの??!!」


「………これから進展するかもしれない」


「へぇ~♪やるじゃん、今度は何を相談したいの?、私に出来る事なら手伝うよ」


「………これ、お前に返す」


「へ?」


彼の恋が進展しそうと報告され、胸が熱くなる私、乙女と化した私にルーガスは自身の首から認識票を外し、私に投げる、不意に投げられたので反応しきれず落としそうになるが、なんとかキャッチする。


「か、返す?」


「……よく見てくれ」


よくわからないが、ルーガスの言う通り、渡された認識票を注意深く観察する私………。


「あ、この頭文字って、Iじゃないの?、なんか横線入ってるけど……」


「ああ、おそらくEが擦れたんだろうな」


「それに何だか………昼間見るより前に、これを見覚えがある気がする……ね……」


「…その認識票はお前のだ」


「え?、て、てことは……」


「………俺が好きなのは『Eve』、お前だ」


「へ?」


私はあまりの事実に間抜けな顔と声を晒す。


「な、何で私なんか……」


「アンタが俺の、いや、俺達の命を救ってくれた、たった一人で俺達の退路を確保してくれた、あん時から俺はアンタが好きだったと思う………惚れない方がおかしいだろ」


「え、で、でもほら、ルフ様と付き合ってるんじゃないの?」


「だから何度も言ってるだろ、ルフとは何にもないって」


「え、えー、まじか~」


「……王子様と別れて俺と付き合えなんて図々しい事を言うつもりは無い…………気持ちを伝えたかっただけだ……じゃあな」


「待って!!」


「……何だよ、フった男に期待を持たせるのはやめた方がいいぜ、それとも俺と付き合ってくれるってのか?」


「えっと君だけと付き合うってのは無理だね」


「だろ、だからーーー」


「でも、側室なら空いてるけど、どうする?」


「…………へ?」


私を好きだと言ってくれるルーガスにダメもとで提案してみる、側室ならどうと聞いてみる、するとルーガスは口を大きく開けて、ポカンと間抜け面を晒す。



「ってわけなんだよ」


「な、なるほど……」


いきなり側室どうの言っても混乱しているだろうから、丁寧に事情を説明する私、頭を捻りながらもとりあえず納得してくれるルーガス。


「男を何人も惚れさせるなんて……もしかしてイヴって悪女なのか?」


「うぐっっっ、ひ、否定しきれ無いの悲しいところ………」


「罪な女って奴だな」


「ま、まぁ、そういうことよ、それで?、どうするの?」


「え?」


「だから、その、ルーガスは……どうするのっていう……」


「ああ、そういう事か………」


半開きな目で私に冷ややかな視線を向けてくるルーガス、居心地の悪い私は多少強引に本題へと話を逸らす。


「………良いぜ、側室で」


「え?、い、いいの?」


「まぁ……全く不満がないわけじゃないが………側室だろうが何だろうが、お前のそばにいられるんだろ?、ならそれで充分さ」


「お、おお\\………」


なんかいきなり小っ恥ずかしい台詞を言い出すルーガス。


「フフッッ」


「何が可笑しいのさ?」


「………お前にも脆いところがあったんだなって……」


「え?」


「だって婚約を破棄されたからまた捨てられるのが怖い………だろ?」


「………うん」


「俺、お前は肉体的にも精神的にも強いと思ってた、だから、弱点もあるんだな~ってわかったらなんか笑えてさ」


「………私を笑うなんてルー君の癖に生意気だよ」


「いつも揶揄われてるからな、これでアイコだ………これからよろしくな、『Eve』」


「………よろしく、ルー君」









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、この戦いが終わったら結婚するんだ〜何年も命懸けで働いて仕送りし続けて、遂に戦争が終わって帰ってきたら婚約者と妹が不倫をしてて婚約破棄された〜 天倉彼方 @taroudati

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ