第4話
「それじゃあ学園内を案内するね」
「いや、いいよ。俺ゲームとかでも説明書とか読まないタイプだし。過ごしてたら覚えるだろ」
「えっ、でも私頼まれたんだけど……校長先生に」
「それはいいから、ちょっと聞きたいことあんだよ。最近、学園で噂になってるやつとかいないか?」
「噂に?」
「そう。例えば転校生とか……は、この学園だと普通か。低いランクのやつが下剋上かましたとか。あとなんかキャラ濃いやつとか」
「そういう話なら確か最近聞いたけど……なんで?」
「そういう奴が大抵『登場人物』だからだよ」
「え、何? 登場人物? なんの? 漫画の話?」
「俗っぽい言い方になったけど、まぁ因縁が収束する個人、みたいなニュアンスかな。そういう奴に引っ付いてると色々話が早い」
「?????」
頭の上に?を浮かべている橘に、そりゃわかるわけないかと恭介は少し考えた。
「ほぼ感覚だから説明むずいんだけど、やっぱこういうとこで必要以上にやる気出せるやつって因縁があったりするんだよな。ここでいえば犯罪組織に親兄弟を殺されてたりとかさ。そういう奴って周りの連中に比べて能動的になれるから、いろんなイベントとか事件に絡めるだろ。俺個人は正直まだまだ情報が乏しくてあんま能動的に動けないから、そういう奴にくっついて話を進めていきたいわけよ。わかった?」
「…………恭介くんが、能動的に組織に立ち向かいたいって気持ちだけは伝わったよ!」
ぐっとサムズアップする橘だったが、恭介には特に責める気持ちもない。恭介自身も前置きしたが、彼の経験上の感覚の話だし、説明能力に自信があるわけでもなかったからだ。
「で、あるんだよな。そういう噂」
「えっと、ランクってFまであるんだけど、最近Fの子がBの子を倒したって噂、聞いたよ。確か二年生だったって」
「なるほど……いかにもって感じだな。取り敢えずそいつに当たってみるか」
噂になるくらいだ、そんなに捜すにも苦労はないだろう。
「ちなみに橘はランクどれくらいなわけ?」
「…………………………内緒」
外に出ると学園に来て早々目についたように、線で区切られた敷地の中で生徒たちが
「おー、やってんなぁ。黒髪黒目……は、まぁ日本だと普通だけど。武器は刀だし、『主人公』っぽいなー、あいつ」
「主人公? って?」
「まぁなんか一番物事の軸になることが多いやつのこと、そう勝手に呼んでんだ」
「へー、それでどうするの? 闘う? ランクはEだって、観客の子が言ってたけど」
橘が言うには、基本的にランクが下の人間が上の人間に挑む試合は断れないのが慣習らしい。校長曰くBランク相当の恭介だったがそれは学園内の公式ではないため、今は最下層のFランク。挑めば断れるものではないようだ。
しかし恭介は頭を振る。
「いや、ここで勝ってあいつの目的とか頓挫させちゃうと面倒くさそうだな……ここはあいつを認識できたことを成果として、他になんか……そうだな、校内の団体とかない?」
「団体? なら生徒会とか委員会系とか……あと、アウトローかなぁ」
「アウトロー?」
なにやら物騒な名称に恭介が聞き返すと、橘は少し声をひそめた。
「正確に言えば団体でもないんだけど、学園って良くも悪くも強制的だから、受け入れられなくて反体制になっちゃう子もいるんだよね。人数もかなりいて、中には強い子もいるって話で先生たちも手を焼いてるみたい」
「なるほどな。よし、プランOでいこう」
「なに、それ?」
「『アウトローぶちのめして生徒会からの関心いただき大作戦!!』」
「ダサいし長っ!」
アウトローがたむろしているという校舎裏は薄暗く、良く手入れされた校舎とのギャップもあってその負の面を強調させているようだった。
日が当たらず年中湿っているような柔らかい土を踏みしめながら、前は前へと進んでいく。
「リーダーが一番強いってわけでもないみたいだけど、リーダーのランクはCだって話だよ。もっとも、アウトローになってからはランクは上がらないから、今はどうかわからないけど」
「肩慣らしにはちょうど良さそうだな。単純にランクで比べても勝てそうだし」
「それは良いんだけど……ねぇ、本当にやるの? ちょっと怖いっていうかだいぶ怖いっていうかもう帰りたいんだけど私……」
「帰れよじゃあ」
「何かあった時校長先生に怒られるから帰れるわけないでしょっ。なんで流されちゃったかなぁ……」
幾ばくかもあるかないうちにフェンスがたてられているのが見え、その前に男が立っていた。二人に気づき声を張り上げて威嚇する。
「おい、そこのガキと女! ここは俺らのシマだぜ!? 何もしねえから早く帰りな!」
「……ちょっといいやつっぽいな?」
「悪い人ばかりってわけじゃないよ。そもそも無理やり連れてこられて戦えとか言われて……それに反抗してるだけだって考えたら気持ちもわからなくもないし」
「言われてみりゃそれもそうだ。うわぁ流石に気が引けるな……」
もっと傍若無人で人に迷惑かけまくりとかを求めてたので、恭介は肩を落とした。しかし、これでまた引き返し新しいプランを立てるのも面倒だ。プランOのOはOnly oneのOである。
「悪いけどあんたらの頭に用がある。黙って退かないなら実力行使も辞さねえ」
「なんだと……? さては生徒会の頭でっかちかセンコーどもの差し金か? まぁ、いいだろう。俺はここに、なにも見張りで立ってるってわけじゃあねえんだぜ。ウチは来るもの拒まねえ。
男がピュイと指笛を吹く。
するとフェンスの内から数十人の男が現れた。速やかに白線が敷かれ、ギャラリー席が併設される。屋台が建ったかと思えば売り子が「焼きそば、ポテト、アメリカンドッグ~」と客引きし、小銭が飛び交っていた。
「話早すぎだろ!?」
恭介が驚くのもつかの間、フェンスの上に人影があった。
額に青筋を立てた男が地面に降り立ち風を切るように歩きだすと、長すぎる前髪……ポンパドール(一般的にリーゼントと呼ばれる髪型のこと)を恭介の眼前に突きつける。
「
「読みづれぇよ!」
水平にまっすぐ立った全長2mはあろうかという金色のポンパドールを、ゆさゆさと揺らしながらやってきたのは、逆鋭角三角形のサングラスに【我道】と書かれたマスクをした、高身長の筋骨隆々の男だった。
「漢字過多すぎるだろうが! 中国人かテメー!!」
「
恭介は黙って
「
夜魔駄が猛々しく吠えると、その頭の髪を覆うように燃え盛る焔の如きデザインの
「ポンパドールアーマー!?!?!」
「
「よーしわかった、お前馬鹿だな!?」
恭介の罵倒も意に介さず、夜魔駄は自慢のポンパドールをぶるんと振るう。ただの髪……それにそぐわぬ重量感と存在感で、空気が押しのけられブォンと重い音が起きた。
「
にわかにギャラリーが集まり、歓声がわき始める。
それを合図としたかのように、夜魔駄が飛び上がった。
「
「ふっ!」
上段から振り下ろされるポンパドールを、恭介は身を捩り最小限の動きで回避した。紙一重で恭介の眼前を通過したポンパドールは凄まじい勢いで地面へと叩きつけられ、蜘蛛の巣の如く亀裂が走る。
「ダンプ並ってのもフロックじゃねぇな。それ以上かも……」
──しかし、安直なパワー系だ。試運転にはいいだろう。
恭介は瞼を閉じ、外部からの感覚を遮断することで自分の身体に神経を張り巡らせる。
更に恭介はだらりと脱力し、理性的な肉体への信号を遮断。魂の赴く『最適行動』を感じとった。
「“
振り下ろされるポンパドールに、恭介は今度は避けることはせず、弓を引くように腕を引いて籠手による一撃を繰り出した。
衝突。轟音。
拮抗の刹那。
恭介の腕は勢いのままに振りきられ、ポンパドールは上に弾かれてその形を歪ませた。
「
「……! 成る程な。便利な能力じゃねぇか」
間髪入れず、恭介が地面を一息に三度殴りつける。
「
「この籠手が喰らった衝撃は、接した物質を経由して任意のポイントで破裂する……! 『
「
再び飛び上がる夜魔駄だったが、恭介は冷水を浴びせるように静かな声で囁いた。
「悪いな。
籠手のしていない左手をそっとかざすと、振り下ろされたポンパドールを受け止める。ズン、と衝撃が恭介の足元を地面にめり込ませたが、当の恭介はびくともしない。
「ば、馬鹿な!? そんな柔な腕一本で止めやがっただと!?」
「ダンプ程度じゃ百発打っても俺には届かない。役者が違うんだ、俺とあんたじゃ」
夜魔駄は頭を振るが、恭介が掴んだ
「【
恭介が夜魔駄にかざした掌から、直線状に閃光が放たれた。夜魔駄は咄嗟に両腕をクロスさせて身を守ったつもりでいたが、その光が夜魔駄の身体を包み込んだ途端、夜魔駄の瞳はぐりんと上を向き、膝から崩れ落ちた。
観衆がぽかんとし、静寂に包まれた中で、恭介は適当に腕を上げた。
「はい勝ち〜」
誰も発する言葉を持たず、そのあまりに呆気ない幕切れを見つめるしかなかった。
上平恭介は今日も巻き込まれる 〜世界の危機はもううんざりだ〜 @hakka_abura
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